種類別に見た「振戦(しんせん)」の解説
振戦(しんせん)は、手や足、首などの体の一部が不随意に震える状態を指します。振戦は、神経系に関連する多くの異常が原因で発生し、その種類や原因によって異なる症状を呈します。この記事では、振戦の主な種類と、それぞれの原因、症状、治療法について詳しく解説します。

1. 本態性振戦(ほんたいせいしんせん)
本態性振戦は、最も一般的な振戦の一つであり、特に高齢者に多く見られます。これは、特定の神経系の疾患に関連していない良性の振戦です。手や腕、頭などに最も多く現れますが、顔や声にも影響を与えることがあります。
原因:
本態性振戦の正確な原因は不明ですが、遺伝的な要素が強いとされています。家族に本態性振戦の人がいる場合、その子孫にも発症する可能性が高くなります。
症状:
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手や腕、頭が特に動かしているときに震える
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動作を始める際に震えが強くなることが多い
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震えが安静時には軽減される
治療:
本態性振戦の治療には、薬物療法(例えば、ベータ遮断薬や抗てんかん薬)、外科的治療(深部脳刺激療法)などがありますが、症状の進行を完全に止めることはできません。
2. パーキンソン病振戦
パーキンソン病振戦は、神経変性疾患であるパーキンソン病の特徴的な症状の一つです。パーキンソン病は、ドパミンという神経伝達物質の不足により、運動機能に異常が生じる病気です。
原因:
パーキンソン病の振戦は、脳の一部である黒質という領域の神経細胞の損傷に起因します。この損傷により、ドパミンの分泌が減少し、運動がスムーズに行えなくなります。
症状:
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安静時に手や指、足が震える
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震えが休んでいるときに最も強く現れる(例えば、手を使っているときには振戦が減少)
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進行すると、歩行や姿勢にも影響を与える
治療:
パーキンソン病の振戦には、ドパミン補充薬(レボドパ)やドパミン受容体を刺激する薬が用いられます。また、深部脳刺激療法が効果的な場合もあります。
3. 薬剤性振戦
薬剤性振戦は、特定の薬物が引き起こす振戦であり、薬物の副作用として現れることがあります。多くの場合、薬物の服用を中止または変更することで改善します。
原因:
薬剤性振戦は、以下のような薬物が原因で起こることがあります。
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抗精神病薬
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抗うつ薬
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一部の気分安定剤
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抗てんかん薬
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一部の心臓薬や喘息薬
症状:
薬剤性振戦は通常、特定の薬を服用している間に発生し、薬の服用後にしばらくしてから症状が現れることが多いです。震えは通常、手や腕に現れますが、顔にも影響を及ぼすことがあります。
治療:
薬剤性振戦の場合、原因となる薬物の変更や中止を行うことで改善することが多いです。場合によっては、他の薬物によって症状を緩和することもあります。
4. 位置性振戦
位置性振戦は、特に姿勢を取るときに見られる振戦です。通常、安静時には震えは見られませんが、手を伸ばして物を持ったり、一定の姿勢を取ると震えが現れます。
原因:
位置性振戦は、本態性振戦に関連している場合もありますが、脳の異常や筋肉の不調が原因となることもあります。
症状:
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物を持つときや姿勢を保持する時に震えが現れる
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長時間同じ姿勢を維持すると、振戦が強くなることが多い
治療:
位置性振戦の治療には、薬物療法や理学療法が効果的です。特に、姿勢を改善することで症状の軽減が見込まれます。
5. 急性振戦
急性振戦は、突然発生し、数時間から数日間続く振戦です。急性振戦は、アルコールの禁断症状や急性薬物中毒、感染症などが原因で発生することがあります。
原因:
急性振戦の原因としては、以下が挙げられます:
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アルコールや薬物の急激な中止
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急性の神経感染症(例えば、インフルエンザ)
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代謝異常(例えば、低血糖)
症状:
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急激に発生する震え
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多くの場合、全身に震えが広がることがある
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精神的な不安や動揺を伴うことがある
治療:
急性振戦の場合、根本的な原因を特定し、その治療を行うことが最も重要です。例えば、アルコール中毒が原因であれば、禁断症状を軽減するための治療が必要です。
結論
振戦にはさまざまな種類があり、それぞれが異なる原因や症状を持っています。正確な診断を受けることが、適切な治療への第一歩となります。もし振戦の症状が現れた場合は、専門的な医療機関で診断を受け、適切な治療法を選択することが重要です。