涙液系(Lacrimal system)は、眼球の健康を維持するために不可欠な機構であり、視覚機能をサポートするだけでなく、目を保護し、快適さを提供する役割も担っています。この系統は、涙を生成、分泌、排出する一連の構造から成り立っています。本記事では、涙液系の解剖学的構造と機能、さらに涙の生成過程について詳述し、関連する疾患についても取り上げます。
1. 涙液系の解剖学的構造
涙液系は、大きく分けて涙腺、涙管、涙小管、涙嚢、そして鼻涙管の5つの主要な部分から成り立っています。それぞれの構造がどのように協力して涙を生成し、分泌し、排出するのかを理解することが重要です。

1.1 涙腺(Lacrimal gland)
涙腺は、眼球の外側上方に位置し、眼球を覆う涙液を分泌する主要な器官です。人間には左右に1つずつ涙腺があり、涙液の約70%を分泌します。涙腺は2つの主要な部分に分かれ、涙腺の大部分は涙液を産生する役割を担い、残りの部分は涙液を供給する血管系を持っています。
涙腺から分泌される涙は、主に水分、塩分、酵素(リゾチーム)を含み、これらは目を保護するためのバリア機能を果たします。涙は目の表面を潤滑し、異物や細菌から目を守るとともに、視覚をサポートします。
1.2 涙小管(Lacrimal canaliculi)
涙小管は、涙液を目から鼻に流す小さな管で、涙腺から分泌された涙液を目の内側へと移動させます。両眼にそれぞれ1つずつの涙小管があり、目頭近くで涙液を集め、涙嚢へと流れます。この部分では、涙液が目の表面をスムーズに覆い、乾燥を防ぐために常に一定の潤滑を提供します。
1.3 涙嚢(Lacrimal sac)
涙嚢は、涙小管から流れ込んだ涙液を一時的に貯蔵する袋状の構造です。涙嚢は、涙液を鼻涙管へと送り出す役割を果たします。涙嚢の炎症は「涙嚢炎」と呼ばれ、感染症や涙液の流れが不十分な場合に発生することがあります。
1.4 鼻涙管(Nasolacrimal duct)
鼻涙管は、涙液を涙嚢から鼻腔へと導く役割を果たします。鼻涙管は目頭の近くで涙嚢と繋がっており、涙液を最終的に鼻に排出します。これにより、涙液は目から適切に排出され、目の潤滑が保たれます。鼻涙管が詰まると、涙が目から鼻に流れにくくなり、涙が目からあふれ出ることがあります。
2. 涙液の機能
涙液は、眼球の表面を保護するために非常に重要な役割を果たします。その主な機能は以下の通りです。
2.1 目の潤滑
涙液は、目の表面を潤滑し、まばたき時に眼球がまぶたと摩擦を起こさないようにします。これにより、角膜や結膜に傷がつくのを防ぎます。
2.2 異物の排除
涙液は、目に入ったゴミや埃、細菌を洗い流す作用があります。涙の中に含まれるリゾチームなどの酵素が細菌を殺菌し、目を守ります。
2.3 感染症の予防
涙液には抗菌作用を持つ物質が含まれており、目を守るバリアとして機能します。リゾチームやラクトフェリンといった成分が目に侵入する病原菌を排除し、感染症の予防に寄与しています。
2.4 栄養供給
涙液は角膜を栄養的にサポートする役割も果たします。角膜は血管がないため、涙液から直接栄養を受け取ります。この栄養供給は角膜の健康を維持するために不可欠です。
3. 涙の生成過程
涙液の生成は、涙腺から始まり、目の表面に分泌され、その後、目の内側を流れる涙小管を通じて涙嚢に移動し、最終的に鼻涙管を経て排出されます。この過程は通常、無意識のうちに行われますが、感情的な刺激や物理的な刺激によって涙の分泌が増えることもあります。
感情的な涙(例えば悲しみや喜びから流れる涙)は、視覚的刺激や痛みとは異なり、主に感情的な反応に基づいて分泌されます。この場合、涙腺はストレスホルモンや神経信号によって刺激され、通常の涙よりも多量の涙が分泌されます。
4. 涙液系に関連する疾患
涙液系の機能不全は、様々な眼疾患を引き起こす可能性があります。代表的な疾患としては、ドライアイ症候群や涙管閉塞などが挙げられます。
4.1 ドライアイ症候群(乾燥眼)
ドライアイ症候群は、涙液の分泌が不足または涙液の質が低下することによって、目が乾燥し、異物感や痛みを引き起こす疾患です。この疾患は、長時間のコンピュータ作業やエアコンの使用、加齢などが原因で発症することがあります。治療には人工涙液の点眼や生活習慣の改善が推奨されます。
4.2 涙管閉塞
涙管閉塞は、涙液が適切に排出されない状態で、目から涙があふれる原因となります。この症状は、生まれつき鼻涙管が詰まっている場合や、加齢によって涙管が閉塞する場合に見られます。治療方法としては、涙管の手術やマッサージが行われることがあります。
4.3 涙嚢炎
涙嚢炎は、涙嚢が感染することで発症する疾患です。涙嚢の通気が悪くなると、細菌が繁殖し、炎症が引き起こされます。これにより、目の周りが腫れ、痛みが伴うことがあります。抗生物質や手術が治療方法として用いられます。
結論
涙液系は眼球の健康と視覚機能を維持するために欠かせない重要なシステムです。涙液の生成、分泌、排出は高度に調整された過程であり、涙液の量や質が正常であることが眼の健康を保つためには必要です。涙液系の異常が生じると、目の乾燥感や炎症、感染症などの問題が引き起こされる可能性があるため、注意深くケアを行うことが重要です。