肝臓は、消化器系の中で非常に重要な役割を果たす臓器であり、体内のさまざまな代謝機能を担っています。肝臓には、体内で生成される有害物質を解毒し、エネルギーを蓄え、ホルモンの合成を行い、さらに血液の凝固因子の生成にも関与しています。しかし、肝臓はウイルスや細菌、真菌などの感染症にも影響を受けることがあり、これを「肝臓の感染症(肝臓のインフェクション)」と呼びます。これらの感染症は、肝臓の機能に重大な影響を与える可能性があり、早期の発見と治療が非常に重要です。
本記事では、肝臓の感染症の原因、臨床症状、診断方法について、詳細に説明します。
1. 肝臓感染症の種類とその原因
肝臓に感染を引き起こす病原体には、主にウイルス、細菌、真菌が存在します。それぞれの病原体が引き起こす疾患には特徴があり、感染経路や治療方法も異なります。以下に代表的な肝臓感染症を挙げ、それぞれの原因について説明します。
1.1 ウイルス性肝炎
ウイルス性肝炎は、肝臓感染症の中で最も一般的なものの一つです。ウイルス性肝炎は、特にB型およびC型の肝炎ウイルス(HBVおよびHCV)によって引き起こされます。これらのウイルスは血液や体液を介して感染し、肝臓に炎症を引き起こします。
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B型肝炎(HBV)
B型肝炎ウイルスは、血液、精液、母乳、唾液などを通じて感染します。急性肝炎から慢性肝炎に進行し、最終的には肝硬変や肝臓癌を引き起こす可能性があります。 -
C型肝炎(HCV)
C型肝炎ウイルスは、主に血液を介して感染します。特に注射針の共有や輸血が感染経路となることが多いです。慢性化することが多く、長期的な肝障害を引き起こす可能性があります。 -
A型およびE型肝炎(HAVおよびHEV)
A型肝炎とE型肝炎は、主に汚染された水や食物を介して感染します。これらは急性の肝炎を引き起こし、通常は回復が見込まれますが、特に妊婦にとっては重篤な場合があります。
1.2 細菌性肝炎
細菌による肝臓感染症は、一般的に細菌性敗血症や胆道感染症から派生することがあります。最も一般的な原因菌は、大腸菌(Escherichia coli)や腸球菌、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)などです。これらの細菌は血液を通じて肝臓に到達し、感染を引き起こします。
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肝膿瘍
細菌が肝臓に感染し、膿を形成することを肝膿瘍と言います。これは重篤な状態であり、適切な治療が行われないと命に関わることがあります。
1.3 真菌性肝炎
真菌による肝臓感染症は比較的稀ですが、免疫力が低下している患者に見られることがあります。代表的な原因菌は、カンジダ菌やアスペルギルス菌です。これらは血流を通じて肝臓に感染し、炎症を引き起こします。
2. 肝臓感染症の臨床症状
肝臓の感染症はその原因によってさまざまな症状を引き起こしますが、共通して見られる症状も多いです。以下は一般的な臨床症状です。
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黄疸
肝臓が正常に機能しないと、ビリルビンという物質が体内に蓄積し、皮膚や目の白い部分が黄色くなる「黄疸」が発生します。 -
倦怠感や食欲不振
肝臓の炎症は全身に影響を及ぼし、患者は倦怠感を感じることが多く、食欲が低下します。 -
腹痛や上腹部の不快感
肝臓が腫れると、腹部の右上に痛みや不快感を感じることがあります。 -
発熱
特に細菌や真菌による感染症では、高熱が続くことがあります。 -
体重減少
慢性的な肝疾患では、食欲不振や消化不良が原因で体重が減少することがあります。 -
浮腫や腹水
肝機能が低下すると、体内の水分バランスが崩れ、浮腫(むくみ)や腹水が発生することがあります。
3. 診断方法
肝臓感染症の診断は、患者の症状と病歴に基づいて行われ、いくつかの検査が必要となります。以下は主な診断方法です。
3.1 血液検査
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肝機能検査
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)やALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、ビリルビン、アルカリフォスファターゼ(ALP)などの値を測定します。これらの酵素が高値を示すと、肝臓に炎症があることが示唆されます。 -
ウイルスマーカー検査
B型肝炎やC型肝炎の場合、血液中のウイルスマーカー(HBsAg、Anti-HCV抗体など)を測定して感染の有無を確認します。
3.2 画像検査
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超音波検査
肝臓の大きさや形態、膿瘍や腫瘍の有無を確認するために用いられます。 -
CTスキャンやMRI
より詳細な画像を提供し、肝臓の病変の位置や広がりを評価するために使用されます。
3.3 生検
場合によっては、肝臓の一部を採取して組織検査を行うことがあります。これは、肝臓の状態をより正確に把握するために行われます。
4. 治療方法
肝臓感染症の治療は、原因となる病原体に基づいて異なります。以下は主な治療法です。
4.1 抗ウイルス薬
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B型肝炎
B型肝炎には、インターフェロンや核酸アナログ(エンテカビル、テノフォビルなど)が使用されることがあります。 -
C型肝炎
C型肝炎は、直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)を用いて治療します。
4.2 抗生物質
細菌性肝炎の場合、適切な抗生物質が投与されます。抗生物質の選択は、原因菌の種類によって決定されます。
4.3 抗真菌薬
真菌性肝炎には、抗真菌薬(アムホテリシンBやフルコナゾールなど)が使用されます。
4.4 支持療法
肝臓が重篤な状態にある場合、入院して点滴や栄養管理を行い、肝機能をサポートすることが必要となる場合もあります。
結論
肝臓の感染症は、早期に発見し適切な治療を行うことが非常に重要です。ウイルス性、細菌性、真菌性の肝炎それぞれに特徴的な症状があり、診断には血液検査や画像診断が不可欠です。感染症による肝臓への影響は重大であり、放置すると肝硬変や肝臓癌といった深刻な病状に進行することがあります。そのため、肝臓の健康を守るためには、定期的な検査と早期の治療が重要です。
