金の真贋を見極める技術は、宝飾品業界や投資家、また個人で金製品を所有する人々にとって極めて重要である。金はその希少性と価値ゆえに、古来より高い地位を保ってきた。しかし、近年は技術の進歩により、見た目だけでは本物と見分けがつかない偽物も数多く流通している。そのため、信頼性の高い検査方法を正しく理解し、活用することが不可欠である。本稿では、家庭でも実施可能な基本的な検査方法から、専門機器を用いた科学的検査まで、金の真偽を確認するためのあらゆる手法を網羅的に解説する。
比重検査(密度による判定)
金は非常に高密度な金属であり、その比重は約19.3である。この特性を利用した検査方法は、最も古典的かつ信頼性の高い手法の一つである。

手順:
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精密なデジタルスケールで金属の重量を測定する(空気中での重量)。
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次に水を満たしたビーカーを用意し、その中に金属を吊るして水中での重量を測定する。
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比重を次の公式で計算する:
比重 = 空気中の重量 ÷(空気中の重量 − 水中の重量)
この計算で得られる比重が19.3に近ければ近いほど、金の純度が高いと判断できる。例えば、比重が15以下であれば、金以外の合金が多く含まれている可能性がある。
酸による検査(試金石テスト)
酸検査は、金の化学的性質を利用した伝統的な方法である。純金は塩酸や硝酸に対して極めて安定であるが、他の金属は反応して変色する。
使用するもの:
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試金石(黒い天然石)
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酸検査キット(9K、14K、18K、22Kなどに対応)
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金属を削るためのヤスリ
手順:
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試金石に金属をこすりつけて、金属の痕跡を石に残す。
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その痕跡に異なる濃度の酸を一滴ずつ垂らして反応を見る。
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どの濃度の酸まで耐えるかにより、金の純度を推定する。
例えば、18Kの酸で痕跡が消えなければ、対象金属は18K以上の可能性があるが、14Kの酸で痕跡が消えれば、14K未満であることを示す。
マグネットテスト(磁性の有無)
金は非磁性金属であるため、磁石には反応しない。簡易的な判定法として、強力なネオジム磁石を用いて検査することができる。
注意点:
このテストは偽物を除外するための第一ステップとして有用であるが、金以外でも非磁性の金属(銅、鉛など)は存在するため、金であることの証明にはならない。磁石に反応した場合は即座に偽物と判断できるが、反応しないからといって本物とは限らない。
セラミックプレートによるスクラッチテスト
金は柔らかい金属であり、陶器やセラミックと擦り合わせることで特有の金色の痕跡を残す。
手順:
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無釉のセラミックプレートを用意する。
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プレートに対象の金属を軽くこする。
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金色の線が残れば本物の可能性が高く、黒っぽい線であれば偽物である可能性が高い。
超音波およびXRF(蛍光X線分析)検査
専門機器を用いた非破壊検査は、最も信頼性が高く、詳細な分析が可能である。特にXRF(X-ray Fluorescence)は、金属表面の元素構成を正確に特定することができる。
XRF検査の特徴:
項目 | 説明 |
---|---|
分析時間 | 約10〜30秒 |
測定範囲 | 金、銀、銅、亜鉛、ニッケルなど |
必要機器 | ポータブルXRFアナライザー(数百万円規模) |
精度 | 95%以上の正確性 |
メリット | 非破壊・迅速・携帯可能 |
デメリット | 高価・表面のみに限定 |
火災テスト(加熱テスト)
金は高温に強く、溶融点は約1064℃である。トーチなどで加熱することで、表面の変化を見ることができる。純金であれば加熱しても色の変化が少なく、酸化による変色も見られない。
注意点:
この方法はリスクを伴い、正確性に欠ける場合があるため、他の検査と併用して使うべきである。また、金属の損傷や安全上の懸念もあるため、一般家庭での使用は推奨されない。
電気伝導度検査
金は非常に高い電気伝導率を持っており、銀に次ぐ性能を有する。導通テスターや専用機器を用いて、導電性の高さを測定することで、他の合金との識別が可能となる。
測定機器と目安:
金属 | 導電率(%IACS) |
---|---|
銀 | 105 |
金 | 70〜74 |
銅 | 100 |
真鍮 | 28〜36 |
鉄 | 17 |
IACSとは、International Annealed Copper Standardの略であり、銅を基準とした導電率を表す指標である。
各純度の金に対する特徴比較表
純度 | 表記(カラット) | 含有率(%) | 特徴 |
---|---|---|---|
24K | 純金 | 99.9%以上 | 非常に柔らかく、工芸品に向かない |
22K | 約91.7% | 91.7 | 輝きがあり、宝飾品に使用される |
18K | 約75% | 75.0 | 合金としての強度が高く一般的 |
14K | 約58.3% | 58.3 | 色味は薄めで、変色しやすい |
10K | 約41.7% | 41.7 | 最低限の金含有量、価格が安い |
偽物の金に多く使われる代替金属
市場には本物の金に似せた「金メッキ」や「金張り」製品、あるいは重さや色を模倣した金属が多く存在する。その一例として以下のものがある。
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タングステン(比重が金と類似しているが、硬くて加工が難しい)
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銅に金メッキを施したもの(酸検査で即座に判別可能)
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真鍮製品(色が似ているが比重と硬度で判別可能)
結論と推奨事項
金の検査にはさまざまな方法が存在するが、最も正確かつ信頼できるのは複数の手法を併用することである。家庭での簡易検査としては比重測定と酸検査が有用であり、磁石やセラミックテストは補助的に活用できる。一方、業務用や投資目的の検証にはXRFなどの科学的分析装置を用いることが不可欠である。
また、購入時には信頼性のある販売店や鑑定証明書付きの製品を選ぶことが重要である。特にインゴットや投資用金貨の場合は、発行元とその鑑定制度を事前に確認することが推奨される。
参考文献
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日本貴金属協会『貴金属分析ガイドライン』
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国際標準化機構(ISO)『ISO 11426: Determination of gold in gold jewellery alloys』
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東京大学工学部 材料工学科 講義資料『貴金属の特性と応用』
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国民生活センター『金製品の品質と表示に関する調査結果報告書』
金は見た目だけでは真偽が判別できない奥深い素材であり、正確な知識と慎重な検査こそがその価値を守る鍵である。読者一人ひとりが確かな目を持ち、正しく金の真偽を見極められることを願ってやまない。