読書は人類の知的活動の中でも最も根源的かつ洗練された営みの一つであり、その形式や目的に応じて多様な種類が存在する。本記事では、読書(=書籍の読解行為)における「種類」というテーマを徹底的かつ包括的に掘り下げる。単なるジャンルの紹介にとどまらず、読書の方法論・目的論・心理的効果・歴史的背景にいたるまで、科学的視点と人文学的視座を融合させながら精緻に考察していく。
読書の分類体系:4つの大きな軸
読書を体系的に理解するには、その「軸」を整理する必要がある。一般的に読書は以下の4つの基準により分類可能である:
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目的による分類(娯楽、学習、研究、啓発など)
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態度による分類(精読、多読、拾い読みなど)
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対象による分類(フィクション、ノンフィクション、古典、専門書など)
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技法による分類(黙読、音読、速読、対話的読解など)
これらは相互に独立ではなく、しばしば交差する。たとえば、古典文学を学術的目的で精読する行為は、対象・目的・態度の全てにおいて特定の型にはまっている。以下、それぞれの分類軸に沿って詳細に論じる。
Ⅰ. 目的別の読書タイプ
1. 娯楽的読書(余暇型)
この読書は、物語の世界観やキャラクターの魅力に浸ることを目的としたもの。特に小説、ライトノベル、漫画、詩集などが対象となる。読者は自己投影や感情移入を通じて快楽を得る。読書によってストレス軽減効果が得られることは心理学的にも報告されており、リラクゼーションの一手段として広く受け入れられている。
代表例:村上春樹『ノルウェイの森』、東野圭吾『容疑者Xの献身』
2. 学習的読書(知識吸収型)
新たな情報やスキルを得るための読書。教科書、参考書、実用書などが含まれる。目的が明確であるため、マーカーや付箋を多用する傾向がある。読書後にアウトプット(ノート、問題演習、説明など)を行うことで効果が倍増する。
代表例:歴史教科書、プログラミング解説書、語学学習書
3. 研究的読書(探究型)
アカデミックな目的をもって行われる読書。論文、学術書、資料集、原典などが対象。批判的思考と比較検討を重視する。文献管理ツール(EndNote, Zotero等)の使用や引用法(APA, MLA等)の遵守が必要となる。
代表例:カント『純粋理性批判』、ダーウィン『種の起源』
4. 啓発的読書(内省型)
精神的・哲学的な成長を促す読書。宗教書、哲学書、自己啓発書、人生論が対象となる。しばしば感情や価値観の変化を伴う体験となる。読者は「自分とは何か」「いかに生きるべきか」といった根源的問いと向き合うことになる。
代表例:中村天風『成功の実現』、アルフレッド・アドラー『嫌われる勇気』
Ⅱ. 態度別の読書タイプ
1. 精読(ディープリーディング)
語句の意味、構文、文脈、背景を丁寧に読み解く手法。文学作品や哲学書、難解な専門書に適している。再読・音読・注釈付けを含む場合が多く、時間をかけて読むことが前提となる。
2. 多読(エクステンシブリーディング)
短時間に大量の文献を読むことを目的とした読書法。語学学習やビジネス書のようなライトな内容に適する。文脈から意味を推測し、わからない単語に固執しないのが特徴。
3. 拾い読み(スキャニング・スキミング)
必要な情報のみを選択的に拾い上げる読書。新聞、報告書、マニュアル、論文要旨などで頻用される。スキミング(概要把握)とスキャニング(特定情報探索)は異なるが、共に「選別的読書」に分類される。
Ⅲ. 対象別の読書タイプ
| 種類 | 内容例 | 特徴 |
|---|---|---|
| フィクション | 小説、戯曲、詩、ファンタジーなど | 想像力・感情移入・物語性の重視 |
| ノンフィクション | 伝記、歴史書、ジャーナリズム | 事実性・論理性・証拠性の重視 |
| 古典 | 『源氏物語』『徒然草』『論語』など | 時代背景・文化的教養が求められる |
| 専門書 | 医学書、法学書、数学書など | 前提知識・専門用語の理解が不可欠 |
| 実用書 | 料理本、旅行ガイド、資格試験対策本 | 即時的・実践的な行動に結びつく読解 |
Ⅳ. 技法別の読書タイプ
1. 黙読
視覚による文字の認識と脳内での意味処理が主たる活動となる。読解速度が速く、集中力を要するが、内容の咀嚼には個人差がある。
2. 音読
声に出して読むことで、視覚・聴覚・運動の三つの感覚を同時に使う。記憶定着率が向上することが心理学研究でも確認されている(効果的な読書法として近年再評価されている)。
3. 速読
一定の訓練により、通常の数倍のスピードで読む技術。視野拡大・語群認識・内言抑制などが技術的要素となるが、内容理解度とのバランスが課題。
4. 対話的読解
読書後に他者と議論したり、批評を書いたりするなど、能動的な読解形式。読書会・ブッククラブなどで行われる。批判的思考や多面的視点を涵養する効果がある。
読書の心理的・認知的影響
読書は脳機能と密接に関わっている。MRI研究により、物語読解時には前頭前野・側頭葉・扁桃体などの活動が高まることが報告されている(参考:University of Emory, 2013)。さらに、読書は「感情的共感」「言語能力」「集中力」「記憶力」など多くの認知機能を促進する。
文化圏と読書スタイルの相違
文化的背景により読書の価値観は異なる。たとえば:
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日本:紙媒体への根強い支持。文芸における短編志向と細やかな感性重視。
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欧州:哲学的・歴史的読解の伝統。討論文化と密接に関わる読書。
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米国:実用志向・ビジネス書の大量生産。読書は成功ツールという認識が強い。
これらの文化的差異は教育制度や社会制度にも反映されるため、比較文化研究の一環としても重要である。
結論
読書の種類は単なる「読む本のジャンル」の話ではない。それは人間の知的欲求・感情の動態・文化的価値観を反映する多層的な営みである。読書のあり方を理解することは、すなわち人間を理解することと同義である。目的、態度、対象、技法という多角的視点から読書を捉えることで、我々はより豊かな知的生活を築くことが可能となる。
参考文献
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Wolf, M. (2007). Proust and the Squid: The Story and Science of the Reading Brain. HarperCollins.
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Rayner, K., Pollatsek, A., Ashby, J., & Clifton, C. (2012). Psychology of Reading. Psychology Press.
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齋藤孝『読書力』(岩波新書、2002年)
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日本読書学会編『読書の心理学』(誠信書房、2010年)
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Greenfield, P. M. (2009). Technology and Informal Education: What is Taught, What is Learned. Science, 323(5910), 69-71.
