リサーチ

質的研究デザインの種類

研究における「質的研究デザイン」とは、データを収集するためのアプローチや方法論を指し、特に人々の経験や社会的現象に関する理解を深めることを目的としています。質的研究は数値化されたデータではなく、言語、画像、行動などの非数値的データを基にしています。このため、質的研究デザインには様々なアプローチがあり、研究の目的や問題に応じて最適な方法が選ばれます。以下では、主要な質的研究デザインのタイプについて詳細に説明します。

1. 現象学的研究デザイン(Phenomenological Design)

現象学的研究は、人々の個人的な経験に焦点を当て、その意味を深く理解しようとするアプローチです。このデザインは、対象となる現象がどのように経験され、どのように解釈されるかを探求します。研究者は、参加者の経験に関するデータを収集し、そのデータを通して現象の本質を明らかにしようとします。

主要な特徴:

  • 主にインタビューや観察を通じてデータを収集。

  • 参加者の視点から経験を理解する。

  • 研究者は先入観を排除し、参加者の経験を純粋に理解しようと努力。

使用例:

  • 患者の病気の経験に関する研究。

  • 新しい技術や治療法を受けた人々の体験。

2. グラウンデッド・セオリー(Grounded Theory)

グラウンデッド・セオリーは、理論をデータから導き出すアプローチです。この方法では、既存の理論に依存せず、現場のデータを基にして新しい理論や概念を構築します。データ収集とデータ分析は並行して行われ、研究者は繰り返しデータを分析しながら理論を形成していきます。

主要な特徴:

  • データから理論を構築する。

  • インタビューやフィールドワークを通じて収集されたデータに基づく。

  • 分析過程は反復的であり、データと理論が相互に影響し合う。

使用例:

  • 社会的な行動や組織内での行動パターンを理解するための研究。

  • 新たな現象やプロセスを説明するための理論構築。

3. ケーススタディ(Case Study)

ケーススタディは、特定の事例を詳細に分析し、その事例から一般的な理解を引き出す方法です。このデザインでは、個々の事例を深く掘り下げ、詳細なデータを収集して、ケースに関する包括的な理解を得ようとします。ケーススタディは単一の事例に焦点を当てる場合もあれば、複数の事例を比較することもあります。

主要な特徴:

  • 特定の事例に焦点を当て、詳細な情報を収集。

  • 多角的なデータ収集方法(インタビュー、文献調査、観察など)を使用。

  • ケースの背景や環境を深く理解し、他の事例に一般化することを試みる。

使用例:

  • 企業の成功事例や失敗事例に関する研究。

  • 教育機関での特定のプログラムや施策の効果を分析。

4. エスノグラフィー(Ethnography)

エスノグラフィーは、特定の文化や社会集団を詳細に研究する方法です。研究者は、対象となる集団の生活様式、行動、価値観を理解するために、その集団の中で長期間観察を行います。エスノグラフィーは、参加観察を中心にデータを収集し、集団の文化的側面を深く掘り下げます。

主要な特徴:

  • 参加観察を通じて、対象集団の生活様式や価値観を理解。

  • 長期間にわたるフィールドワークが求められる。

  • 研究者は可能な限り集団の内部の視点から現象を観察。

使用例:

  • 部族社会や特定の職業集団における文化的調査。

  • 組織内での文化的行動や慣習の研究。

5. ナarrティブ・リサーチ(Narrative Research)

ナarrティブ・リサーチは、個人の物語やストーリーに焦点を当てた研究方法です。この方法では、参加者が自分自身の経験や出来事を語る「物語」を収集し、その物語を分析して、個人の経験がどのように形成され、どのように意味づけられるかを理解しようとします。物語の中で、時間的な流れや出来事の関係性を重視することが特徴です。

主要な特徴:

  • 参加者が語る物語を収集。

  • 物語の分析を通じて、個人の経験を理解。

  • 時系列に基づいた物語の構造に注目。

使用例:

  • 人生の転機を迎えた人々の物語。

  • 社会的・文化的背景が個人の物語に与える影響の研究。

6. アクション・リサーチ(Action Research)

アクション・リサーチは、研究者と参加者が協力して、特定の問題解決に向けて実践的な調査を行う方法です。研究の目的は、理論的な理解を深めることに加えて、実際の問題解決を図ることにあります。アクション・リサーチは、教育、医療、組織改善など、実務的な分野で広く利用されます。

主要な特徴:

  • 研究者と参加者が共同で問題解決に取り組む。

  • 実際の問題に焦点を当て、改善策を提案。

  • 循環的なプロセス(計画→行動→評価→再計画)を繰り返す。

使用例:

  • 教育現場での教授法改善。

  • 医療現場での患者ケアの質向上。

結論

質的研究デザインには、多くの異なるアプローチが存在し、それぞれが特定の目的や研究問題に最適な方法を提供します。研究者は、研究の目的、データ収集方法、分析のアプローチに基づいて最適なデザインを選択し、現象や問題を深く理解しようと努めます。これらのデザインは、社会的、文化的、個人的な視点を重視し、実際の世界での理解を深めるための強力なツールとなっています。

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