人間の体における**「胆のう(たんのう)」**、つまり一般的に「胆嚢」と呼ばれる臓器の位置、機能、構造、関連疾患、診断方法、治療法について、詳細かつ包括的に解説する。
胆嚢の解剖学的位置と構造
胆嚢は上腹部の右側、肝臓の下部に密接に接している臓器である。肝臓によって生成された胆汁を一時的に蓄え、濃縮し、必要なときに小腸へと分泌する重要な消化器官である。

具体的には、第9〜第10肋骨のあたりの右季肋部(ききろくぶ)に位置しており、体外から見ると肋骨の下に隠れている。大きさは長さ約7〜10センチ、幅約3〜4センチの洋梨型の袋状構造を持ち、胆嚢管を通じて胆道系に接続している。
胆嚢は主に以下の3つの部分から構成される:
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底部(fundus): 最も膨らんだ部分で、前方を向いている
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体部(body): 中間部分で、胆汁を主に溜め込む空間
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頸部(neck): 最も細くなった部分で、胆嚢管(cystic duct)に接続している
胆嚢の機能
胆嚢の主な機能は以下の3点にまとめられる:
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胆汁の貯蔵: 肝臓で常時分泌される胆汁を一時的に溜めておく
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胆汁の濃縮: 水分を再吸収し、胆汁を濃縮させる(最大で10倍程度)
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胆汁の分泌: 食事、特に脂肪を含む食事の摂取後、ホルモンであるコレシストキニンの刺激により胆嚢が収縮し、胆汁が総胆管を通じて十二指腸へ送られる
胆汁は脂質の乳化と吸収を助ける役割を果たしており、胆嚢は消化において極めて重要な補助臓器といえる。
胆嚢に関連する主要な疾患
胆嚢は多くの疾患の影響を受けやすく、最も一般的なものは**胆石症(たんせきしょう)**である。他にも胆嚢炎、胆嚢ポリープ、胆嚢がんなどがある。以下に代表的な疾患を詳述する。
1. 胆石症(胆石)
胆石は胆汁中の成分(コレステロール、ビリルビン、カルシウムなど)が結晶化し、胆嚢や胆管内に石として形成される状態である。以下のような症状が出ることがある:
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右上腹部の激しい痛み(胆石発作)
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吐き気、嘔吐
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発熱(合併症がある場合)
胆石は**沈黙性(無症状)**のことも多く、健康診断などで偶然発見されることもある。
2. 急性胆嚢炎
胆石が胆嚢管を塞ぐことで胆汁の流れが妨げられ、細菌感染を起こすと急性胆嚢炎となる。症状は:
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持続的な右上腹部の痛み
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発熱と悪寒
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黄疸(重症時)
放置すると胆嚢の壊死や穿孔(破裂)に至る危険があるため、迅速な治療が求められる。
3. 胆嚢ポリープ
胆嚢の内壁に形成される良性の隆起性病変で、多くは無症状だが、大きさが10mm以上になるとがん化のリスクがあるため、経過観察や手術が必要となる場合がある。
4. 胆嚢がん
胆嚢がんは比較的まれな疾患だが、発見が遅れると予後が悪い。胆石や慢性胆嚢炎がリスク因子とされ、症状は非特異的であることが多いため注意が必要である。
胆嚢疾患の診断方法
胆嚢関連の疾患を診断するためには、以下のような検査が用いられる。
検査名 | 内容 |
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腹部超音波検査 | 最も一般的で簡便な検査法。胆石、胆嚢の腫れ、壁の肥厚を確認可能。 |
CT検査 | より詳細な構造把握が可能で、合併症(膿瘍、穿孔など)評価にも有用。 |
MRI・MRCP | 胆道の詳細な画像を得ることができ、胆管閉塞や腫瘍の精査に有効。 |
血液検査 | 白血球増加や肝機能異常、炎症マーカーの上昇を通じて炎症の有無を確認可能。 |
内視鏡的逆行性胆道膵管造影(ERCP) | 胆道を直接観察・処置可能な検査であり、胆管結石の除去やステント挿入なども可能。 |
治療方法
胆嚢の疾患に対する治療は疾患の種類や重症度によって異なる。
胆石の治療
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無症状の胆石:多くの場合、経過観察のみでよい
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症候性胆石:腹腔鏡下胆嚢摘出術が標準治療
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溶石療法:一部のコレステロール結石に対してウルソデオキシコール酸を用いることがある
急性胆嚢炎
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抗生物質の投与
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重症例では緊急胆嚢摘出術
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高齢者や手術リスクが高い場合は経皮的胆嚢ドレナージを行うこともある
胆嚢がん
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外科的切除が唯一の根治的治療
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状況に応じて化学療法や放射線療法が併用されることがある
胆嚢摘出後の体の変化
胆嚢摘出術(胆嚢摘出)は現在、腹腔鏡手術により安全かつ短期間の入院で行われることが多い。摘出後も胆汁は肝臓から直接十二指腸に分泌されるため、基本的に問題なく生活が可能である。
ただし、以下のような消化器症状が一時的に見られることがある:
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軟便や下痢
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食後の腹部不快感
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脂肪分の多い食事に対する耐性の低下
これらは時間の経過とともに改善することが多い。
胆嚢の健康を保つための生活習慣
胆嚢疾患を予防するためには、以下のような健康的な生活習慣が重要である。
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バランスの取れた食事: 高脂肪・高コレステロールの食事を避ける
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適度な運動: 肥満は胆石のリスク因子
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定期的な健康診断: 無症状の胆石やポリープの早期発見が可能
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禁煙と節度ある飲酒: 肝胆道系全体の健康を守る
結論
胆嚢は小さな臓器であるにもかかわらず、消化において重要な役割を果たしている。肝臓の下部に位置し、胆汁の貯蔵・濃縮・排出を通じて脂肪の消化を助ける。胆石症や胆嚢炎などの疾患は非常に一般的であり、早期発見と適切な治療が重要である。
胆嚢の疾患は現代医療において比較的安全に治療可能であり、特に腹腔鏡手術の普及により、胆嚢摘出後の生活の質も良好に保たれることが多い。日常の生活習慣を見直し、胆嚢の健康を意識することで、多くの疾患を未然に防ぐことができる。体の中にある「沈黙の器官」にも、十分な配慮と理解が必要である。