親知らず(第三大臼歯)は、人間の口腔構造において最も奥に生える永久歯であり、一般的に17歳から25歳の間に生えてきます。この歯はしばしば口腔内のスペース不足や不正な生え方により、歯科的な問題を引き起こすことがあります。この記事では、「親知らずには何本の根(歯根)があるのか」という疑問に対して、歯科解剖学的、生理学的、臨床的観点から完全かつ包括的に解説します。
親知らずの基本構造と役割
親知らずは第三大臼歯とも呼ばれ、上下左右の4本が存在することが理想的とされています。ただし、遺伝や進化の過程、顎のサイズなどにより、生えてこなかったり、最初から存在しない場合もあります。

他の臼歯と同様に、親知らずには以下の構造が存在します:
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歯冠(しけん):歯の見える部分
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歯根(しこん):歯槽骨(顎の骨)に埋まっている部分
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歯髄腔(しずいくう):神経や血管が通る中空部分
歯根(ルート)の数とそのばらつき
一般的な歯根の数
親知らずの歯根の数は個体差が非常に大きく、以下のような傾向があります:
部位 | 通常の歯根の数 | よくあるバリエーション |
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上顎の親知らず | 3本(2つの頬側+1つの口蓋側) | 1〜4本まで変動あり |
下顎の親知らず | 2本(近心根+遠心根) | 1〜3本、まれに4本 |
つまり、親知らずの歯根の本数は1本から最大5本まで観察されることがあります。これは他の永久歯に比べて極めて多様で、歯科治療を難しくする大きな要因となっています。
歯根の形状と湾曲
親知らずはその位置的な制限と進化的退化により、歯根の形状や方向に強い変異性を持っています。例えば:
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湾曲根(カーブしている)
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融合根(複数の根が途中で合体)
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極端に短い根や異常に長い根
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歯根が外側や内側に強く曲がっているケース
このような形状は、抜歯時に歯の破損や骨折を引き起こすリスクを高めるため、事前のX線(パノラマレントゲンやCT)による精密な評価が不可欠です。
解剖学的異常と統計的データ
以下に、親知らずの歯根に関する統計的なデータの一部を示します:
歯根の本数 | 出現頻度(下顎) | 出現頻度(上顎) |
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1本 | 約5〜10% | 約10〜15% |
2本 | 約70% | 約20% |
3本 | 約15% | 約60% |
4本以上 | 約5%未満 | 約5〜10% |
これらのデータからわかるように、上顎の親知らずのほうが歯根の数が多い傾向があり、形状も複雑です。一方、下顎は2本が主流であるため、比較的処置がしやすいケースが多いです。
歯根の数が臨床に与える影響
抜歯の難易度
親知らずの歯根の数と形状は、抜歯の難易度を大きく左右します。たとえば:
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単根の場合:まっすぐであれば比較的簡単に抜歯可能。
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複数根で湾曲がある場合:分割抜歯や歯冠除去、骨削除が必要となる。
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根が歯槽骨に癒着している場合:特に時間と慎重な手技が求められる。
神経損傷のリスク
下顎の親知らずが下歯槽神経に近接している場合、**抜歯によって神経損傷(感覚麻痺など)**を引き起こすリスクがあります。歯根が長く湾曲していると、より神経への干渉が高まります。
感染と嚢胞のリスク
完全に生えない(埋伏)親知らずが複数根を持つ場合、歯肉の隙間に食片が溜まりやすくなり、智歯周囲炎(親知らずの炎症)や歯根嚢胞のリスクが上昇します。
CTおよび三次元画像診断の重要性
現在では、親知らずの抜歯や根の診断には**コーンビームCT(CBCT)**が非常に有効です。以下のような情報が得られます:
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歯根の本数と方向
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周囲の神経や血管との距離
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歯槽骨との接触状態
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歯根の癒着の有無
これにより、抜歯計画の立案とリスク回避が大きく向上し、術後の合併症も最小限に抑えることが可能となります。
症例紹介(簡易版)
症例 | 性別 | 年齢 | 親知らずの位置 | 歯根の本数 | 特徴 |
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A | 女性 | 24歳 | 左下 | 2本 | 近心根が湾曲。抜歯に20分要。 |
B | 男性 | 29歳 | 右上 | 4本 | 歯根が融合し、骨削除を要した。 |
C | 女性 | 21歳 | 左上 | 1本 | まっすぐ生え、簡単な抜歯で完了。 |
結論
親知らずの歯根の数は、個人差が非常に大きく、1本から最大で5本に至るまで様々なパターンが存在します。特に上顎の親知らずは複数根かつ複雑な形状をとることが多く、抜歯には専門的知識と画像診断が欠かせません。下顎においても、神経や骨との関係を慎重に考慮する必要があります。
親知らずの抜歯を考えている方は、自己判断で放置せず、歯科医師によるX線やCT診断を受けることが最も重要です。歯根の数や形は見た目では判断できず、精密な評価こそが安全な処置への鍵を握っています。
参考文献
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日本口腔外科学会「口腔外科診療指針」
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東京医科歯科大学歯学部「歯科解剖学講義ノート」
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Yamamoto K et al. “Morphological Study of Third Molars Using Cone-Beam Computed Tomography.” J Oral Maxillofac Surg, 2018.
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Kaffe I, Ardekian L, Taicher S, Littner MM, Buchner A. “Radiologic features of developmental cysts of the jaws.” Oral Surg Oral Med Oral Pathol, 1994.
必要であれば、実際のレントゲン画像を用いた解説や、CT解析例についても追記可能です。