金(ゴールド)は、その美しさと希少性から古代より宝飾品や通貨、そして現代では電子機器や医療分野においても使用されてきた貴重な金属である。しかし、その価値の高さゆえに、偽物や類似品も多く出回っており、一般消費者が真贋を見極めることは容易ではない。本稿では、金の真偽を見分けるための包括的かつ科学的な方法について、詳細に解説する。これには家庭でできる簡易的なテストから、専門機関による高度な分析技術まで幅広く取り上げる。
1. 金の基本的な物理的・化学的特性
金(元素記号Au、原子番号79)は、展性・延性に優れた金属であり、常温常圧下で酸や塩基に強く腐食しにくいという特徴がある。比重は約19.32g/cm³と非常に高く、銀(約10.49g/cm³)や銅(約8.96g/cm³)などの一般的な金属と比べて格段に重い。

主な物理特性
特性 | 値 |
---|---|
比重 | 約19.32 g/cm³ |
融点 | 約1,064℃ |
展性・延性 | 非常に高い |
色 | 金色(光沢があり変色しにくい) |
2. 金を見分ける視覚的検査
金の視覚的な特徴は、その鮮やかで深みのある金色の光沢である。以下の点に注目することで、外見からある程度の判断が可能である。
① 変色の有無
本物の金は酸化しにくいため、空気や水分によって黒ずんだり緑青(青緑色のサビ)を生じたりしない。逆に、偽物や金メッキは長期間使用しているうちに剥がれや色あせが目立つようになる。
② 彫刻の確認
本物の金製品には、通常「K18」「K24」「750」などの刻印がある(ただし偽刻印も存在するため、これだけでは判断できない)。刻印がはっきりしておらず、にじんでいる場合は偽物の可能性がある。
3. 触感と重量による判別
金は非常に重たい金属であり、同じサイズの他の金属製品と比べても圧倒的に質量がある。例えば、金メッキ製品と純金製品を手に持った際に、純金の方が明らかにずっしりと感じられる。
比重テスト(家庭でも可能)
手順:
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製品の乾燥重量を測定する(g)。
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水を入れたメスシリンダーに製品を沈め、上昇した水の体積(mL)を測定する。
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比重 = 乾燥重量 ÷ 水中排出量(≒mL)
この値が19前後であれば、純金の可能性が高い。
4. 磁石による簡易テスト
金は非磁性金属であり、磁石にくっつくことはない。したがって、磁石を近づけて製品が吸い寄せられる場合、それは鉄やニッケルなどの他の金属が混入している可能性がある。
注意: 金メッキの下に磁性金属があると、このテストでは偽陽性になる場合があるため、あくまで補助的な手法として使用する。
5. セラミックプレートによる擦過テスト
未釉薬の白いセラミックプレートの上に製品を軽くこすりつけると、金であれば鮮やかな金色の跡が残る。偽物やメッキの場合、黒や緑っぽい線が残ることが多い。
6. 酸による化学的テスト
最も広く用いられている金の真贋テストの一つが「王水(硝酸+塩酸)」によるテストである。金は単独の酸には溶けないが、王水には溶解する。
試金石と試金酸(アシッドテスト)
金属を試金石の上でこすりつけ、その跡に濃硝酸または専用の試金酸を垂らす。
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跡がそのまま残る → 金の純度が高い可能性。
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跡が消える → 金以外の金属、または純度が非常に低い。
市販されているアシッドテストキットには、10K、14K、18K、22Kなどの異なる濃度の酸が用意されており、それぞれで反応を見ることで純度の推定が可能となる。
7. エックス線蛍光分析(XRF)
最も正確な非破壊検査法の一つが、XRF(X-ray Fluorescence)による成分分析である。専用の分析機器に製品を当てることで、表面およびある程度の内部成分まで非接触で分析できる。
特徴 | 内容 |
---|---|
非破壊分析 | 製品を傷つけずに成分を分析可能 |
分析時間 | 数秒〜1分程度 |
精度 | 95%以上の高精度 |
測定可能な純度 | 9K〜24K、金以外の混入金属も検出可能 |
この技術は主に宝石鑑定士、貴金属買取業者、産業用分析機関で使用されている。
8. 電気伝導度・超音波による高度分析
金は非常に優れた電気伝導性を持つ(金属中で銀に次ぐ)ため、電気抵抗を測定することでも識別が可能である。また、内部構造の検査には超音波分析装置を用いることもある。これにより、金メッキの下に鉛やタングステンなどが詰められた偽物(いわゆる「金レンガ詐欺」)も発見できる。
9. 金の純度と表示方法
金の純度はカラット(K)またはパーミル(‰)で表記される。日本では以下のような表示が一般的である。
表記 | 純度(%) | 説明 |
---|---|---|
24K | 99.9%以上 | 純金、最も高価 |
22K | 約91.7% | 非常に高純度 |
18K | 約75% | 一般的なジュエリー製品 |
14K | 約58.5% | 強度と美観のバランスが取れた |
10K | 約41.7% | 比較的安価で硬い |