甲状腺癌は、甲状腺に発生する悪性腫瘍です。甲状腺は、喉の前部に位置する蝶の形をした内分泌腺で、体内のホルモンバランスを調整する重要な役割を果たしています。この腺は、代謝の調節に関与する甲状腺ホルモン(T3およびT4)を分泌し、心臓の機能、体温、体重管理などに影響を与えます。甲状腺癌は比較的珍しい癌の一つですが、近年、発症率は増加しています。この病気は、発症部位、癌細胞のタイプ、進行度などによっていくつかの種類に分類されます。
甲状腺癌の種類
甲状腺癌には主に以下の4つの種類があります。それぞれのタイプは、発症の仕方や治療法が異なります。

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乳頭状甲状腺癌(Papillary Thyroid Cancer)
乳頭状甲状腺癌は最も一般的なタイプで、甲状腺癌の約80%を占めます。この癌は、比較的予後が良好であり、早期に発見された場合には高い治療成功率を誇ります。乳頭状癌は通常、ゆっくりと成長し、遠隔転移の可能性も低いですが、まれにリンパ節に転移することがあります。 -
濾胞状甲状腺癌(Follicular Thyroid Cancer)
濾胞状甲状腺癌は乳頭状癌に次いで2番目に多く見られるタイプです。乳頭状癌に比べて少し悪性度が高く、転移のリスクがやや高いです。特に、遠隔転移として肺や骨に広がることがあります。 -
髄様甲状腺癌(Medullary Thyroid Cancer)
髄様甲状腺癌は、甲状腺に存在するC細胞から発生する癌です。このタイプの癌は、通常、遺伝的要因に関連しており、家族性に発症することがあります。髄様癌は他のタイプの甲状腺癌よりも悪性度が高く、早期に発見し、適切に治療しないと予後が悪くなる可能性があります。 -
未分化甲状腺癌(Anaplastic Thyroid Cancer)
未分化甲状腺癌は非常に稀で、最も悪性度が高い甲状腺癌のタイプです。この癌は急速に成長し、周囲の組織に広がりやすく、予後が非常に悪いことが多いです。早期に発見することが難しく、治療が難しいため、発見された時点で既に進行していることが多いです。
甲状腺癌の症状
甲状腺癌の初期段階では、明確な症状が現れにくいことが多いため、進行するまで気づかれないことがあります。しかし、いくつかの一般的な症状が現れることがあります:
- 首のしこり:甲状腺に腫瘍ができることで、首にしこりが現れることがあります。しこりが触れることによって、患者自身が気づく場合もあります。
- 喉の違和感や痛み:喉に異常を感じることがあり、特に飲み込むときに違和感を覚えることがあります。
- 声の変化:癌が進行すると、声がかすれる、または声帯に影響を与えることで声が変わることがあります。
- 呼吸困難:癌が周囲の組織や器官に広がると、呼吸困難を引き起こすことがあります。
- リンパ節の腫れ:甲状腺癌が転移して近くのリンパ節が腫れることがあります。
甲状腺癌の診断
甲状腺癌の診断にはいくつかの方法があります。最も一般的な診断法は、以下の手順に従って行われます:
- 触診:医師が首の部分を触診し、しこりや腫れを確認します。
- 超音波検査:甲状腺にしこりや異常が見られる場合、超音波検査を行って腫瘍の大きさや性質を調べます。
- 細胞診(針生検):超音波で異常が確認された場合、針を用いて腫瘍から細胞を採取し、癌細胞が含まれているかどうかを調べます。
- CTスキャンやMRI:転移の有無や癌の進行度を確認するために、CTスキャンやMRIを行うことがあります。
甲状腺癌の治療方法
甲状腺癌の治療方法は、癌の種類や進行度によって異なりますが、一般的な治療法には以下のものがあります:
- 手術:甲状腺癌の治療の基本は手術です。腫瘍のサイズや位置に応じて、部分的な甲状腺切除や全摘手術が行われます。手術後は、甲状腺ホルモンの不足を補うために、ホルモン療法が必要になることがあります。
- 放射線治療:手術後、再発のリスクを減らすために放射線治療が行われることがあります。特に、乳頭状や濾胞状癌の治療に用いられます。
- 化学療法:未分化甲状腺癌など、高悪性度の癌に対しては化学療法が使われることがあります。化学療法は、癌細胞を殺すために薬剤を使用する治療法です。
- 放射線ヨウ素治療:特に乳頭状や濾胞状甲状腺癌に有効な治療法で、放射線ヨウ素(I-131)を服用して、甲状腺癌細胞を破壊する治療法です。
甲状腺癌の予後
甲状腺癌は、一般的に早期に発見されると治療成功率が高い病気です。乳頭状甲状腺癌や濾胞状甲状腺癌は予後が良好であり、ほとんどの患者が治療後に完全回復することが可能です。しかし、髄様甲状腺癌や未分化甲状腺癌などの悪性度の高い癌は、進行が早く、治療が難しいため、予後が悪いことが多いです。
まとめ
甲状腺癌は、比較的予後が良い癌である場合が多いですが、早期発見が重要です。甲状腺癌の発症リスクを減らすためには、定期的な健康診断を受けることが推奨されます。また、甲状腺癌の治療は、手術を中心に行われることが多く、治療後も定期的な経過観察が必要です。症状に不安を感じた場合は、早期に医師に相談することが重要です。