マクロビオティックの思想を日本で広め、多くの人々に「食を通じて心と体の調和を取り戻す」大切さを説いたマリヤム・ノール(Mariam Nour)は、長年にわたり健康と食に関する独自の見解を展開してきた。その中心には、自然と調和した食生活こそが病を防ぎ、心身を清める鍵であるという信念がある。本記事では、マリヤム・ノールが強く推奨する、病を遠ざけるための食品群について、彼女の理論や提案とともに科学的根拠を交えながら、完全かつ包括的に解説する。
1. 精製されていない全粒穀物
マリヤム・ノールの食養生の中核に位置するのが、玄米、全粒小麦、キビ、アワ、ソバなどの未精製穀物である。これらは精白された米や小麦とは異なり、外皮や胚芽を含むため、以下のような健康効果が期待される。
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食物繊維が豊富:腸内環境を整え、便秘を防ぐ。
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ビタミンB群とミネラルが多い:エネルギー代謝と神経系の健康を支える。
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血糖値の安定:低GI食品として知られ、糖尿病の予防に有効。
また、玄米に含まれるγ-オリザノールは抗酸化作用を持ち、細胞老化の予防にも寄与する。
2. 季節の新鮮な野菜(特に根菜類)
ノールは、地中に根を張る野菜(ニンジン、大根、ゴボウなど)を「大地の力を宿す食材」として重視した。これらの野菜は、以下の点で病気予防に効果的とされる。
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免疫調整作用:特に大根に含まれるイソチオシアネート類は抗菌・抗ウイルス作用を示す。
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抗酸化作用:ニンジンのβ-カロテンやゴボウのクロロゲン酸は細胞の酸化ストレスを抑える。
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体を温める:東洋医学の視点から、根菜類は「陽性」の食材とされ、冷え性や低体温の改善に有効。
ノールはまた、これらの野菜を「蒸す」「煮る」「焼く」など、加熱調理によって体に穏やかに作用する形で摂取することを勧めている。
3. 海藻類(昆布・ワカメ・ヒジキ・アラメなど)
マリヤム・ノールは、「海からの贈り物」として海藻を推奨する。特に彼女は以下のような観点から海藻の積極的摂取を提唱した。
| 海藻の種類 | 主な成分 | 期待される効果 |
|---|---|---|
| 昆布 | ヨウ素、フコイダン | 甲状腺機能の正常化、免疫向上 |
| ワカメ | 食物繊維、カリウム | 高血圧予防、整腸 |
| ヒジキ | 鉄分、カルシウム | 骨粗しょう症の予防、貧血対策 |
| アラメ | マグネシウム、ポリフェノール | 抗酸化、血流改善 |
また、フコイダンやラミナリンといった海藻特有の多糖類には、がん抑制作用や抗ウイルス効果があるとする研究も近年増えてきており、科学的にも注目されている。
4. 発酵食品(味噌、納豆、漬物、ぬか漬けなど)
腸内環境の健全性は免疫機能と密接に関係しており、マリヤム・ノールは日本の伝統的な発酵食品を「微生物と共生する智慧の結晶」と称賛している。特に味噌については、「一日一椀の味噌汁が万病を防ぐ」とし、以下のような点を強調している。
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納豆菌や乳酸菌のプロバイオティクス効果
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大豆由来のイソフラボンによるホルモン調整作用
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発酵によって生成されるビタミンK2、酵素、ペプチドの免疫調整効果
また、放射線防御効果があるとされる味噌の成分(メラノイジン)は、ノールの反核・反放射能の思想とも共鳴している。
5. 良質な植物性たんぱく源(豆類・豆腐・テンペなど)
動物性たんぱく質を控え、植物性に置き換えることはマクロビオティックの柱であり、ノールの理論にも一致する。豆類には以下のような利点がある。
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血中コレステロールを下げるサポニンの含有
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腸内善玉菌の餌となるオリゴ糖
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筋肉・臓器の修復に必要な必須アミノ酸をバランスよく含む
また、テンペ(インドネシア発祥の大豆発酵食品)などの加工食品は、消化吸収が良く、胃腸の弱い人でも安心して摂取できる。
6. 天然の油脂(胡麻油・菜種油・亜麻仁油)
現代の食生活に蔓延する酸化油やトランス脂肪酸を避けるよう強く警鐘を鳴らしたノールは、昔ながらの低温圧搾法で作られた油脂のみを推奨した。中でも注目すべきは:
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胡麻油:抗酸化物質セサミンを多く含み、肝機能保護作用がある
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菜種油(キャノーラ油ではなく、在来種):オメガ3と6のバランスが良好
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亜麻仁油:α-リノレン酸が豊富で炎症抑制作用を持つ
これらの油は、加熱調理には不向きな場合があるため、和え物やサラダに活用することが望ましい。
7. 陰陽のバランスを考慮した食品選び
マリヤム・ノールは、単なる栄養素の摂取ではなく、食材の「エネルギー的性質」を重視した。たとえば:
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陰性食品(冷やす性質):果物、生野菜、南国系の作物
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陽性食品(温める性質):根菜、味噌、全粒穀物、塩など
極端にどちらかに偏ると身体のバランスが崩れるため、季節や体調に応じて食材を選び、「調和」を保つことが、病気の予防につながるという。
8. 精製糖と加工食品の完全排除
現代病の元凶として、ノールは砂糖や白い小麦粉、コンビニ食品、清涼飲料などを断固として排除する姿勢を取っていた。砂糖がもたらす負の作用は以下の通りである:
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免疫細胞の活動低下
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腸内悪玉菌の増殖促進
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血糖値の乱高下による精神的不安定
特に子供への砂糖の影響については、学習能力や注意力の低下、アレルギーの発症など、深刻な懸念を持っていた。
9. 水と塩の質にも徹底的にこだわる
ノールは、「水と塩が命をつくる」という信念をもとに、次のような指針を提示していた:
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水は湧き水または浄水器でろ過したものを常温で摂取
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塩は天然の海塩(粗塩)を使用し、精製塩は避ける
自然塩にはマグネシウムやカルシウム、カリウムなどのミネラルが豊富に含まれており、身体の電解質バランスを整える。
結論
マリヤム・ノールが提唱した食の智慧は、単なる健康法ではなく、人生そのものを見つめ直す哲学でもあった。彼女が推奨した食品群はいずれも、自然との共存、季節との調和、そして体内エネルギーのバランスを意識した選択である。科学的にも裏付けられつつある彼女の食理論は、予防医学や代替療法の観点からも大きな価値を持ち続けている。
病を遠ざけ、真に健やかな生活を送りたいと願うならば、マリヤム・ノールの提案する食品リストを日々の食卓に取り入れてみることが、第一歩となるだろう。
参考文献:
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日本マクロビオティック協会『マクロビオティック健康生活』
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内海聡『医学不要論』
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WHO/FAO: “Diet, Nutrition and the Prevention of Chronic Diseases”, Technical Report Series
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吉村裕之「現代栄養学と伝統食の融合」健康と食文化研究会報告書
