腸閉塞(Intestinal Obstruction)とは、腸内の内容物が通常の流れに従って通過することができなくなる状態を指します。この疾患は、腸の内腔が物理的に閉塞されたり、腸の動きが停止したりすることによって発生します。腸閉塞は、急性または慢性の状態で発生する可能性があり、その症状や治療法は原因により異なります。腸閉塞は、迅速な診断と治療が必要な緊急疾患であり、放置すると生命に危険を及ぼすことがあります。以下では、腸閉塞の原因、症状、診断、治療方法、予防について詳しく説明します。
1. 腸閉塞の原因
腸閉塞の原因は大きく分けて二つに分類できます。物理的な閉塞と機能的な閉塞です。

1.1 物理的な閉塞
物理的な腸閉塞は、腸内で物理的に通過を阻害する障害が発生することによって引き起こされます。代表的な原因は以下の通りです:
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腸管癒着(腸癒着)
腸管癒着は、手術後や炎症(例:虫垂炎や腹膜炎)によって腸と周囲の組織が癒着し、腸内の通過が妨げられる状態です。最も一般的な原因の一つです。 -
腸重積症
特に小児に多く見られる疾患で、腸の一部が隣接する腸内に入り込むことにより、閉塞を引き起こします。 -
腸内腫瘍
腸内に腫瘍が発生し、その腫瘍が腸の内腔を圧迫することによって閉塞が生じることがあります。良性の腫瘍だけでなく、悪性腫瘍も腸閉塞の原因となり得ます。 -
腸ねじれ(腸捻転)
腸がねじれることにより、腸内の血流が遮断され、腸の内腔が閉塞する状態です。特に高齢者や便秘の患者に見られます。 -
腸内異物
外的な異物が腸内に入り込むことにより、腸の通過が妨げられることがあります。特に小児や動物が原因となることがあります。
1.2 機能的な閉塞
機能的な腸閉塞は、腸の運動が異常になり、腸の内容物が移動しなくなる状態です。以下のような原因があります:
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腸麻痺(麻痺性イレウス)
腸の神経または筋肉が正常に機能しなくなることで、腸の動きが停止します。手術後や重度の感染症、薬剤の副作用が原因となることがあります。 -
血流不足
腸の血流が十分でない場合、腸の機能が低下し、内容物の移動が妨げられることがあります。腸の動きが鈍くなるため、腸閉塞が発生します。 -
神経疾患
腸を制御する神経が障害されると、腸の動きが不規則になり、閉塞が生じることがあります。パーキンソン病などの神経疾患が関与することもあります。
2. 腸閉塞の症状
腸閉塞の症状は、閉塞の程度や場所、原因によって異なりますが、一般的には以下のような症状が現れます:
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腹痛
腸閉塞の最も特徴的な症状の一つです。痛みは波のように現れ、激しくなることがあります。閉塞部位に応じて、痛みの位置も変わります。 -
嘔吐
腸内の内容物が腸管を通過できないため、消化液や未消化の食物が嘔吐として排出されることがあります。特に上部の腸が閉塞している場合に見られます。 -
膨満感
腸内にガスや液体がたまり、腹部が膨れた感じがします。これは腸の動きが停止することによって、内容物が腸内に蓄積されるためです。 -
便秘
腸閉塞が長時間続くと、便が排出されなくなります。閉塞部位によっては、ガスの排出も困難になることがあります。 -
脱水症状
嘔吐や下痢が続くことにより、脱水症状が引き起こされることがあります。これは体内の水分が失われるためです。
3. 腸閉塞の診断
腸閉塞が疑われる場合、医師はまず患者の症状や病歴を詳細に確認します。診断を確定するためには、以下のような検査が行われます:
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X線検査
腸閉塞が疑われる場合、腹部X線を撮影して腸内のガスの分布を確認します。閉塞がある場合、腸の膨張やガスが腸内に貯まっているのが確認できることがあります。 -
CT検査
腹部CTスキャンは、腸閉塞の原因を特定するために非常に有効です。腸のねじれや腫瘍、腸の癒着の有無を詳細に確認することができます。 -
超音波検査
特に小児や妊婦に対して、腹部超音波検査が使用されることがあります。腸重積症などを診断するのに有効です。 -
血液検査
血液検査を行い、感染症や脱水の兆候、腸閉塞による体内の電解質異常を確認します。
4. 腸閉塞の治療
腸閉塞の治療は、原因と状態に応じて異なります。治療方法には以下のようなものがあります:
4.1 保存的治療
軽度の腸閉塞や機能的な原因による閉塞の場合、以下の保存的治療が行われることがあります:
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絶食
腸を休めるために、食事を中止して腸を無理なく回復させます。 -
点滴
脱水症状を防ぐため、点滴によって水分や電解質を補充します。 -
胃管の挿入
嘔吐がひどい場合、胃管を挿入して腸内の圧力を減少させます。
4.2 手術
重度の腸閉塞や物理的な閉塞が原因の場合、手術が必要となることがあります。代表的な手術方法には以下があります:
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腸管の切除
腫瘍や壊死した腸部分が閉塞を引き起こしている場合、その部分を切除します。 -
腸の癒着剥離
腸癒着が原因で閉塞が生じている場合、癒着を切開して腸を解放します。 -
腸のねじれ解消
腸捻転が原因の場合、ねじれを解消する手術が行われます。
4.3 内視鏡治療
腸重積症など、内視鏡を使って腸の再配置や異物の取り出しを行うことがあります。内視鏡による治療は、外科的な手術よりも体への負担が少ないため、適応されることがあります。
5. 腸閉塞の予防
腸閉塞を予防するためには、以下のような生活習慣が推奨されます:
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食物繊維の摂取
食物繊維を多く含む食事を摂ることで、便秘を予防し、腸内の健康を保ちます。 -
適度な運動
定期的な運動は、腸の蠕動運動を促進し、腸閉塞の予防に役立ちます。 -
水分摂取
水分を十分に摂取し、脱水を防ぐことが腸の健康に重要です。 -
早期の診断と治療
腸閉塞の初期症状に気づいた場合、早期に医師を受診することが大切です。
腸閉塞は、早期の発見と適切な治療が命を救う鍵となります。症状を無視せず、問題が疑われた場合は速やかに医療機関を受診することが非常に重要です。