内臓および消化管

脾臓の位置と役割

人間の体内に存在する器官の中で、しばしば見落とされがちだが非常に重要な役割を果たしているのが「脾臓(ひぞう)」である。この記事では、「脾臓はどこにあるのか?」という疑問に対し、単に位置を示すだけではなく、その構造、生理学的役割、関連疾患、診断方法、外科的処置などを含めて、医学的に網羅的かつ詳細に解説する。


脾臓の位置と解剖学的特徴

脾臓は、横隔膜のすぐ下、左側の肋骨の奥に位置している。具体的には、**左季肋部(さきろくぶ)**と呼ばれる腹部の左上部にあり、第9肋骨から第11肋骨にかけての背側、胃の左後方、腎臓の上方に存在する。この位置関係から、外部からは触診しにくいが、腫大(脾腫)がある場合には腹部の左側に触れることもある。

脾臓の形状は楕円形または豆型に近く、成人では通常約12センチメートルの長さ、70〜200グラムの重さである。血管が豊富で、特に脾動脈および脾静脈によって栄養供給と排血がなされる。


脾臓の主な機能

脾臓は単なる血液フィルターではなく、多くの生命維持機能に関与する多機能臓器である。その主な役割は以下の通りである。

1. 古くなった赤血球の破壊と処理

脾臓は、寿命を終えた赤血球を識別し、破壊・除去する機能を担う。赤血球の平均寿命は約120日であり、これを超えると形態が変化し、脾臓内のマクロファージにより捕捉され分解される。

2. 血液貯蔵庫としての役割

脾臓は一種の「血液の貯蔵タンク」として働く。血液量が必要な状況(出血、低酸素など)では、貯蔵された血液が即座に循環系に放出される。この貯蔵血には主に赤血球や血小板が含まれる。

3. 免疫機能の中心としての働き

脾臓の白脾髄(しろひずい)は、リンパ球や抗体産生細胞を多く含み、病原体や異物に対する免疫応答の中枢を成している。脾臓は「体内最大のリンパ器官」とも呼ばれることがある。

4. 血液中の異物の除去

血中を循環する微生物、異物、老化細胞などを除去し、血液の浄化機能を果たしている。


脾臓に関する主な疾患

脾臓の異常はしばしば無症状であるが、病状が進行すると重大な健康被害をもたらすことがある。以下に主要な脾臓関連疾患を列挙する。

1. 脾腫(ひしゅ)

脾臓の異常な腫大を指す。肝疾患(特に肝硬変)、感染症(マラリア、EBウイルス)、血液疾患(白血病、リンパ腫)などに関連する。脾腫が進行すると、隣接する臓器を圧迫し、腹部膨満や早期満腹感などの症状を引き起こす。

2. 脾機能亢進症(ひきのうこうしんしょう)

脾臓の活動が過剰となり、正常な血球まで破壊されてしまう状態。血小板減少、貧血、白血球減少などが見られる。これを「過活動性脾臓」とも呼ぶ。

3. 脾破裂

外傷や脾腫によって脾臓が破裂することがある。腹腔内出血によるショックを伴い、緊急手術が必要となる。交通事故やスポーツ外傷が主な原因。

4. 無脾症・機能的無脾

先天的に脾臓が存在しない場合や、外科的切除、あるいは鎌状赤血球症などによって脾臓が機能しない状態。これにより、細菌感染に対する抵抗力が著しく低下する。


脾臓の診断と検査

脾臓の異常を診断するためには以下の検査が用いられる。

検査名 目的と特徴
腹部超音波検査 非侵襲的で迅速。脾腫の有無や大きさを確認可能。
CTスキャン より詳細な構造確認が可能。腫瘍や破裂の診断に有用。
MRI 軟部組織の描写に優れており、腫瘍鑑別に使用。
血液検査 血小板数、赤血球数、白血球数の異常をチェック。脾機能の異常を反映する。

脾臓の外科的処置:脾摘術

何らかの疾患や外傷により、脾臓を摘出する必要が生じた場合、脾摘術(ひてきじゅつ)が行われる。この処置は全身麻酔下で行われ、従来は開腹術だったが、近年では腹腔鏡下脾摘術が主流となっている。脾摘術後は、免疫機能が低下するため、以下の点に注意が必要である。

  • 肺炎球菌、インフルエンザ菌、髄膜炎菌に対するワクチン接種の推奨

  • 感染症の早期発見・治療

  • 生涯にわたる感染予防の教育


脾臓の代償機能と免疫への影響

脾臓を失った場合でも、肝臓や骨髄がある程度代償的に機能を担うことができる。しかし、特定の細菌感染(特に莢膜を持つ細菌)に対する防御が弱くなるため、ワクチン接種や定期的な健康管理が極めて重要となる。


結語

脾臓は目立たない存在でありながら、免疫、防御、血液の質的調整など、多彩で生命維持に不可欠な役割を果たしている臓器である。その位置は腹部左上の肋骨下にあり、通常は外見から確認することはできないが、疾患によって腫大した場合には注意深い診察が必要となる。脾臓の働きを理解し、その健康状態を維持することは、感染症の予防、血液疾患の管理、ひいては全身の健康に直結する重要な課題である。医療の現場においても、脾臓の診断と管理には継続的な注目が必要である。


参考文献

  • Guyton and Hall. Textbook of Medical Physiology. Elsevier.

  • Robbins and Cotran. Pathologic Basis of Disease. Elsevier.

  • 日本消化器外科学会ガイドライン(脾摘術)

  • 厚生労働省「脾機能異常と感染症に関する報告書」

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