甲状腺機能亢進症(こうじょうせんきのうこうしんしょう)、またはバセドウ病は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌される状態で、身体の多くのシステムに影響を与える疾患です。甲状腺は、喉の前部に位置する内分泌腺で、代謝を調節する重要なホルモンであるチロキシン(T4)とトリヨードサイロニン(T3)を分泌します。これらのホルモンは、体温調節、エネルギーの消費、成長や発達など、さまざまな生理的機能を調整します。甲状腺ホルモンが過剰になると、代謝が急激に増加し、体内の多くの機能が異常をきたすことになります。この記事では、甲状腺機能亢進症の原因、症状、診断方法、治療法について詳しく説明します。
甲状腺機能亢進症の原因
甲状腺機能亢進症の最も一般的な原因は、バセドウ病(グレーブス病)です。これは、自己免疫疾患の一種で、免疫系が誤って甲状腺を攻撃し、甲状腺ホルモンの過剰分泌を引き起こします。バセドウ病の他にも、以下のような原因が考えられます。

1. バセドウ病(グレーブス病)
バセドウ病は、甲状腺機能亢進症の最も一般的な原因です。この疾患では、免疫系が甲状腺に対して異常な抗体を作り、甲状腺を刺激します。その結果、甲状腺は過剰にホルモンを分泌し、代謝が加速します。バセドウ病は、遺伝的要因やストレスが引き金となることがあります。
2. 甲状腺腫瘍
甲状腺に腫瘍(良性または悪性)ができることでも、ホルモンが過剰に分泌されることがあります。特に、甲状腺機能亢進症を引き起こす甲状腺腺腫という良性腫瘍が関与する場合があります。
3. 薬物の影響
一部の薬物は甲状腺ホルモンの分泌に影響を与えることがあります。特に、過剰なヨウ素の摂取やホルモン剤の過剰使用が原因となることがあります。
4. 甲状腺炎
急性の甲状腺炎や慢性の甲状腺炎(例:橋本病)も、甲状腺機能亢進症を引き起こすことがあります。これらの炎症が甲状腺細胞を傷つけ、過剰なホルモンを血液中に放出することがあります。
5. 放射線治療や外科手術
過去に放射線治療を受けた人や甲状腺の手術を受けた人も、甲状腺機能亢進症を発症するリスクが高くなります。放射線によって甲状腺が損傷を受けることが原因です。
甲状腺機能亢進症の症状
甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると、体の代謝が急激に上昇し、さまざまな症状が現れます。主な症状は以下の通りです。
1. 体重減少
食欲が正常または増加しているにもかかわらず、体重が急激に減少することがよくあります。代謝が過剰に活発になり、体内のエネルギーが急速に消費されるためです。
2. 動悸や頻脈
心拍数が増加し、動悸(どきどきする感じ)や不整脈が現れることがあります。甲状腺ホルモンの過剰分泌が心臓に影響を与え、血液を速やかに送り出す必要性が高まるためです。
3. 発汗や熱感
過剰な甲状腺ホルモンは、体温を上昇させ、発汗が増加する原因となります。また、体温の上昇によって暑さを感じやすくなります。
4. 手の震え(振戦)
手のひらや指が震えることがあり、これも甲状腺ホルモンの過剰分泌による影響です。
5. 神経過敏や不安感
甲状腺機能亢進症では、神経が過敏になり、軽い刺激にも強く反応することがあります。不安感や焦燥感が強くなり、精神的に不安定になることもあります。
6. 睡眠障害
寝付きが悪く、眠りが浅くなることがあります。これは代謝が活発すぎて、身体が休息する時間を十分に取れないためです。
7. 眼の異常
バセドウ病に関連する場合、眼球が突出することがあり、視力障害や乾燥感を引き起こすことがあります(甲状腺眼症)。
8. 筋力低下や疲れやすさ
筋肉が急速に消耗するため、身体が疲れやすく、日常的な活動でも疲れを感じやすくなります。
9. 消化不良
過剰なホルモンの影響で消化が早く進み、下痢や頻便になることがあります。
甲状腺機能亢進症の診断方法
甲状腺機能亢進症を診断するためには、以下の検査が行われます。
1. 血液検査
甲状腺ホルモン(T3、T4)のレベルを測定し、これらが正常範囲を超えているかどうかを確認します。また、**甲状腺刺激ホルモン(TSH)**の濃度を測定することも重要で、TSHは通常低値を示します。
2. 超音波検査
甲状腺に腫瘍がないか、または甲状腺が肥大していないかを確認するために超音波検査を行うことがあります。
3. 放射線アイソトープスキャン
甲状腺の機能を評価するため、放射線同位体(例えば、放射線ヨウ素)を使用して、甲状腺の吸収状態を調べることがあります。
4. 抗体検査
バセドウ病に関連する抗体(抗甲状腺刺激ホルモン受容体抗体)が存在するかどうかを調べることがあります。
甲状腺機能亢進症の治療法
甲状腺機能亢進症の治療方法は、原因や症状に応じて異なります。以下の治療法が一般的です。
1. 薬物療法
甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑制するために、抗甲状腺薬(メチマゾールやプロピルチオウラシル)が処方されることがあります。これらの薬は、甲状腺ホルモンの合成を抑える作用があります。
2. 放射線療法
放射線ヨウ素を使用して、過剰に働いている甲状腺を縮小させる治療法です。この治療により、ホルモン分泌の過剰を抑えることができます。
3. 外科手術
薬物療法や放射線療法が効果的でない場合、甲状腺の一部を摘出する手術が行われることもあります。
4. β遮断薬
症状の一時的な緩和として、動悸や手の震えを抑えるためにβ遮断薬(プロプラノロールなど)が処方されることもあります。
まとめ
甲状腺機能亢進症は、甲状腺ホルモンが過剰に分泌されることで、さまざまな身体的および精神的な症状を引き起こします。その原因は自己免疫疾患であるバセドウ病が最も多く、また腫瘍や薬物の影響なども関与します。早期に発見し、適切な治療を行うことで、症状を緩和し、正常な生活を取り戻すことが可能です。