世界で最も弱いパスポートトップ10:国際移動の自由が最も制限されている国々
パスポートは単なる旅行書類ではない。それは、その国の国民にどれだけの国際的な自由と信頼が与えられているかを示す象徴でもある。パスポートの「強さ」は、いくつの国にビザなし、または到着時にビザを取得して入国できるかによって決まる。ここでは、2025年現在の最新データに基づき、世界で最も旅行の自由が制限されている、いわゆる「最も弱いパスポート」を10か国取り上げ、その背景と影響について包括的に分析する。

1. アフガニスタン
ビザなし渡航可能国数:28か国前後
アフガニスタンのパスポートは、過去10年以上にわたり常にランキングの最下位を記録している。政治的混乱、長年にわたる戦争、タリバン政権の復活により、国際社会からの信頼は極めて低く、ビザ免除協定も非常に限られている。これにより、アフガニスタン国民は旅行の際にほぼすべての国で事前にビザを取得する必要がある。
2. シリア
ビザなし渡航可能国数:約29か国
シリアは長期にわたる内戦と政治的不安定さにより、外交関係が希薄であり、国際的な渡航自由度は極めて低い。多くの国がシリアからの入国に慎重であり、パスポートの有効性が常に疑問視されている。
3. イラク
ビザなし渡航可能国数:約31か国
イラクのパスポートは、テロリズムの懸念、政情不安、腐敗した政府制度などにより、他国との信頼関係が低く、渡航の自由も限られている。近年、安定化の兆しも見えてきてはいるが、ビザ政策に関する国際的な信頼回復には時間がかかる。
4. パキスタン
ビザなし渡航可能国数:約34か国
パキスタンのパスポートは、国内の治安問題や外交的緊張(特にインドとの関係)により、多くの国がビザ免除に消極的である。海外のパキスタン系移民によるビザ不正利用なども、さらにパスポートの信頼性を損ねている。
5. イエメン
ビザなし渡航可能国数:約35か国
イエメンは内戦、サウジアラビアとの対立、政権崩壊などにより、完全な国家機能を喪失している。これにより、イエメン国民が持つパスポートはほとんどの国において「リスク」とみなされ、旅行自由度は著しく低下している。
6. ソマリア
ビザなし渡航可能国数:約36か国
ソマリアは「失敗国家」として長年認識されており、政府の機能不全、海賊行為、テロの拠点といった負のイメージが強い。その結果、ソマリアのパスポートで自由に渡航できる国は極めて少ない。
7. ネパール
ビザなし渡航可能国数:約38か国
ネパールは他の最下位国に比べれば政情は安定しているが、経済規模の小ささと外交的影響力の乏しさにより、ビザ免除国が少ない。観光大国であるにもかかわらず、自国民に対する渡航の自由は限られている。
8. 北朝鮮
ビザなし渡航可能国数:約39か国
北朝鮮は厳格な国家統制と情報封鎖、核開発問題により国際社会との接触が極端に制限されている。ごく限られた数の国(主に同盟国)とのみビザなし渡航が可能であるが、それも政治的意図によるものであり、実際の旅行自由度は非常に低い。
9. リビア
ビザなし渡航可能国数:約40か国
リビアはカダフィ政権の崩壊後、複数の勢力による統治状態が続いており、パスポートの真正性や発行手続きにも信頼が置かれていない。国際的なビザ免除協定もほぼ凍結状態である。
10. バングラデシュ
ビザなし渡航可能国数:約42か国
バングラデシュは人口が非常に多く、労働移民として世界中に国民が広がっているが、その一方で不法滞在やビザ違反が多く報告されているため、他国がビザ免除に慎重である。経済成長は続いているものの、パスポートの信頼性向上には至っていない。
表:最も弱いパスポートトップ10(2025年)
順位 | 国名 | ビザなし渡航可能国数(推定) |
---|---|---|
1 | アフガニスタン | 28 |
2 | シリア | 29 |
3 | イラク | 31 |
4 | パキスタン | 34 |
5 | イエメン | 35 |
6 | ソマリア | 36 |
7 | ネパール | 38 |
8 | 北朝鮮 | 39 |
9 | リビア | 40 |
10 | バングラデシュ | 42 |
なぜパスポートの強さが重要なのか
パスポートの強さは、個人の自由と機会に直結する。ビザなしで多くの国を訪れることができれば、ビジネス、教育、観光、医療、避難といった多岐にわたる目的で迅速に移動できる。逆に、ビザ取得が必須な場合、書類の準備や手続きに時間と費用がかかり、移動の自由が著しく制限される。
旅行の自由を制限する要因
パスポートの弱さの背景には以下のような要因がある:
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政情不安定:内戦、クーデター、政権崩壊など。
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外交的孤立:国際社会との対話が少なく、ビザ協定の締結が困難。
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経済的困難:国家としての交渉力が乏しく、パスポートの安全性確保が困難。
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国際的な懸念:テロ支援、密入国、パスポート偽造などに関連する問題。
パスポートの強さ向上に向けた課題
多くの「弱いパスポート」国は、以下のような取り組みにより状況の改善を図ることができる可能性がある:
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国際社会との連携強化
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国家の法制度と行政の整備
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パスポートの生体認証などによる偽造防止
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不法移民・難民の適正管理
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教育・外交・観光分野のグローバル化
結論
パスポートの強さは、その国の外交力、治安、経済、国際的信頼度を反映する重要な指標である。アフガニスタンやシリアのような国々は、国民が持つ基本的な移動の自由を保障するという観点からも、国家の再建と国際的信頼回復に取り組むことが喫緊の課題である。パスポートが単なる「冊子」ではなく、「世界への鍵」であるという認識が今後ますます重要になるだろう。
参考文献:
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Henley & Partners「Henley Passport Index 2025」
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International Air Transport Association (IATA)
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United Nations Human Development Reports
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Global Peace Index 2024
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World Bank Country Profiles
日本の読者が国際的な現実に目を向け、グローバル市民としての教養を深める一助となることを願ってやまない。