甲状腺機能低下症(ひこうしょう、俗に言う「甲状腺の病気」)は、体内のホルモンバランスに大きな影響を与える疾患であり、その症状は身体的、精神的な健康にも影響を及ぼすことが知られています。甲状腺ホルモンは、新陳代謝を調整するため、体のエネルギーレベルや心身の状態に深く関わっています。甲状腺機能低下症が進行すると、心身の不調が現れ、その一つに「抑うつ症状」が挙げられます。本記事では、甲状腺機能低下症がどのようにして抑うつ症状を引き起こすのか、そのメカニズムや症例、治療法について詳しく解説します。
甲状腺と抑うつ症状の関連
甲状腺は、首の前面に位置する小さな腺で、体の代謝をコントロールするホルモンである「甲状腺ホルモン」を分泌します。甲状腺ホルモンには、「T3(トリヨードサイロニン)」と「T4(サイロキシン)」の2つの主要なホルモンがあります。これらのホルモンは、新陳代謝を促進し、エネルギーレベルや体温の調整を行います。

甲状腺機能低下症は、甲状腺が十分なホルモンを分泌しない状態です。ホルモンが不足すると、新陳代謝が遅くなり、体がエネルギー不足に陥ります。その結果、身体的な症状(疲労感、体重増加、寒がりなど)に加え、精神的な症状(抑うつ感、不安、集中力の低下など)が現れることがあります。
甲状腺ホルモンと脳の関係
甲状腺ホルモンは脳にも重要な役割を果たしており、特に気分や感情の調節に深く関与しています。甲状腺ホルモンは、神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンなどの働きにも影響を与えるため、これらのホルモンの不均衡が抑うつ症状を引き起こすことがあります。甲状腺ホルモンが不足すると、セロトニンの分泌が減少し、精神的に不安定になることがあります。
また、甲状腺ホルモンは、神経細胞の成長や再生を促進する役割も持っており、これが不足すると脳の働きにも悪影響を及ぼします。特に記憶や集中力、気分の安定に影響が出ることがあります。
甲状腺機能低下症と抑うつ症状の症例
実際、甲状腺機能低下症の患者さんの中には、抑うつ症状を訴えるケースが多く見られます。例えば、30代後半の女性が慢性的な疲れと体重増加を訴え、検査の結果、甲状腺機能低下症と診断されたケースでは、ホルモン補充治療を行った後に気分が改善し、抑うつ症状が緩和されたという報告があります。
また、50代の男性が突如として興味を失い、エネルギーが不足していると感じ、生活への意欲が低下していたところ、甲状腺機能低下症が見つかった例もあります。この場合も、治療を開始した後に精神的な健康が回復し、抑うつ症状が改善されたという報告があります。
これらの例からもわかるように、甲状腺機能低下症が治療されることで、抑うつ症状が改善することが多いのです。
甲状腺機能低下症の診断と治療法
甲状腺機能低下症の診断には、血液検査が最も一般的です。血液中の「TSH(甲状腺刺激ホルモン)」と「T4」のレベルを測定することで、甲状腺の働きが正常かどうかを確認します。もし、TSHが高く、T4が低い場合、甲状腺機能低下症と診断されます。
治療法としては、甲状腺ホルモンを補充する薬物療法が最も一般的です。代表的な薬物としては、合成T4(レボチロキシン)が処方されることが多いです。この薬を適切な量で服用することで、ホルモンバランスが正常に戻り、身体的および精神的な症状が改善されることが期待されます。
治療を開始してから数週間内に症状の改善が見られることもありますが、効果が現れるまでには数ヶ月かかる場合もあります。定期的な検査と治療の調整が必要です。
まとめ
甲状腺機能低下症は、体の代謝を遅くし、抑うつ症状を引き起こすことがある疾患です。甲状腺ホルモンが脳の神経伝達物質に与える影響により、精神的な不調が現れることがあります。しかし、適切な治療によって、甲状腺ホルモンのバランスを回復させることで、抑うつ症状は改善することが多いです。
もし、抑うつ症状や疲れやすさ、体重増加などの症状が続く場合は、甲状腺機能低下症を疑い、早期に専門医に相談することが重要です。