手の震え(手のふるえ)は、さまざまな原因によって引き起こされる症状であり、時には一過性であることもありますが、慢性的な震えが続く場合は、特定の健康問題を示していることがあります。この記事では、手の震えの原因、診断方法、そして治療方法について、医学的な観点から詳しく解説します。
1. 手の震えの種類
手の震えにはいくつかの種類があり、それぞれが異なる原因によって引き起こされます。一般的な種類としては、以下のものがあります。

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静止振戦(静止震え): 手が安静にしているときに発生する震えで、パーキンソン病など神経系の疾患に関連していることが多いです。
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意図的震え: 物を取ろうとする、または精密な動作を行おうとする時に震えが発生します。これは小脳や運動を調節する神経の障害に関連している可能性があります。
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運動震え: 手を動かしている最中に震える症状で、アルコールの摂取や薬物の影響が関与することがあります。
2. 手の震えの原因
手の震えを引き起こす原因は多岐にわたります。ここでは、主な原因をいくつか取り上げます。
2.1 神経系の疾患
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パーキンソン病: パーキンソン病は、静止時に手が震える最も一般的な原因の一つです。この疾患は、脳の特定の部位(黒質)に障害が生じることで、運動の調節がうまくいかなくなることが原因です。パーキンソン病は、震えの他にも、筋肉の硬直や動作の遅さ(運動緩慢)を引き起こします。
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本態性震え: 本態性震えは、原因が不明な場合に発生する震えで、遺伝的な要素が関与していることが多いとされています。若年層や中年層に多く見られ、手だけでなく、頭や声に震えが現れることもあります。
2.2 代謝異常
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低血糖: 血糖値が異常に低くなると、身体が震えることがあります。低血糖は、糖尿病患者がインスリンを過剰に投与した場合などに見られます。症状には震えに加えて、発汗やめまい、疲労感などが含まれることがあります。
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甲状腺機能亢進症(バセドウ病): 甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、代謝が過剰に促進され、手の震えが生じることがあります。これは、心拍数の増加や体温の上昇といった症状と共に現れることが多いです。
2.3 薬物やアルコール
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薬物による震え: 一部の薬物(抗精神病薬や気分安定薬など)は、震えを副作用として引き起こすことがあります。薬の中でも、リチウムや抗うつ薬が震えの原因となることがよくあります。
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アルコール依存症: 長期間のアルコール摂取後に急に飲酒を中止すると、震えが現れることがあります。これはアルコール離脱症状の一部として知られています。
2.4 精神的要因
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ストレスや不安: 精神的なストレスや不安が強くなると、身体が反応として震えを生じることがあります。特に、緊張感が高まる状況やパフォーマンスを要求される場面では、手が震えることが多いです。
2.5 その他の原因
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加齢: 加齢に伴って、神経系の機能が低下することがあります。これは、運動能力の低下や震えを引き起こす原因となることがあります。
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頭部外傷: 頭部に大きな外的衝撃を受けた後、脳の神経回路に損傷が生じ、震えが起こることがあります。
3. 手の震えの診断
手の震えが発生した場合、医師はその原因を特定するためにいくつかの診断を行います。診断には以下の方法が含まれます。
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病歴の確認: 震えが始まった時期や症状の進行状況、他の症状(筋力低下、歩行障害など)の有無を確認します。
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神経学的検査: 神経系の機能を評価するために、神経学的な検査が行われます。反射テストや運動テストを行うことが一般的です。
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血液検査: 甲状腺機能や血糖値など、代謝異常の有無を確認するための検査が行われることがあります。
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画像検査: MRIやCTスキャンなどを用いて、脳や小脳に異常がないかを確認することがあります。
4. 手の震えの治療
手の震えの治療方法は、原因に応じて異なります。一般的な治療方法には以下のものがあります。
4.1 薬物療法
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パーキンソン病の治療: パーキンソン病による震えには、ドーパミンを補充する薬(レボドパなど)が使用されることが一般的です。また、ドパミンの効果を増強する薬剤や、運動機能を改善する薬も使用されることがあります。
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本態性震えの治療: 本態性震えには、β遮断薬(プロプラノロールなど)が使用されることがあります。これにより、震えの程度が軽減することがあります。
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甲状腺機能亢進症の治療: 甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑える薬(抗甲状腺薬)を使用します。
4.2 ライフスタイルの改善
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ストレス管理: ストレスや不安が原因で震えが発生する場合、リラクゼーション法やカウンセリングが有効です。ヨガや瞑想、深呼吸などの方法を試みることが有益です。
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適切な栄養管理: 低血糖を防ぐために、定期的に食事をとり、血糖値を安定させることが重要です。
4.3 外科的治療
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深部脳刺激療法(DBS): パーキンソン病や本態性震えが薬物治療に反応しない場合、深部脳刺激療法(DBS)が選択肢となることがあります。この治療法は、脳内の特定の部位に電気刺激を与えることで、震えを軽減させることができます。
5. まとめ
手の震えは、神経系の障害や代謝異常、薬物の影響、精神的要因など、さまざまな原因によって引き起こされます。震えが続く場合や日常生活に支障をきたす場合は、早期の医療機関の受診が重要です。震えの原因を特定し、適切な治療を行うことで、症状の改善が期待できます。