高プロラクチン血症:原因、症状、治療法、影響についての包括的なガイド
高プロラクチン血症(こうプロラクチンけっしょう、英:Hyperprolactinemia)は、血液中のプロラクチンというホルモンのレベルが異常に高くなる状態を指します。プロラクチンは、主に脳の下垂体前葉で分泌されるホルモンで、女性の授乳を助ける重要な役割を果たしていますが、その役割はそれにとどまらず、男女問わず体内でさまざまな生理的な影響を及ぼします。本記事では、高プロラクチン血症の原因、症状、診断方法、治療法、およびその影響について詳しく解説します。

プロラクチンとは?
プロラクチンは、下垂体前葉から分泌されるホルモンで、女性の体においては授乳の準備を助け、妊娠中には乳腺の発達を促進します。また、男性においてもプロラクチンは重要な役割を果たし、精巣や前立腺の機能に影響を与えることが知られています。しかし、プロラクチンのレベルが異常に高くなると、さまざまな健康問題を引き起こす可能性があります。
高プロラクチン血症の原因
高プロラクチン血症は多くの原因によって引き起こされる可能性があります。その中で最も一般的なものをいくつか紹介します。
-
下垂体腺腫(プロラクチノーマ)
高プロラクチン血症の最も一般的な原因は、下垂体に発生する良性の腫瘍、プロラクチノーマです。この腫瘍は、プロラクチンを過剰に分泌するため、血中のプロラクチン濃度が異常に高くなります。プロラクチノーマは、一般的に良性ですが、大きくなると視神経を圧迫し、視力に影響を及ぼすことがあります。 -
薬物の副作用
一部の薬物が高プロラクチン血症を引き起こすことがあります。特に抗精神病薬(ドパミン拮抗薬)、抗うつ薬、降圧薬などがその例です。これらの薬は、脳内でプロラクチンの分泌を抑制するドパミンの作用を阻害し、結果としてプロラクチンの分泌が過剰になります。 -
甲状腺機能低下症(甲状腺ホルモン不足)
甲状腺ホルモンが不足すると、下垂体が反応としてプロラクチンの分泌を増加させることがあります。甲状腺機能低下症がある場合、高プロラクチン血症を引き起こす可能性があります。 -
妊娠および授乳
妊娠中や授乳中の女性では、プロラクチンの分泌が自然に増加します。これは授乳をサポートするための生理的な変化ですが、非妊娠時に異常に高いレベルでプロラクチンが分泌される場合、病的な状態が疑われます。 -
慢性的なストレス
精神的・身体的ストレスが長期間続くと、ホルモンのバランスが乱れ、高プロラクチン血症を引き起こすことがあります。ストレスにより、体内で分泌されるコルチゾールが増加し、これがプロラクチンの分泌を促進することがあるのです。 -
その他の疾患
高プロラクチン血症は、腎不全、肝疾患、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)、および他のホルモン異常に伴うこともあります。これらの疾患が進行することで、プロラクチンの分泌が影響を受けることがあります。
高プロラクチン血症の症状
高プロラクチン血症の症状は、男女で異なります。プロラクチンが過剰に分泌されることで、以下のような症状が現れることがあります。
女性の場合:
-
月経不順
プロラクチンが高いと、排卵が抑制され、月経周期が不規則になったり、無月経(生理が完全に止まること)になることがあります。 -
不妊症
高プロラクチン血症は排卵を妨げるため、妊娠しにくくなることがあります。 -
乳汁分泌(産後でないのに母乳が出る)
プロラクチンは乳腺を刺激して乳汁を分泌させるため、非妊娠状態で乳汁が分泌されることがあります(無月経性乳汁分泌)。 -
性欲低下
高プロラクチン血症は、性ホルモンのバランスを崩し、性欲低下を引き起こすことがあります。
男性の場合:
-
性欲減退
高プロラクチン血症は男性のテストステロンの分泌にも影響を与え、性欲や性的機能に問題を引き起こすことがあります。 -
勃起不全
高いプロラクチンレベルが続くと、勃起不全(ED)が発生することがあります。 -
乳房の肥大(男性型乳房)
高プロラクチン血症によって、男性でも乳腺が発達し、乳房が肥大することがあります。これを「男性型乳房」と呼びます。
高プロラクチン血症の診断方法
高プロラクチン血症を診断するためには、いくつかのステップが必要です。
-
血液検査
最初に行うのは血液中のプロラクチン濃度の測定です。正常値は、一般的に女性で2~29 ng/mL、男性で2~18 ng/mL程度です。プロラクチンの値がこの範囲を超えている場合、追加の検査が必要となります。 -
下垂体MRI
プロラクチンが高い原因として最も一般的なものがプロラクチノーマ(下垂体腺腫)です。このため、MRI(磁気共鳴画像)を用いて下垂体の腫瘍の有無を確認することが重要です。 -
甲状腺機能検査
甲状腺機能低下症が原因である場合があるため、甲状腺ホルモンの測定を行います。 -
薬物履歴の確認
使用している薬物が高プロラクチン血症を引き起こす可能性があるため、現在服用している薬を確認することも重要です。
高プロラクチン血症の治療法
高プロラクチン血症の治療は、原因に応じて異なります。
-
薬物療法
プロラクチノーマの場合、ドパミン作動薬(カバガリンやブロモクリプチン)を使用してプロラクチンの分泌を抑える治療が一般的です。これにより、腫瘍が縮小することもあります。 -
甲状腺ホルモンの補充
甲状腺機能低下症が原因の場合、甲状腺ホルモンを補充することによって、プロラクチンのレベルが正常に戻ることがあります。 -
手術
プロラクチノーマが非常に大きく、薬物治療が効果を示さない場合は、手術による腫瘍の摘出が検討されます。 -
放射線治療
腫瘍が手術で取りきれない場合や、薬物療法が効かない場合には、放射線治療が行われることもあります。