歯茎の炎症(歯肉炎)は、初期段階では痛みを伴わず、気づかれにくいことが多いが、放置すると歯周病へと進行し、最終的には歯の喪失に至る可能性がある。この記事では、歯茎の炎症を完全かつ包括的に理解し、根本的な改善を目指すための実践的なアプローチと最新の医療知識に基づいた治療法を解説する。
歯茎の炎症の原因
歯茎の炎症の主な原因は、歯垢(プラーク)の蓄積である。これは、歯の表面や歯と歯茎の境目に溜まる細菌の塊で、食べかすや唾液と混ざり合い、時間とともに固くなって歯石へと変化する。歯垢が取り除かれないままでいると、細菌が毒素を放出し、歯茎を刺激して炎症を引き起こす。

その他の原因には以下がある:
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不十分な歯磨きやデンタルフロスの使用不足
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喫煙習慣
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糖尿病や免疫疾患などの全身疾患
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ホルモンバランスの変化(思春期、妊娠、更年期など)
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一部の薬剤(抗うつ薬、降圧薬、免疫抑制剤など)
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ビタミンC欠乏症
主な症状と進行段階
歯茎の炎症は自覚症状が少ないが、以下の兆候があれば注意が必要である。
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歯茎が赤く腫れる
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歯磨きや食事中に出血する
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歯茎がやわらかくなる
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口臭(慢性的)
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歯と歯の間にすき間ができる
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歯がぐらつく(進行時)
これらの症状は「歯肉炎(初期)」に見られるが、放置すると「歯周炎(進行性)」となり、歯茎の退縮や歯槽骨の吸収を引き起こす。
自宅でできる初期治療法と予防法
1. 正しいブラッシング方法の習得
ブラッシングは毎日の基本ケアであり、誤った方法ではかえって歯茎を傷つけることがある。以下のポイントを守ることが重要:
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軽い力で、歯と歯茎の境目に45度の角度でブラシを当てる
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1本1本を小さく動かして磨く(横磨きや力任せのブラッシングは避ける)
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1日2回以上、1回2分以上の丁寧なケア
2. デンタルフロス・歯間ブラシの活用
歯ブラシだけでは取り切れない歯間部のプラークを除去するため、デンタルフロスや歯間ブラシの使用は必須である。特に歯と歯の間に食べ物が詰まりやすい人は、毎日の習慣として取り入れるべきである。
3. 抗菌性のあるマウスウォッシュ
クロルヘキシジンやセチルピリジニウム塩化物(CPC)などを含むマウスウォッシュを使用することで、口腔内の細菌を減らし、炎症の進行を防ぐことができる。ただし、長期間の使用は味覚異常や着色の原因となるため、医師の指導のもと使用することが望ましい。
4. 食生活の見直し
ビタミンCやビタミンD、カルシウムなどの栄養素が歯茎の健康を保つうえで重要である。以下の食品を意識的に摂取すること:
栄養素 | 主な食品 | 効果 |
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ビタミンC | 柑橘類、赤ピーマン、イチゴ | コラーゲン生成、組織修復促進 |
ビタミンD | 鮭、サバ、卵黄、日光 | 骨密度維持、免疫調整 |
カルシウム | 牛乳、チーズ、小魚 | 歯と骨の強化 |
歯科医での専門的治療
1. スケーリング(歯石除去)
歯垢が硬化した歯石は自宅では取り除けないため、歯科医院でのスケーリングが必要である。超音波スケーラーや手用器具を用いて歯石を物理的に除去することで、炎症の根本原因を取り除く。
2. ルートプレーニング
歯と歯茎の間(歯周ポケット)の深部にある歯石や細菌を除去し、歯根表面を滑らかにする処置。これにより、歯茎が再付着しやすくなり、歯周ポケットが縮小する。
3. 抗菌薬の投与
進行した歯周炎には、局所または全身的な抗菌薬の投与が行われることがある。メトロニダゾールやアモキシシリンなどが一般的に使用される。
4. 歯周外科手術
重度の歯周炎では、外科的に歯周ポケットを切開し、感染組織を除去する「フラップ手術」などが行われる。また、骨の再生を促すための再生療法(GTR法など)が適用される場合もある。
炎症を再発させないための習慣
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定期検診(3〜6ヶ月ごと):目に見えない初期の炎症を早期発見できる。
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禁煙:喫煙は歯周病の最大リスク因子。血流が悪くなり、治癒力が低下する。
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ストレス管理:慢性ストレスは免疫力を低下させ、炎症を悪化させる可能性がある。
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正しい咬み合わせの維持:歯並びやかみ合わせが悪いと、一部の歯に負担がかかり炎症の原因となる。必要に応じて矯正治療を検討する。
科学的根拠と近年の研究
近年の研究では、歯周病と全身疾患(心疾患、糖尿病、早産など)との関連性が強く示されており、口腔内の炎症が体全体の健康に及ぼす影響が注目されている(参考:Han & Wang, 2013, Periodontology 2000)。また、マイクロバイオームの乱れ(口腔内細菌叢のバランス異常)が歯周病のリスク因子となることも明らかになっている。
結論
歯茎の炎症は、初期段階であれば自宅でのケアにより十分に治癒可能である。しかし、症状が進行する前に適切な歯科治療を受けること、日々の口腔衛生を徹底すること、全身の健康状態と向き合うことが、根本的な解決と再発予防につながる。歯茎の健康は単なる美容の問題ではなく、全身の健康の入り口である。歯茎の腫れや出血を見過ごさず、今こそ真剣に取り組むべきである。
参考文献
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Han YW, Wang X. Mobile microbiome: oral bacteria in extra-oral infections and inflammation. Periodontology 2000. 2013;62(1): 130–138.
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Tonetti MS, Chapple IL. Periodontal disease: The consensus report of the Joint EFP/AAP Workshop on Periodontitis. J Periodontol. 2018;89:S173–S182.
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日本歯周病学会ガイドライン(2022年度改訂)
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厚生労働省:e-ヘルスネット「歯周病」
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