甲状腺機能亢進症(または甲状腺の過活動)は、甲状腺が過剰にホルモンを分泌する状態を指します。これにより、体のさまざまな機能に影響を及ぼし、特に代謝が速くなりすぎるため、体重減少、心拍数の増加、手の震え、過剰な発汗などの症状が現れます。甲状腺機能亢進症の治療は、症状の軽減とホルモンの分泌量の正常化を目的として行われます。本記事では、甲状腺機能亢進症の治療方法について詳しく説明します。
1. 薬物治療
甲状腺機能亢進症の治療には、薬物療法が一般的に行われます。主に使用される薬剤は、甲状腺ホルモンの合成を抑制する「抗甲状腺薬」と呼ばれる薬です。代表的な薬剤には、以下のものがあります。

- メチマゾール(Tapazole): メチマゾールは、甲状腺ホルモンの合成を阻害することで、過剰なホルモンの分泌を抑えます。治療開始から数週間以内に効果を感じることができる場合が多いです。
- プロピルチオウラシル(PTU): PTUは、メチマゾールと同様に甲状腺ホルモンの合成を抑制する薬ですが、特に妊娠初期の患者に使用されることがあります。PTUは、メチマゾールに比べて副作用が少ないとされていますが、長期使用には注意が必要です。
これらの薬物治療は、甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑えるために有効であり、多くの患者がこの治療で症状の改善を感じます。しかし、薬物療法には副作用が伴うことがあるため、定期的な血液検査が必要です。また、薬を中止すると症状が再発する可能性があるため、長期的な治療が求められる場合もあります。
2. 放射線治療
放射線治療は、甲状腺機能亢進症の治療法の中でも比較的効果的な方法の一つです。この治療法では、放射線を使用して甲状腺の一部を破壊し、ホルモンの過剰分泌を抑えます。治療には、以下のような方法があります。
- 放射線ヨウ素治療(RAI): 放射線ヨウ素(I-131)を摂取し、これを体内に取り込ませることで、甲状腺細胞を破壊します。この治療法は、特に薬物治療が効果を示さない場合や、副作用が強すぎる場合に用いられます。放射線ヨウ素は甲状腺に集まり、過剰なホルモンの産生を抑えるため、症状が改善します。
放射線治療は一度の治療で効果を示すことが多く、治療後に甲状腺機能が低下することがあり、これにより甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモンが不足する状態)を引き起こす場合もあります。その場合、甲状腺ホルモンを補充する治療が必要になります。
3. 手術治療
手術による治療は、甲状腺機能亢進症が薬物治療や放射線治療で改善しない場合や、甲状腺が大きく腫れている場合に選択されることがあります。手術では、甲状腺の一部または全体を摘出することが行われます。手術後、甲状腺ホルモンの分泌が減少することがあり、そのためにホルモン補充療法が必要になる場合もあります。
手術治療は、短期間で症状の改善を見込むことができますが、手術に伴うリスクや合併症があるため、慎重に決定する必要があります。特に、声帯を支配する神経が損傷されるリスクがあるため、熟練した外科医による手術が求められます。
4. 生活習慣の改善とサポート
甲状腺機能亢進症の治療において、生活習慣の改善も重要な要素となります。過度なストレスや不規則な生活習慣が症状を悪化させる可能性があるため、以下のような生活改善が推奨されます。
- バランスの取れた食事: 栄養バランスを考えた食事を摂ることが、治療効果を高める助けになります。特に、ヨウ素が多い食品(海藻や魚介類)は注意が必要です。甲状腺機能亢進症の患者は、過剰なヨウ素摂取を避けることが求められる場合があります。
- 適度な運動: 体調を整え、ストレスを軽減するために、適度な運動を心がけることが重要です。ただし、過度な運動は逆効果となることがあるため、無理のない範囲で行うことが大切です。
- ストレス管理: ストレスが甲状腺に影響を与えることがあるため、リラクゼーション技法や趣味を楽しむことなど、ストレスを減らす工夫が必要です。
5. 定期的な診断とフォローアップ
甲状腺機能亢進症の治療後も、定期的な診断とフォローアップが欠かせません。治療が進行する中で、ホルモンバランスが変化することがあるため、血液検査を通じて甲状腺ホルモンのレベルを確認し、必要に応じて治療方法を調整することが求められます。症状の再発を防ぐためにも、定期的な医師の診察を受けることが大切です。
結論
甲状腺機能亢進症の治療方法は多岐にわたり、患者の症状や体調に応じた治療法を選択することが重要です。薬物療法、放射線治療、手術治療など、それぞれの治療法にはメリットとデメリットがあるため、医師とよく相談し、適切な治療を受けることが必要です。また、生活習慣を見直し、ストレスを管理することも、治療の成功をサポートする重要な要素となります。