肺血栓塞栓症(いわゆる「肺塞栓症」)は、肺の血管が血栓(血の塊)によって塞がれる病気で、非常に危険な状態を引き起こす可能性があります。この疾患は、治療が遅れると命に関わることもあるため、早期の認識と迅速な治療が求められます。以下に、肺血栓塞栓症の原因について詳細に説明します。
1. 深部静脈血栓症(DVT)
肺血栓塞栓症の最も一般的な原因は、深部静脈血栓症(DVT)です。DVTは、通常、足の深部静脈に血栓ができることを指し、これが血流を介して肺に移動し、肺の動脈を塞ぐことによって肺塞栓症を引き起こします。血栓が深部静脈に形成される主な原因は、以下のようなものがあります。

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長時間の安静:長時間座っていることや寝ていることが原因で、血流が滞り、血栓ができやすくなります。特に、手術後や入院中の患者、飛行機の長時間移動中の人々はリスクが高いです。
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外傷や手術:外傷や手術後、血管が損傷し、血液の流れが乱れることが血栓の形成を引き起こすことがあります。
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ホルモン療法:特に経口避妊薬やホルモン補充療法は、血栓のリスクを増加させることが知られています。
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肥満:肥満は血液循環に負担をかけ、血栓のリスクを高めます。
2. 心臓疾患
心臓疾患、特に心房細動(心房の不規則な収縮)は、肺塞栓症の原因となる可能性があります。心房細動によって、血液が心房内でうまく流れず、血栓が形成されやすくなります。この血栓が心臓から血管を通じて肺に移動すると、肺塞栓症を引き起こします。
3. 血液凝固障害
血液が異常に凝固しやすくなる病気があると、血栓が形成されやすくなり、肺塞栓症のリスクが高まります。これには遺伝的要因や、以下のような疾患が含まれます。
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抗リン脂質抗体症候群:この疾患は、血液中のリン脂質に対する抗体が過剰に産生され、血栓が形成されやすくなるものです。
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ファクターVライデン変異:この遺伝的な異常があると、血液が凝固しやすくなります。
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プロトロンビン遺伝子変異:この変異があると、血液の凝固が異常に促進され、血栓が形成されやすくなります。
4. がん
がん患者は、血栓症を引き起こすリスクが高いことが知られています。がん細胞が血管内に浸透し、血液の凝固を促進する物質を分泌するためです。特に、肺がんや大腸がん、膵臓がんなどが関与しやすいとされています。がん患者の場合、がん治療(化学療法や放射線治療)が血栓症のリスクを高めることもあります。
5. 高齢
年齢が進むにつれて、血管が硬くなり、血流が悪化するため、血栓ができやすくなります。特に65歳以上の高齢者は、肺塞栓症を発症するリスクが高いとされています。
6. 妊娠と出産
妊娠中は、ホルモンの変化により血液が凝固しやすくなります。また、出産後も血栓症のリスクが高くなるため、妊娠中や出産後の女性は、肺血栓塞栓症にかかる危険性が増します。特に、帝王切開などの外科手術を受けた場合は、血栓形成のリスクが高まります。
7. 喫煙
喫煙は血管を傷つけ、血流を悪化させ、血栓を形成しやすくします。長期的な喫煙は、肺塞栓症のリスクを大幅に増加させる要因の一つです。
8. 遺伝的要因と家族歴
家族に肺塞栓症や深部静脈血栓症を患った人がいる場合、遺伝的要因が関与している可能性があります。血液凝固異常や血管の弱さが遺伝的に受け継がれることがあります。
9. 生活習慣と環境要因
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運動不足:長期間運動をしない生活を送っていると、血流が滞り、血栓ができやすくなります。特に座りっぱなしの仕事をしている人や、運動を避ける傾向のある人は注意が必要です。
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高血圧:高血圧は血管に負担をかけ、血栓のリスクを増加させます。特に、長期的な高血圧が続くと、血管が傷つきやすくなります。
結論
肺血栓塞栓症は、非常に危険な病気ですが、早期に原因を特定し、適切な治療を行うことで、そのリスクを大幅に減らすことができます。深部静脈血栓症や心疾患、がん、遺伝的な血液凝固異常など、様々な要因が肺塞栓症の原因となります。生活習慣を改善し、定期的に医師の診断を受けることが予防に繋がります。また、症状が現れた際には迅速に対応することが重要です。