行動主義(Behaviorism)は、心理学の一つの理論的アプローチであり、主に外的な行動に焦点を当て、その行動がどのようにして学習され、変化するのかを探求します。この理論の主要な特徴は、内面的な思考や感情、意識の状態といったものは無視し、観察可能な行動だけを重視する点にあります。行動主義の発展に大きな貢献をした人物としては、アメリカの心理学者ジョン・B・ワトソンが挙げられます。彼は、行動主義を心理学の中心的な理論として確立し、その後の心理学研究に大きな影響を与えました。
ジョン・B・ワトソンと行動主義の誕生
ジョン・B・ワトソン(John B. Watson)は、1878年にアメリカで生まれ、20世紀初頭に行動主義の基礎を築きました。ワトソンの理論は、心理学が人間の内的な精神的過程に依存していた時代の反動として登場しました。それまでの心理学は、内面的な感覚や意識の研究を重視していましたが、ワトソンはこれらを客観的に測定可能な行動の研究に置き換えようとしたのです。
彼の代表的な論文である「Psychology as the Behaviorist Views It」(1913年)では、心理学の目的は人間や動物の「行動」を理解し、それを予測し、制御することにあると述べました。ワトソンは、内面の精神活動(感情や思考)を心理学の研究対象から排除し、観察可能な外的な行動に焦点を当てることを強調しました。これにより、心理学はより科学的で実験的な方法に基づく学問として発展する道を開いたのです。
行動主義の基本的な概念
行動主義にはいくつかの重要な概念があります。以下にその主なものを挙げてみましょう。
1. 刺激と反応(S-Rモデル)
行動主義では、行動は外的な刺激に対する反応として捉えられます。このモデルは「刺激(S)」と「反応(R)」の関係に基づいており、環境からの刺激が個体の行動を引き起こすと考えます。ワトソンは、環境の刺激に対してどのように反応するかが人間や動物の行動を決定すると主張しました。この考え方は、後に行動心理学の基礎となり、実験的な方法で検証されることになりました。
2. 条件づけ
行動主義の中でも、特に重要な理論は「条件づけ(conditioning)」です。条件づけには主に2つの種類があります:
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古典的条件づけ(Pavlovian conditioning): イワン・パブロフによって発展されたこの理論は、特定の刺激が無条件反応を引き起こすことに基づいています。例えば、犬が食事の匂いを嗅いだときに唾液を分泌する反応が、鈴の音(中性刺激)によって引き起こされるようになるという実験が有名です。
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オペラント条件づけ(Operant conditioning): B.F.スキナーによって発展されたこの理論は、行動が結果として生じる強化や罰によって変化するというものです。スキナーは、行動の強化(報酬)や罰によって行動が増減することを示しました。例えば、動物がレバーを押すと食べ物が出てくると学習するような実験です。
3. 強化と罰
スキナーは、行動が強化されるとその行動が繰り返されやすく、逆に罰が与えられるとその行動は抑制されることを示しました。強化には「正の強化」と「負の強化」があります:
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正の強化: 好ましい結果(報酬)を与えることで、行動を強化する方法です。例えば、子供が宿題を終わらせたらお菓子を与えることで、宿題を終わらせる行動が強化されます。
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負の強化: 不快な刺激を取り除くことで、行動を強化する方法です。例えば、掃除をしないときに親から叱られる場合、掃除をすることで叱られないという状況が強化されることになります。
一方で、罰は行動を減少させる効果があり、特に「正の罰(不快な刺激を与える)」と「負の罰(好ましい刺激を取り上げる)」に分けられます。
行動主義の影響と批判
行動主義は、20世紀初頭から中期にかけて、心理学において圧倒的な支配的地位を占めました。ワトソンやスキナーの理論は、教育や治療、動物の訓練など、多岐にわたる分野で実用化されました。例えば、行動療法(Behavior Therapy)は、患者の不適応な行動を修正するために、強化や罰を利用する治療法として広まりました。
しかし、行動主義には批判もあります。特に、内面的な心理的過程(感情や思考)を無視し、外的な行動のみを対象とすることは、心理学の研究対象を限定しすぎるという意見がありました。また、行動の変化が必ずしも内面的な変化を伴うわけではないという点も指摘されています。こうした批判に対して、認知心理学や人間性心理学などが台頭し、行動主義の限界を補うような新しいアプローチが登場しました。
結論
行動主義は、心理学の歴史において重要な位置を占める理論であり、ジョン・B・ワトソンをはじめとする心理学者たちによって発展しました。その基本的な考え方は、環境からの刺激に対する反応としての行動を重視し、条件づけや強化、罰といった概念を中心に据えています。現代の心理学では、行動主義だけでなく、認知心理学や社会心理学などさまざまなアプローチが共存していますが、行動主義は依然として多くの実践的な領域で影響を与え続けています。
