電気エネルギーを機械的エネルギーに変換する装置、それが「電動モーター(電気モーター)」である。この記事では、極めて基本的な原理を理解しながら、自宅で再現可能な「簡単な電動モーターの製作方法」について、科学的な解説と共に包括的に説明する。特別な工具や高価な部品は不要であり、中学生レベルの物理知識があれば十分に理解できる内容となっている。以下では、モーターの構造、動作原理、必要な材料、組み立て手順、安全上の注意点、さらには実験の発展的な応用についても網羅的に扱う。
簡易電動モーターの基礎原理
電動モーターは、「電磁誘導」と「ローレンツ力」の原理を利用して回転運動を生み出す。電流が導線を流れると、その周囲に磁場が発生する。この導線が永久磁石の磁場内にある場合、導線に働くローレンツ力(磁場中を流れる電流が受ける力)によって物理的な力が発生し、その結果として導線が動く、すなわち回転する。

この基本構造は、産業用の複雑なモーターでも変わらないが、ここでは最も単純な「整流子なし・ブラシモーター」の一種である「ワイヤーコイルモーター」を製作する。
使用材料と道具一覧(すべて入手容易)
材料名 | 数量 | 説明 |
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銅線(エナメル線) | 約1m | 絶縁被膜のある細い銅線。コイルを作るために使用。 |
単三乾電池 | 1本 | 電源として使用。 |
磁石(ネオジム磁石推奨) | 1個 | 強力な永久磁石。電磁場を作り出すために使用。 |
電池ホルダー | 1個 | 乾電池を安定的に固定し、電流を供給するための台。 |
ペーパークリップ(または安全ピン) | 2個 | コイルの軸受けとして使用。導通性も重要。 |
サンドペーパーまたはカッター | 1個 | 銅線の皮膜を削って電気を通すため。 |
両面テープ・グルーガン等 | 適量 | 部品を固定するための補助材。 |
製作手順
① コイルの作成
銅線を約15〜20回、直径1.5〜2cm程度の円形に巻いてコイルを作成する。両端は3cm程度残しておき、軸として使えるよう真っ直ぐに整える。コイル全体が均一な円になるよう、中央にシャープペンの軸やマーカーを使って巻くと良い。
② 絶縁皮膜の処理
コイルの両端のうち片面のみ全体を、もう片面は半分だけサンドペーパーで削って、銅線の金属面を露出させる。これにより、片側は常時通電し、もう片側は回転時のみ断続的に通電するようになり、回転運動が持続する。
③ 支持構造の作成
ペーパークリップを開いて「U字型」に曲げ、電池ホルダーの両端に取り付けて支点とする。銅線の軸(両端)をこのU字の窪みに乗せることで、コイルが自由に回転できる構造になる。クリップの先端が導通するよう、やすりで磨いておくこと。
④ 磁石の設置
乾電池の下部に強力なネオジム磁石を直接貼り付ける。コイルがこの磁石の上を通るように位置調整する。磁石がずれていると回転力が得られない。
⑤ 電源を接続して回転開始
乾電池を電池ホルダーに装着し、コイルを支点に乗せる。手で軽く回転を与えると、ローレンツ力によってコイルが自走し始める。適切に調整されていれば、連続的に回転する。
回転が起こらないときの確認ポイント
現象 | 考えられる原因 | 対策 |
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回らない | 絶縁皮膜が削れていない | サンドペーパーで再度磨く |
少しだけ動いて止まる | 支点の摩擦が大きい、または電池電圧が不足 | ペーパークリップの位置を再調整し電池を交換 |
回転方向が不安定 | 両端の削り方が不均一 | 片側は「全体」、もう片側は「半分」だけ削る |
磁力が弱い | 磁石が小さい、または位置がずれている | 強力なネオジム磁石を使用し中央に配置 |
実験の発展:電磁波、回転数、効率の測定
簡易モーターは教育用実験として非常に優れており、以下のような派生実験も可能である。
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回転数の測定:LEDと光センサーを用いて、1分間の回転数を測定することができる。
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入力電力と出力効率の比較:モーターにかかる電圧・電流と、回転トルクを用いて、効率計算が可能。
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コイル巻数の影響:コイルの巻き数や直径を変化させて回転力の変化を比較する。
科学的意義と教育的応用
この簡易モーターは、単に楽しい工作としてだけでなく、物理教育の実践教材として極めて高い価値を持つ。電磁力、エネルギー変換、導体と絶縁体、摩擦、回転運動など、複数の物理的概念を実体験を通じて学ぶことができる。また、STEM教育においても優れた実践例として評価されており、児童・生徒の創造力育成にも寄与する。
安全上の注意
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磁石は非常に強力なものを使用するため、指を挟まないよう注意する。
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銅線の皮膜削りには刃物を使う場合があるため、手元に注意。
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電池が発熱することがあるため、長時間の連続使用は避ける。
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子どもが作業する場合は、必ず大人の監督の下で行う。
終わりに:日常から生まれる科学の感動
このようにして作られる「自作モーター」は、一見すると単純な構造でありながら、そこには現代科学の核心が詰まっている。現代社会のあらゆる場面で活躍する電動モーターの原点を自らの手で再現できることは、科学への関心と理解を深める第一歩である。実験の成功はもちろん、失敗から得られる学びもまた大きい。
技術の進化が著しい現代にあって、こうした基本原理への立ち返りは決して無駄ではなく、むしろ未来のイノベーションの源泉となる。家庭で、学校で、あるいは地域のワークショップで、この簡易モーターを通じて、多くの人が科学の楽しさに触れることを願ってやまない。
参考文献
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斎藤精一『電磁気学入門』東京大学出版会、2015年
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日本物理学会「モーターの動作原理と応用」科学技術白書、2020年
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高校物理教科書(文部科学省検定済)令和2年度版
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日本電気学会編『実験で学ぶ電磁力の世界』丸善出版、2018年
この記事は、日本の中学生から大学生、教育関係者、科学愛好家までを対象にしており、実用的かつ本格的な内容に基づいて作成された。日本の読者の知的好奇心を満たし、科学への尊敬を育む一助となれば幸いである。