火傷

火傷の種類と治療法

火傷(熱傷)は皮膚や粘膜に対する外的な熱、化学物質、電気、放射線などの刺激によって生じる損傷であり、重症度に応じて治療法が異なります。この記事では、火傷の種類、症状、評価法、ならびに最新の治療法と応急処置について、科学的かつ包括的に解説します。


火傷の分類:深さと原因による区分

火傷はその深さによって以下の3段階に分類されます。近年では一部医療機関で4段階に細分化されることもあります。

Ⅰ度熱傷(表皮熱傷)

  • 損傷の深さ:表皮のみ。

  • 症状:発赤、軽度の腫れ、痛み(ヒリヒリ感)。

  • :日焼けや短時間の熱湯接触。

  • 治癒期間:数日〜1週間。瘢痕は残らない。

Ⅱ度熱傷(真皮熱傷)

さらに以下の2つに分けられます。

浅達性Ⅱ度熱傷(浅い真皮層まで)

  • 症状:水疱形成、強い痛み、紅潮。

  • 治癒期間:1〜2週間。瘢痕のリスクは低いが、色素沈着の可能性あり。

深達性Ⅱ度熱傷(真皮深層まで)

  • 症状:水疱破裂後の白濁、乾燥、痛みは軽減(神経損傷による)。

  • 治癒期間:2〜3週間以上。瘢痕や拘縮のリスクが高い。

Ⅲ度熱傷(全層熱傷)

  • 損傷の深さ:皮膚全層、しばしば皮下組織、筋肉、骨まで達する。

  • 症状:皮膚が黒焦げ、または白くなり、痛みは感じにくい。

  • 治癒:自然治癒は困難。皮膚移植が必要となることが多い。


原因別の火傷の種類

原因 説明例 特徴
熱傷(高温) 火、蒸気、熱湯、熱した金属 最も一般的。Ⅰ~Ⅲ度熱傷を引き起こす。
化学熱傷 酸(硫酸、塩酸)やアルカリ(苛性ソーダ)などの化学物質 皮膚に浸透しやすく深部まで損傷する。
電気熱傷 感電、高電圧機器との接触 外見よりも内部組織への損傷が深刻。
放射線熱傷 日焼け、放射線治療、副作用による皮膚障害 時間経過で悪化することがある。
摩擦熱傷 ロードラッシュ、転倒時の擦過 物理的刺激と熱の複合。

火傷の評価:面積と重症度

面積の評価

成人では「9の法則(ルール・オブ・ナインズ)」を、乳幼児では「ルンド・ブラウダー法」を使用。

部位 成人の体表面積比(%)
頭部 9%
両腕 各9%(合計18%)
両脚 各18%(合計36%)
胴体(前面) 18%
胴体(背面) 18%
会陰部 1%

総面積が15%以上(成人)、10%以上(小児・高齢者)の熱傷は全身管理が必要です。


応急処置と初期対応

1. 冷却

火傷直後に流水で20〜30分冷却することで、熱の侵入を最小限に抑えます。氷は使用しないこと(凍傷リスク)。

2. 衣服や装飾品の除去

熱源が除去された後、皮膚に接着していない衣類、アクセサリーを慎重に外す。皮膚にくっついている場合は無理に剥がさず医療機関へ。

3. 清潔な布で保護

感染予防のため、滅菌ガーゼや清潔な布で覆う。

4. 医療機関への搬送

以下の場合はすぐに受診:

  • Ⅱ度以上の熱傷

  • 顔・関節・会陰部の熱傷

  • 広範囲(10%以上)

  • 小児、高齢者、持病のある人の火傷


医療機関での治療法

保存的治療(軽度・中等度熱傷)

治療手段 内容
清拭・洗浄 生理食塩水で創面を丁寧に洗浄
外用薬 銀含有薬(SSDクリーム)、抗菌軟膏など
被覆材 ハイドロコロイド、湿潤環境維持ゲル、シリコンシート
鎮痛・鎮静薬 アセトアミノフェン、NSAIDs
予防接種 破傷風ワクチンが未接種なら実施

外科的治療(重度熱傷)

治療手段 内容
デブリードマン 壊死組織除去
皮膚移植術 自家皮膚、同種皮膚、人工皮膚などを移植
壊死切開術 血流障害防止のため、深部組織を開放する手術
高度集中治療 呼吸補助、輸液管理、抗菌薬投与など

治癒過程と瘢痕管理

創傷治癒の3段階

  1. 炎症期(1〜3日):血管透過性亢進、好中球浸潤。

  2. 増殖期(3日〜数週間):線維芽細胞増殖、肉芽形成。

  3. 成熟期(数週間〜数か月):瘢痕形成、コラーゲン再構築。

瘢痕対策

  • 圧迫療法(弾性包帯)

  • シリコンジェルシート

  • ステロイド注射(肥厚性瘢痕に)

  • レーザー治療(色素沈着や瘢痕改善)


小児・高齢者・特殊環境での火傷

  • 小児:皮膚が薄く、熱傷の進行が早い。家庭内事故が多く、特に熱湯事故に注意。

  • 高齢者:皮膚の弾力性低下、基礎疾患による治癒遅延が懸念される。

  • 職場環境(化学・電気):化学防護服、絶縁手袋などの予防が不可欠。


火傷の予防

予防策 解説
子どもを熱源から遠ざける キッチンや浴室での注意。やかん、電気ポットなど。
適切な温度管理 給湯器設定を45℃未満に設定。
作業中の安全装備 化学防護服や絶縁具の着用。
高齢者の見守り ヒーターや電気毛布の誤使用に注意。

最新の研究と今後の展望

再生医療やバイオ人工皮膚の発展により、火傷治療の未来は大きく変化しつつあります。例えば:

  • 自家培養表皮細胞の移植:自分の皮膚細胞から新たな皮膚を作成。

  • 3Dバイオプリンティング:創面に合った皮膚構造を印刷。

  • 幹細胞治療:皮膚の再生能力を飛躍的に高める手法。


おわりに

火傷は日常的に誰にでも起こり得る外傷であり、その初期対応と正確な評価、そして適切な治療が回復を大きく左右します。軽度であっても安易に考えず、必要に応じて早急に医療機関を受診することが重要です。また、日々の生活における予防意識の向上こそが、最良の防御策であると言えるでしょう。


参考文献

  1. 日本熱傷学会ガイドライン「熱傷治療の指針」2022年改訂版

  2. 厚生労働省『日常生活における火傷予防対策マニュアル』

  3. National Institute for Health and Care Excellence (NICE) Guidelines – Burns: assessment and management (2023)

  4. Singer AJ, Taira BR. “Burns: Principles of Emergency Management.” The New England Journal of Medicine, 2021.

  5. Matsumura H et al. “Advances in regenerative medicine for burn injuries.” Burns & Trauma, 2022.

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