チーズの作り方は、古代から伝わる食品保存技術の一つであり、世界中でさまざまな種類のチーズが作られています。本記事では、基本的なチーズの作り方から、乳の種類、凝固剤、発酵、熟成に至るまで、完全かつ包括的に解説します。自宅でのチーズ作りに挑戦したい方から、乳製品に興味のある科学愛好者まで、幅広く役立つ情報を提供します。
牛乳からチーズへ:チーズ製造の基本原理
チーズは、牛乳やヤギ乳、羊乳などの動物性乳に含まれるたんぱく質(主にカゼイン)を、酵素や酸によって凝固させて作られる発酵食品です。液体成分であるホエイ(乳清)を分離し、固体成分を加工・熟成することで、多種多様なチーズが生まれます。

使用する材料と器具
材料:
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牛乳(生乳または低温殺菌牛乳が望ましい):2リットル
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レンネット(凝乳酵素):液体または錠剤
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プレーンヨーグルトまたはスターターカルチャー:発酵用
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食塩:風味と保存性向上のため
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レモン果汁または酢(必要に応じて、酸凝固法の場合)
器具:
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ステンレス鍋
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温度計(30〜80℃を測定可能なもの)
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長いナイフまたはカード
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チーズクロス(ガーゼ)
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ザル
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重り(500g〜1kg程度)
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チーズ型(任意)
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清潔な手と作業台
チーズ製造の工程
1. 牛乳の加熱(殺菌)
まず牛乳をゆっくり加熱して35〜37℃に保ちます。これは発酵菌が活動しやすい温度帯であり、また不要な雑菌の繁殖を抑えるための重要なステップです。生乳を使う場合は、事前に低温殺菌(65℃で30分程度)を行うことが望ましいです。
2. 発酵スターターの添加
牛乳が適温になったら、プレーンヨーグルトまたは専用のスターターカルチャー(乳酸菌)を加え、ゆっくりかき混ぜます。これにより乳酸が生成され、pHが下がっていきます。これはカゼインの凝固を助ける重要なプロセスです。混ぜた後、30分〜1時間ほど静置して発酵させます。
3. レンネットの添加と凝固
次にレンネット(液体なら小さじ1/4程度)を水で希釈し、牛乳に加えて静かに混ぜます。その後、30分〜1時間ほど放置すると、ゼリー状に固まります。表面を指で軽く押してみて弾力が感じられれば凝固完了です。
4. カードの切断と加熱(クッティングとクッキング)
固まったカード(凝固した乳)を、ナイフで1〜2cm角のサイコロ状に切り分けます。これによりホエイ(乳清)の排出が促されます。さらに火にかけて徐々に温度を38〜42℃まで上げ、約30分かけて穏やかにかき混ぜながら加熱します。
温度帯 | 目的 |
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30〜37℃ | 発酵菌活性化 |
38〜42℃ | ホエイの分離促進とカードの収縮 |
5. ホエイの排出と成形
カードが適度に固くなったら、ザルにチーズクロスを敷き、内容物を流し込みます。水分(ホエイ)が自然に落ちるよう、1〜2時間かけて排出します。その後、布ごと絞るようにしてさらに水分を取り除きます。ここで、チーズ型に詰めて上から重しをかけ、しっかり成形・脱水させます。6〜12時間程度が目安です。
6. 塩漬け
脱水後のチーズに塩をまぶすことで、保存性と風味が向上します。表面に直接塗るドライソルト法や、塩水(ブライン)に浸ける方法のいずれも可能です。塩分濃度や漬け時間により最終的な味に影響するため、好みに応じて調整します。
方法 | 特徴 |
---|---|
乾塩法 | 表面に均一に塩を塗布し乾燥 |
塩水法 | 全体を塩水に浸し風味を均等に |
7. 熟成(必要な場合)
熟成タイプのチーズ(カマンベール、チェダー、ゴーダなど)を作る場合、低温(10〜15℃)・高湿度(80%以上)での保存が必要です。期間は種類により異なり、数週間から数ヶ月に及びます。熟成中には定期的な裏返しや表面の拭き取りが必要となります。
熟成と非熟成チーズの違い
項目 | 熟成チーズ | 非熟成チーズ |
---|---|---|
味 | 複雑で深い | 軽くてミルキー |
食感 | しっかり、あるいはねっとり | 柔らかく滑らか |
保存性 | 高い | 比較的短い |
例 | ブリー、チェダー、ブルー | カッテージ、リコッタ |
チーズの種類と使用する乳
乳の種類 | 特徴 | チーズ例 |
---|---|---|
牛乳 | 癖が少なく扱いやすい | モッツァレラ、チェダー |
山羊乳 | 独特の香りと風味 | シャーブル、バノン |
羊乳 | 濃厚で栄養価が高い | ロックフォール、マンサニーリャ |
水牛乳 | 高脂肪でコクがある | ブッラータ、モッツァレラ・ディ・ブッファラ |
衛生管理と注意点
チーズ作りは微生物の力を利用する工程であるため、清潔な器具と環境が不可欠です。特に生乳を使用する場合、雑菌の繁殖や食中毒リスクを防ぐために、以下の点を徹底してください。
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使用器具は全て熱湯消毒またはアルコール除菌する
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作業台や手を常に清潔に保つ
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保存は冷蔵または熟成に適した環境で行う
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発酵や熟成が失敗した場合(異臭、カビなど)は食べずに廃棄する
まとめ:自家製チーズの魅力
自宅でチーズを作ることは、単なる料理ではなく、発酵科学への深い理解と実践を伴うクリエイティブな行為です。原材料を選び、工程を丁寧に進めることで、自分だけのオリジナルチーズを生み出すことができます。牛乳から生まれる豊かな可能性と、発酵の奇跡をぜひ体感してみてください。
参考文献
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Fox, P. F., Guinee, T. P., Cogan, T. M., & McSweeney, P. L. H. (2000). Fundamentals of Cheese Science. Springer.
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Kosikowski, F. V., & Mistry, V. V. (1997). Cheese and Fermented Milk Foods. F.V. Kosikowski LLC.
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Tamime, A. Y. (2006). Brined Cheeses. Blackwell Publishing.
このように、チーズ作りは乳の選定から始まり、微生物との対話、酵素反応、発酵科学、そして熟成という芸術的なプロセスに至る、非常に奥深い食文化の一つです。家庭でできるシンプルなカッテージチーズから、熟成に何ヶ月もかける本格的なチーズまで、多彩な楽しみ方が存在します。科学的興味と料理の喜びを融合させた、贅沢な時間をぜひ体験してみてください。