一般外科

胃切除手術の副作用

胃切除手術の副作用と合併症:完全かつ包括的な分析

胃切除手術(いわゆる「スリーブ手術」)は、肥満治療における外科的アプローチの一つであり、近年では日本を含む世界各国で増加傾向にある。この手術は、胃の約75〜80%を切除し、残った部分をバナナ状に形成することで、食事の量を物理的に制限し、満腹感を早く得られるようにする治療法である。一見すると、劇的な体重減少と健康の改善が得られるように思えるが、手術には短期的および長期的なリスクと副作用が存在する。本稿では、胃切除手術に伴う主なデメリットと医学的リスクについて、科学的根拠に基づき網羅的に解説する。


栄養吸収の障害と欠乏症

胃の切除によって、栄養素の吸収に関与する重要な生理機能が損なわれる。特に以下のような栄養素の欠乏が報告されている:

栄養素 欠乏による症状 欠乏の理由
ビタミンB12 貧血、しびれ、神経障害 胃壁のパリエタル細胞が減少し、内因子(ビタミンB12吸収に必須)の分泌が減少するため
鉄欠乏性貧血、倦怠感 胃酸の分泌量減少により鉄の吸収効率が低下
カルシウム 骨粗鬆症、筋肉のけいれん 胃酸がカルシウムの吸収を助けるため、胃酸減少により吸収効率が落ちる
葉酸 貧血、胎児の神経管閉鎖障害(妊娠時) 吸収面積の減少

これらの栄養素は、食事やサプリメントを通じて定期的に補う必要があるが、術後の吸収能そのものが低下しているため、慢性的な欠乏状態に陥る危険性がある。


胃食道逆流症(GERD)の悪化

胃切除後には胃の形状と圧力のバランスが変化し、食道への胃酸の逆流が起こりやすくなる。これは特に「スリーブ胃切除術」で顕著であり、以下のような症状が現れる:

  • 胸焼け

  • 嚥下困難

  • 胃酸の逆流による喉の痛み

  • 慢性的な咳や気管支炎

一部の患者では、術後に逆流性食道炎が新たに発症することもあり、重症化するとバレット食道などの前癌状態を引き起こす可能性もある。


消化器系の合併症

手術によって胃の容量が極端に減るため、食後すぐに吐き気や嘔吐を引き起こす「ダンピング症候群」が発生することがある。主な症状は以下の通り:

タイプ 症状 発生時間
早期ダンピング 吐き気、腹痛、下痢、動悸、発汗 食後30分以内
遅発性ダンピング 低血糖、ふらつき、倦怠感 食後2〜3時間後

これらの症状は、食事の摂取速度や糖分の多さに関連しており、食事指導と生活習慣の改善が必要である。


精神的影響と摂食障害

胃切除手術は身体的な変化だけでなく、心理的・社会的な影響も大きい。食事が楽しめなくなったり、極端な食事制限により以下のような精神的副作用が見られることがある:

  • 抑うつ状態

  • 食への興味喪失

  • 社交的な場への忌避

  • 摂食障害(過食や拒食)

特に「食」が社会的交流や文化的儀式として重要視される日本においては、これらの影響は軽視できない。


手術に伴うリスクと合併症

胃切除手術は大規模な外科手術であり、以下のような合併症が報告されている:

合併症 発生率 備考
縫合不全(リーク) 1〜5% 命に関わる感染症の原因となる
出血 約1〜2% 再手術が必要な場合もある
肺塞栓症・深部静脈血栓症(DVT) 約0.5〜1% 長時間のベッド上安静による合併症
感染症 1〜3% 傷口や腹腔内に発生することがある

これらのリスクは、手術技術の進歩により減少傾向にあるが、ゼロではなく、術前の十分なインフォームド・コンセントが求められる。


妊娠・出産への影響

若年層の女性が手術を受ける場合、将来の妊娠に対する影響も考慮しなければならない。特に術後18ヶ月以内の妊娠は、胎児への栄養供給が不十分となる可能性があり、以下のようなリスクがある:

  • 低出生体重児

  • 早産

  • 胎児発育不全

したがって、術後の避妊指導と妊娠のタイミングについては専門医の管理が必須である。


長期的な体重再増加

一部の患者では、術後数年を経て体重が再び増加する「リバウンド現象」が見られる。これは以下の要因によって起こる:

  • 胃がわずかに拡張し、食事量が増える

  • 高カロリー食品の選択

  • 生活習慣の維持が困難

  • 精神的ストレスによる過食

このため、術後も栄養指導、心理的サポート、定期的なフォローアップが極めて重要となる。


外科手術の不可逆性

スリーブ状に切除された胃は再生できないため、手術は不可逆的である。この点は非常に重要であり、術後の後悔を避けるためにも、十分な心理的・医学的評価を経た上での決断が求められる。


結論

胃切除手術は、重度の肥満に対する有効な治療選択肢の一つである一方で、その副作用やリスクは決して小さくない。特に、栄養吸収の障害、消化器合併症、精神的影響、手術合併症、長期的な体重再増加など、術後の生活に大きな変化を及ぼす要素が多数存在する。したがって、この手術を選択する場合には、短期的な効果だけでなく、長期的な視点から自身のライフスタイルや価値観と照らし合わせた慎重な判断が必要である。


参考文献

  1. Mechanick, J. I., et al. (2013). Clinical Practice Guidelines for the Perioperative Nutritional, Metabolic, and Nonsurgical Support of the Bariatric Surgery Patient. Endocrine Society.

  2. Schauer, P. R., et al. (2017). Bariatric Surgery versus Intensive Medical Therapy for Diabetes — 5-Year Outcomes. New England Journal of Medicine.

  3. 日本肥満症治療学会. 「肥満症診療ガイドライン2022」.

  4. Sugerman, H. J., et al. (2001). Long-term effects of gastric bypass on vitamin and mineral status. Surgery for Obesity and Related Diseases.

この情報は、日本の読者にとって信頼できる医療知識として提供されており、今後の選択に資するものである。健康は一時的な体重の数値ではなく、長期的な生活の質と持続可能性の中に存在する。

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