研究における「結果」と「考察・提言」の意義と書き方:完全かつ包括的な解説
科学的研究や学術論文において、「結果(Results)」と「考察・提言(Discussion and Recommendations)」は、研究全体の核心を担う重要なセクションである。この二つのパートは単なる事実の羅列や意見の記述ではなく、厳密なデータ解析と論理的推論を通じて読者に研究の価値と貢献を伝える役割を果たす。以下では、それぞれのパートについて、その目的、構成要素、書き方のポイント、そして研究分野ごとのバリエーションについて詳述する。

1. 「結果」セクションの本質的意義
「結果」セクションでは、研究で得られたデータや観察内容を正確かつ簡潔に示すことが求められる。これは研究者がどのような分析を行い、どのような知見を得たのかを示す部分であり、読者にとっては研究の信頼性を判断する重要な材料となる。
構成要素:
-
統計的な分析結果(平均値、標準偏差、p値、信頼区間など)
-
図表やグラフ(可視化による理解の促進)
-
定量的および定性的データ(必要に応じて両方を併用)
-
観察された傾向やパターン
注意点:
-
解釈や評価はこのセクションには含めない。
-
生データを羅列するのではなく、分析結果を論理的に構成する。
-
図表には必ずキャプションを付け、本文内で適切に言及する。
例(架空の研究テーマ:「日本の都市における都市緑化の効果」):
測定項目 | 平均気温低下(℃) | PM2.5濃度減少率(%) | 居住者満足度(5点満点) |
---|---|---|---|
東京 | 1.2 | 18.5 | 4.3 |
大阪 | 1.0 | 15.2 | 4.1 |
名古屋 | 0.8 | 12.7 | 4.0 |
上記のような表は、視覚的に効果を把握しやすくし、読者の理解を助ける。
2. 「考察」セクション:結果に命を吹き込む
「考察(Discussion)」では、結果をどのように解釈すべきか、先行研究とどのように整合・矛盾するか、どのような理論的または実務的意義があるのかを論じる。つまり、ここでは「結果が何を意味するのか」を読者と共に探求する。
主な目的:
-
得られた結果の解釈
-
研究目的との整合性の評価
-
既存文献との比較
-
予期せぬ結果や限界の検討
-
新たな仮説や知見の提示
書き方のポイント:
-
結果の要約から始め、それに基づく意味づけへと展開する。
-
一方的な主張ではなく、根拠ある論理に基づく解釈を行う。
-
否定的な結果であっても、その原因や意義を冷静に考察する。
-
他研究との比較には、具体的な文献名や研究者名、発表年などを示す。
例:
「本研究により、都市緑化が気温の低下や大気汚染の軽減に寄与することが確認された。特にPM2.5の減少率においては、過去に田中ら(2019)が報告した数値(10〜12%)を上回る結果となった。これは対象地域における緑化の規模と密度の違いに起因する可能性がある。さらに、居住者の満足度も高く、緑化が心理的な幸福感にも影響を与えることが示唆された。」
3. 「提言」セクション:研究を社会に結びつける
「提言(Recommendations)」は、研究成果をどのように応用し、今後の研究や政策に活かすべきかを述べるパートである。特に応用研究や実務寄りの研究では、この部分が極めて重要である。
提言の種類:
-
政策的提言(例:都市計画、教育制度、医療制度)
-
研究的提言(例:今後の研究テーマ、方法論の改善点)
-
技術的・実務的提言(例:企業活動への応用、人材育成の方向性)
書き方の留意点:
-
実現可能性のある現実的な内容にする。
-
根拠として得られたデータや他の研究結果に裏打ちされていること。
-
あくまで提案であり、断定口調や強制的な表現は避ける。
-
利害関係者(政府、企業、市民など)の立場を考慮する。
例:
「本研究の結果を踏まえ、自治体は都市緑化プロジェクトにおいて、単なる面積の拡大ではなく、居住者との対話を通じた『参加型緑化』を推進すべきである。また、PM2.5削減に関する成果を最大化するためには、植生の種類や配置にも配慮した設計ガイドラインの策定が望ましい。さらに、今後の研究では、緑化とメンタルヘルスの関連について定量的に検証することが有益である。」
4. 分野別の違いと具体的な表現方法
分野 | 結果の形式 | 考察の焦点 | 提言の内容例 |
---|---|---|---|
医学・生命科学 | 臨床試験の統計データ、図、症例報告 | 治療効果、安全性、副作用、臨床応用性 | 診療ガイドラインへの反映、追跡研究の必要性 |
社会科学 | アンケート集計結果、相関分析、回帰分析 | 社会的背景との関係、制度的課題 | 教育制度の改革、政策的示唆 |
工学・技術 | 実験データ、性能評価、数値解析 | 技術的限界、装置の最適化 | 製品開発への応用、技術規格の改良 |
環境学 | 環境指標の変化、時系列データ | 自然要因・人為要因の影響、持続可能性の視点 | 環境保全政策、啓発活動の強化 |
5. 結果・考察・提言の連携と論文全体への影響
「結果」「考察」「提言」はそれぞれ独立した役割を持ちながらも、論文全体としての統一感を持たせる必要がある。結果で提示した事実が、考察で適切に意味づけされ、最終的に提言として社会や学術界に対して貢献できる形で昇華される流れが理想である。
論理的な一貫性のある構成:
-
「Aという結果 → Bという解釈 → Cという提言」という論理展開を明確にする。
-
図表や数値がどのように考察と結びつくのか、読者にわかりやすく説明する。
-
再現性と透明性を保つため、使用した手法やデータの出所も明記する。
6. 総括
研究における「結果」と「考察・提言」は、単なるデータ報告や意見表明にとどまらず、学術的な信頼性と社会的応用性の橋渡しをするものである。特に日本の研究者が国際的に認知されるためには、このセクションを通じてどれだけ明確かつ説得力のあるメッセージを伝えられるかが鍵となる。
日本の学術界には、厳密なデータ分析と繊細な論理構築を得意とする強みがある。その強みを最大限に活かすためにも、「結果」「考察」「提言」の各セクションにおける記述を戦略的かつ誠実に行うことが求められる。
参考文献
-
田中一郎(2019)『都市緑化の気候調整効果に関する実証研究』環境研究ジャーナル、第12巻、45–62頁。
-
日本学術会議(2021)『学術論文の執筆指針 第3版』。
-
Ministry of the Environment Japan (2020), “Urban Greening and Air Quality Improvement Initiatives”.
-
山本美和子(2023)『論文の書き方:科学的思考と文章表現』東京大学出版会。
このガイドは、結果と考察・提言のセクションに関して体系的かつ応用可能な知識を提供することを目的としている。どの分野においても、この基礎的理解が高品質な研究論文の礎となる。