研究問題の設定は、学術研究における最も重要なステップの一つである。それは研究の方向性を定め、目標を明確にし、論理的な一貫性を確保する役割を担っている。本稿では、「問題の明確な特定」「科学的表現の重要性」「適切な構成要素」「一般的な間違いとその回避方法」「実践例と応用」の五つの観点から、科学的で優れた研究問題の設定方法について詳細に論じる。
問題の明確な特定
まず、科学的な研究問題を設定するためには、問題自体を正確かつ明確に特定する必要がある。これには、対象とする分野に関する広範な文献調査が不可欠であり、既存の知識体系におけるギャップや未解決の課題を特定する作業が含まれる。
このプロセスでは、以下の点を意識する必要がある。
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限定的で具体的な問題提起:問題は広すぎず、研究可能な範囲に絞る必要がある。
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現実との関連性:理論的意義だけでなく、実社会における応用可能性にも注目する。
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先行研究との関連付け:自らの研究がどのように既存の研究に貢献するのかを明確にする。
例
誤った設定例:「教育におけるテクノロジーの影響」
→あまりにも広範で漠然としている。
適切な設定例:「日本の中学校におけるタブレット端末の導入が英語学習の成績に与える影響」
→対象、対象者、変数が明確であり、研究しやすい範囲に限定されている。
科学的表現の重要性
問題設定における科学的表現とは、客観性と明確性を持った言語を使用することである。主観的な感情や価値判断を排除し、測定可能な概念に基づいて記述することが求められる。
以下に科学的表現に必要な要素を列挙する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 客観性 | 個人的な意見や思い込みを排除する |
| 明確性 | 曖昧な語句や多義的表現を避ける |
| 測定可能性 | 定義された変数に基づき、検証可能にする |
| 一貫性 | 用語の定義や使用方法を統一する |
科学的な問題設定では、感覚的な表現(例:「とても重要である」「非常に興味深い」)を避け、データや観察に基づく言語を使用することが必須である。
適切な構成要素
研究問題を効果的に設定するためには、以下の構成要素を明確に盛り込む必要がある。
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背景情報
なぜこの問題が重要なのかを説明する。文献レビューを通じて、問題の社会的、学術的意義を示す。 -
問題文の明確化
研究が取り組む中心的な問いを一文で表現する。ここでは冗長さを避け、簡潔に記述する。 -
研究対象と範囲の設定
誰(What)、どこ(Where)、いつ(When)を明確にする。これにより、研究の焦点が絞られ、曖昧さを排除できる。 -
仮説または研究疑問の提示
予測される結果を仮説として提示する場合や、特定の問い(Research Questions)を提示する場合がある。 -
目的と意義の明示
本研究が学問的または社会的にどのような貢献をするのかを明確に述べる。
一般的な間違いとその回避方法
研究問題の設定において陥りがちな間違いと、それを防ぐための対策を以下に示す。
| よくある間違い | 説明 | 回避方法 |
|---|---|---|
| 問題が広すぎる | あいまいで測定不可能 | 対象、変数、対象者を具体的に設定 |
| 価値判断の混入 | 「〇〇は悪い」などの主観的表現 | 客観的データに基づく記述 |
| 解決済みの問題を扱う | 新規性がない | 最新の文献をレビューして未解決課題を特定 |
| 誤った因果関係の仮定 | 科学的根拠に欠ける仮説 | 根拠となる先行研究を精査する |
| 文法・論理の誤り | 文章構造が不明確で論旨がぶれる | 何度も校正・推敲を行う |
実践例と応用
以下に、具体的な実践例を示す。これにより、理論だけでなく実際にどのように問題設定が行われるかを理解できる。
実践例1:心理学分野
背景
現代社会におけるストレスレベルの増加により、若年層のメンタルヘルスへの影響が懸念されている。
問題文
大学生におけるSNS利用時間と抑うつ傾向の関連性に関する研究。
仮説
大学生のSNS利用時間が長いほど、抑うつ傾向が高まると予測される。
意義
若年層のメンタルヘルス支援に向けた具体的な介入策の開発に貢献できる。
実践例2:教育学分野
背景
近年、遠隔教育プログラムが急速に普及しているが、その効果には議論がある。
問題文
中学生に対するオンライン授業と対面授業の学習成果の比較分析。
仮説
対面授業を受けた生徒はオンライン授業を受けた生徒よりも、学力テストの成績が高いと予想される。
意義
遠隔教育の質的向上と、教育政策への示唆を提供する。
まとめ
優れた研究問題の設定には、広範な文献調査、明確な焦点設定、科学的で客観的な表現、適切な構成要素の組み立てが求められる。これにより、研究の品質と信頼性は飛躍的に高まり、学問的貢献だけでなく社会的インパクトも増大する。
さらに、問題設定においては、「何を、なぜ、どのように」研究するのかを常に意識し続けることが不可欠である。単なる形式的な作業ではなく、研究活動の根幹をなすクリエイティブかつ批判的思考のプロセスであることを忘れてはならない。
今後、より複雑化する社会課題に対応するためにも、科学的で独創的な問題設定力はますます重要性を増していくであろう。したがって、研究者はこのスキルを体系的に磨き続けるべきである。
参考文献:
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Creswell, J. W. (2014). Research Design: Qualitative, Quantitative, and Mixed Methods Approaches. SAGE Publications.
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Booth, W. C., Colomb, G. G., & Williams, J. M. (2008). The Craft of Research. University of Chicago Press.
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大学院生のための研究計画作成ガイド(日本心理学会発行)
【注意】本記事は日本国内の学術基準に即して作成されており、引用・参照に際しては適切な文献管理を行うことを推奨する。
