肝硬変(かんこうへん)は、肝臓の慢性疾患の末期段階として知られ、肝細胞の破壊と線維化が進行することで肝機能が著しく低下する状態である。この病態は、長年にわたる肝臓への慢性的な障害の結果として現れることが多く、放置すれば致命的となる可能性がある。本稿では、肝硬変の治療法について、現代医療の視点と補完代替医療の両面から、最新の研究成果をもとに網羅的かつ科学的に解説する。
肝硬変の病因と病態生理
肝硬変の主要な原因としては、以下が挙げられる:

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慢性ウイルス性肝炎(特にB型・C型肝炎)
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アルコール性肝疾患
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非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
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自己免疫性肝疾患
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胆汁性肝硬変(原発性胆汁性胆管炎、原発性硬化性胆管炎)
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薬物性肝障害
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鉄や銅の代謝異常(ヘモクロマトーシス、ウィルソン病)
肝細胞が繰り返し損傷を受けることで、線維化が進行し、肝組織が再生結節(ノジュール)として形成される。これにより肝血流が障害され、門脈圧亢進や肝機能不全を引き起こす。
治療の基本原則
肝硬変の治療の目的は、病態の進行を抑制し、合併症を予防または管理し、最終的には生活の質(QOL)を維持・改善することである。完全な治癒は現時点では困難だが、原因に応じた治療介入により、進行を大幅に抑えることが可能である。
原因疾患への治療
ウイルス性肝炎に対する抗ウイルス療法
ウイルス型 | 治療法 | 効果 |
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B型肝炎 | テノホビル、エンテカビルなどの核酸アナログ製剤 | ウイルス増殖抑制、線維化の進行抑制 |
C型肝炎 | 直接作用型抗ウイルス薬(DAAs:ソホスブビル+レジパスビルなど) | 90%以上の治癒率 |
アルコール性肝疾患
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完全な禁酒が最も重要。
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必要に応じて心理的サポート、断酒補助薬(ジスルフィラム、アカンプロサートなど)。
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
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生活習慣の改善(食事療法、運動療法)。
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体重の5~10%の減少が肝線維化の改善に有効。
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抗糖尿病薬(ピオグリタゾン)、ビタミンE、GLP-1作動薬などの薬物療法が試みられる。
線維化の進行抑制と肝再生の促進
肝線維化の逆転は可能であるというエビデンスが近年増加しており、以下の介入が注目されている。
抗線維化薬の開発
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セルセプト(ミコフェノール酸):免疫抑制と線維化抑制作用。
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ペグインターフェロン:ウイルス除去とともに抗線維化作用がある。
幹細胞治療
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間葉系幹細胞を用いた再生医療は、肝機能の回復を促す可能性がある。
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国内外で臨床試験が進行中。
合併症の管理
食道胃静脈瘤の出血予防
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非選択的β遮断薬(プロプラノロールなど)の投与。
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内視鏡的静脈瘤結紮術(EVL)の定期的実施。
腹水・浮腫
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ナトリウム制限(1日2g未満)。
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利尿薬(スピロノラクトン、フロセミド)の使用。
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難治性腹水に対して腹腔穿刺+アルブミン補充。
肝性脳症
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血中アンモニア値の低下を目指す。
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ラクツロースやリファキシミンの投与。
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タンパク制限と分岐鎖アミノ酸の補充。
肝腎症候群
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ボリプレッシン類似薬+アルブミンの併用療法。
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一時的な透析の導入も検討。
肝移植
終末期肝硬変に対しては肝移植が唯一の根治的治療となる。以下のようなケースが適応となる:
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MELDスコアが高い(重症)
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繰り返す腹水や脳症、静脈瘤出血
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肝細胞癌が移植基準内にある場合(ミラノ基準など)
生体肝移植や脳死肝移植のいずれかが行われ、日本では生体移植が主流である。
補完代替医療と栄養管理
栄養療法
肝硬変では栄養障害が非常に多いため、下記のような介入が推奨される:
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高エネルギー食(25〜35 kcal/kg/日)
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高タンパク質(1.2〜1.5 g/kg/日)
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分岐鎖アミノ酸(BCAA)サプリメント
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夜食(レイトスナック):肝糖新生を助ける
漢方・伝統医療
一部の漢方薬(小柴胡湯、大建中湯など)は、肝機能の改善や症状緩和に寄与する可能性が示されているが、薬物性肝障害のリスクもあるため専門医の指導が不可欠である。
肝硬変における定期的フォローアップとモニタリング
肝硬変患者には以下のような定期検査が不可欠である:
項目 | 頻度 | 目的 |
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腹部超音波検査 | 6ヶ月ごと | 肝細胞癌の早期発見 |
血液検査(AST, ALT, ALP, ビリルビン, アルブミン) | 1〜3ヶ月ごと | 肝機能の評価 |
腫瘍マーカー(AFP, PIVKA-II) | 6ヶ月ごと | 肝癌マーカーのモニタリング |
内視鏡検査 | 1〜2年ごと | 食道静脈瘤の有無確認 |
予後と生活指導
肝硬変の予後は、Child-Pugh分類やMELDスコアを用いて評価される。以下の表に主な分類を示す。
Child-Pugh分類の指標
指標 | 点数1 | 点数2 | 点数3 |
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ビリルビン | <2.0 mg/dL | 2.0–3.0 | >3.0 |
アルブミン | >3.5 g/dL | 2.8–3.5 | <2.8 |
PT-INR | <1.7 | 1.7–2.3 | >2.3 |
腹水 | 無し | 軽度 | 中等度〜高度 |
脳症 | 無し | I–II度 | III–IV度 |
このスコアに基づき、A〜Cの3段階で予後が分類される。
生活指導の要点
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アルコールの完全禁酒
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ワクチン接種(肝炎、肺炎球菌、インフルエンザ)
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薬物の自己判断使用の禁止
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安全な食品の摂取(生牡蠣などリスクのある食品を避ける)
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感染症予防(衛生管理、マスク着用)
おわりに
肝硬変は、適切な診断と多面的な治療介入によって、進行の抑制や合併症の予防が可能である疾患である。ウイルス性肝炎の治療の進歩や肝移植医療の発展により、予後は改善傾向にある。加えて、食事療法や生活習慣の改善、定期的なモニタリングの徹底が重要な鍵を握る。今後の再生医療や抗線維化治療の革新により、肝硬変の完全治癒も視野に入る時代が到来しつつある。