大腸疾患

潰瘍性大腸炎の主な症状

潰瘍性大腸炎(かいようせいだいちょうえん)と呼ばれる疾患、すなわち「結腸の潰瘍(通称:潰瘍性大腸炎または大腸の潰瘍)」は、消化器系の慢性炎症性疾患の一つであり、結腸および直腸の粘膜に炎症と潰瘍を引き起こす自己免疫性の疾患である。この病気は一般的に若年成人(20〜30代)に発症しやすいが、年齢を問わず発症する可能性がある。原因は完全には解明されていないが、遺伝的素因、免疫系の異常、環境要因が複雑に関与していると考えられている。

潰瘍性大腸炎の症状は個人差が大きく、症状の強さや持続期間、再燃と寛解のサイクルが繰り返されるのが特徴である。本稿では、潰瘍性大腸炎の主な症状、関連する身体的・全身的影響、合併症のリスク、そして診断や治療に至るまでを包括的に解説する。


腸に現れる主な症状

潰瘍性大腸炎の症状は、病変が存在する腸の部位や炎症の程度によって大きく異なるが、以下のような腸管関連症状が代表的である。

1. 血便(けつべん)

潰瘍性大腸炎の最も特徴的な症状であり、便に鮮血が混じる。炎症が粘膜の血管を損傷することで出血が起こり、排便時に出血が続くことがある。

2. 下痢

多くの患者でみられ、しばしば水様性または粘血便(粘液と血液を含む便)となる。頻回の排便が見られ、1日に10回以上排便するケースもある。

3. 腹痛

主に下腹部に痛みが出ることが多い。痛みは鈍痛から激痛まで幅広く、排便の前に強くなり、排便後に和らぐこともある。

4. 排便後の不快感・残便感

しばしば排便しても完全に出し切った感じがせず、継続的な不快感や便意を伴う。直腸に炎症が集中している場合に多い。

5. 粘液の分泌

炎症を起こした粘膜からの粘液分泌が増加し、排便時に粘液だけが出ることもある。これが粘液便であり、炎症のサインとなる。


腸以外の全身症状

潰瘍性大腸炎は腸だけでなく、全身のさまざまな部位にも影響を及ぼす「全身性の炎症性疾患」として分類される。腸外症状(extraintestinal manifestations)として以下のようなものがある。

1. 発熱

急性期や再燃期には軽度〜中等度の発熱が見られる。これは体内で免疫反応が活性化していることを示す。

2. 倦怠感・疲労

慢性的な炎症や栄養不良、貧血によって全身のエネルギーが低下し、極度の疲労を感じることがある。

3. 食欲不振・体重減少

消化吸収の障害や慢性的な下痢により、栄養素が十分に吸収されず、体重の減少が生じる。

4. 貧血

腸粘膜からの出血の継続や、鉄分・ビタミンB12の吸収不良により、鉄欠乏性貧血や巨赤芽球性貧血が発症する可能性がある。

5. 関節炎

全身の関節に痛みや腫れを伴う炎症が現れることがある。特に膝関節や足首に多く見られる。

6. 皮膚症状

壊疽性膿皮症(えそせいのうひしょう)や結節性紅斑(けっせつせいこうはん)など、皮膚に炎症性の病変が出ることがある。

7. 目の異常

ぶどう膜炎や虹彩炎など、眼に炎症が生じることもある。視力障害に至ることもあるため注意が必要である。


病態の進行と合併症

潰瘍性大腸炎が長期化すると、以下のような深刻な合併症が出現することがある。これらは適切な治療と経過観察が必要となる。

合併症の名称 説明
大腸穿孔 腸の壁が破れることで、腹膜炎を引き起こす緊急事態。強い腹痛と高熱が特徴。
中毒性巨大結腸症 腸の運動が麻痺し、腸が異常に拡張することでショック状態に陥る危険性。
大腸癌 発症後8〜10年を超えると、大腸癌のリスクが顕著に上昇する。定期的な内視鏡検査が必須。
栄養障害 タンパク質、ビタミン、ミネラルの吸収不良によって重篤な栄養不足に陥る。

症状の分類と重症度

潰瘍性大腸炎の症状は、病変の広がりと炎症の程度に応じて以下のように分類される。

  • 直腸炎型(軽症):主に直腸に炎症が限局し、血便と軽度の下痢が中心。

  • 左側大腸炎型(中等症):結腸の左側(下行結腸)まで炎症が及ぶ。下痢や腹痛が悪化。

  • 全大腸炎型(重症):結腸全体に広がる。高熱、激しい下痢、大量の血便を伴うことも。


診断と検査

潰瘍性大腸炎の診断には、以下のような検査が行われる。

  • 大腸内視鏡検査:潰瘍や出血、粘膜の脆弱性などを直接確認し、組織検査(生検)を行う。

  • 便検査:血液や炎症性マーカー(カルプロテクチン)の有無を確認。

  • 血液検査:炎症の指標(CRP、白血球数)、貧血の有無、電解質のバランスを確認。

  • 画像診断(CT、MRI):合併症の評価に用いる。


治療と予後

治療は症状の重症度に応じて段階的に進められる。

  • 5-アミノサリチル酸(5-ASA)製剤:軽症〜中等症に使用される抗炎症薬。サラゾスルファピリジンやメサラジンなど。

  • 副腎皮質ステロイド:急性増悪時に短期間使用し、炎症を抑制。

  • 免疫調節薬(免疫抑制薬):アザチオプリンや6-MPなど。

  • 生物学的製剤:抗TNF-α抗体(インフリキシマブ、アダリムマブ)など。

  • 手術療法:内科的治療に反応しない場合や、癌のリスクが高まった場合に大腸全摘術が行われる。


生活への影響と管理

潰瘍性大腸炎は慢性疾患であり、完全な治癒は難しいが、適切な管理によって寛解状態を維持することが可能である。生活面での管理としては以下が重要である。

  • ストレス管理:ストレスは再燃の引き金となるため、精神的安定を保つ工夫が必要。

  • 食事療法:刺激物を避け、消化に優しい食事を心がける。低脂肪・高たんぱく・低残渣食が推奨される。

  • 定期的な医療受診:寛解期でも定期的なフォローアップと検査が必要。

  • 感染予防:免疫抑制療法中は感染症のリスクが高いため、ワクチン接種や手洗いが重要。


結論

潰瘍性大腸炎は、消化器官に慢性的な炎症と潰瘍を引き起こす疾患であり、多彩な症状と全身への影響をもたらす。早期発見と適切な治療、そして日常生活における管理が、患者のQOL(生活の質)を大きく左右する。日本においても本疾患の認知が進んでおり、特定疾患として医療費助成の対象となるなど、公的支援制度も整備されている。患者と医療従事者、そして社会全体の理解と協力が、潰瘍性大腸炎と向き合う上での鍵となる。


参考文献

  • 厚生労働省 難病情報センター「潰瘍性大腸炎(指定難病97)」

  • 日本消化器病学会「潰瘍性大腸炎診療ガイドライン2020」

  • 日本炎症性腸疾患学会(JSIBD)公式サイト

  • 鈴木康夫 他『炎症性腸疾患の最新治療』医学書院、2022年

  • 国立国際医療研究センター「IBDセンター診療データ」

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