EIGRP(Enhanced Interior Gateway Routing Protocol)は、ネットワークルーティングにおいて非常に重要なプロトコルであり、特に広域ネットワーク(WAN)や企業ネットワークで広く使用されています。EIGRPは、Ciscoが開発した距離ベースのルーティングプロトコルで、内部ゲートウェイルーティングプロトコル(IGP)の一種です。EIGRPは、ネットワークの最適化とルーティングの効率化を実現するために設計され、動的に最適な経路を選択し、ネットワークの冗長性と信頼性を確保します。本記事では、EIGRPの基本的な機能、動作原理、プロトコルに関連する重要な用語、そしてEIGRPルーティングテーブルとその構成要素について詳しく解説します。
1. EIGRPの概要
EIGRPは、RIP(Routing Information Protocol)やOSPF(Open Shortest Path First)といった他のルーティングプロトコルと比較して、以下のような特徴を持っています。
- 迅速な収束速度: EIGRPは、ネットワークの変更を即座に反映させることができるため、トラフィックのロスを最小限に抑えます。収束時間が短く、ネットワークの障害発生時にも迅速に新しい経路を選定できます。
- ハイブリッド型のルーティングプロトコル: EIGRPは、リンクステートとベクターフィードバックの特性を組み合わせたハイブリッド型ルーティングプロトコルです。この特性により、最適化されたルーティングのパフォーマンスと効率性が提供されます。
- 部分的な更新: EIGRPは、ネットワーク構成の変更時に、必要な部分のみを更新します。これにより、帯域幅の使用を抑制し、ネットワーク効率を高めます。
2. EIGRPの動作原理
EIGRPは、以下の重要な要素に基づいて動作します。
2.1. メトリックの計算
EIGRPでは、ネットワークの経路選定に使用される「メトリック」が重要です。EIGRPのメトリックは、以下の4つの要素を考慮して計算されます:
- 帯域幅(Bandwidth): ネットワークリンクの最大転送速度。
- 遅延(Delay): リンクを通過するデータの遅延時間。
- 信頼性(Reliability): リンクの信頼性。リンクが故障しにくいほど信頼性が高くなります。
- 負荷(Load): リンクを通過する現在のトラフィックの量。
これらの要素を基に、EIGRPは総合的なメトリックを計算し、最も効率的な経路を選定します。
2.2. Helloパケットとネイバーシップ
EIGRPでは、ネットワークの各ルーターは定期的にHelloパケットを送信して、他のルーターとの通信を確立します。このパケットには、ルーターのIPアドレスやネットワーク情報、EIGRPの動作に必要なパラメーターが含まれています。Helloパケットを受信したルーターは、その情報を基にネイバーシップ(隣接関係)を確立し、EIGRPルーティングプロセスが開始されます。
2.3. 更新パケットと交換
EIGRPの特徴のひとつに、部分的な更新パケットがあります。これにより、ネットワーク内での経路変更時に、変更があった経路のみが他のルーターに通知され、余計な情報の交換を避けることができます。更新パケットは、経路の変更を迅速にネットワーク全体に伝達し、適切な経路選択を可能にします。
2.4. フィーブルパケット(Acknowledge)
EIGRPは、経路情報の確実な受信を確認するために、フィーブルパケット(ACK)を使用します。更新パケットを受信したルーターは、これに対してACKパケットを送信し、情報の確実な伝達が行われたことを確認します。
3. EIGRPルーティングテーブルと構成要素
EIGRPルーティングテーブルには、ネットワークの最適な経路情報が格納されます。このルーティングテーブルは、次の情報を含んでいます。
3.1. ネイバーテーブル
ネイバーテーブルは、EIGRPが隣接するルーター(ネイバー)との情報交換を行うために保持するテーブルです。各エントリーには、隣接ルーターのIPアドレスやそのルーターとのリンクのメトリック情報が格納されます。
3.2. ルーティングテーブル
EIGRPのルーティングテーブルには、最適な経路情報が格納されます。このテーブルには、次の情報が含まれます:
- ネットワーク宛先: 目的地のIPアドレス。
- 次ホップアドレス: 次にパケットを転送するルーターのアドレス。
- インターフェース: どのインターフェースを通じてパケットを送信するか。
- メトリック: 経路の最適性を示すメトリック。
3.3. ストレートパス(Best Path)
EIGRPでは、最適な経路(ストレートパス)はメトリック値に基づいて選択されます。複数の経路が存在する場合、EIGRPは最も低いメトリックを持つ経路を選択し、それがストレートパスとしてルーティングテーブルに登録されます。
3.4. サブネットマスクとネットワーク識別子
EIGRPでは、サブネットマスクとネットワーク識別子を使用して、ネットワーク構成を識別します。これにより、特定のネットワーク範囲に対する経路を効率的に管理できます。
4. EIGRPのメリットとデメリット
4.1. メリット
- 効率的な帯域幅の使用: 部分的な更新パケットを使用することで、ネットワーク帯域幅の無駄を減らします。
- 迅速な収束: ネットワークの変化に対して迅速に適応できるため、ダウンタイムが短縮されます。
- ハイブリッド型の特性: リンクステートと距離ベクタの長所を併せ持つため、より優れたルーティングパフォーマンスを提供します。
4.2. デメリット
- Cisco専用: EIGRPはCisco独自のプロトコルであるため、他のベンダーの機器と互換性がありません。
- 設定が複雑: EIGRPの設定は、初心者には少し難解な部分もあります。
5. EIGRPの設定と管理
EIGRPの設定は、基本的なネットワーク構成が整った後、ルーター間で適切に動作するように調整する必要があります。基本的な設定は、以下の手順で行います。
- EIGRPプロセスの開始:
router eigrpコマンドを使用してEIGRPプロセスを開始します。 - ネットワークの指定:
networkコマンドを使用して、EIGRPでルーティングを行うネットワーク範囲を指定します。 - メトリックの設定: 必要に応じて、帯域幅や遅延などのメトリックを手動で設定できます。
- 隣接ルーターの確認:
show ip eigrp neighborsコマンドで隣接するルーターを確認します。
EIGRPの設定後、ネットワーク上で動作する様子を確認するためには、ルーティングテーブルやネイバーテーブルを表示することが重要です。show ip route や show ip eigrp topology コマンドを使って、EIGRPの動作をモニタリングできます。
まとめ
EIGRPは、迅速な収束速度と効率的なメトリック計算を提供する非常に強力なルーティングプロトコルです。特に大規模なネットワーク環境では、その性能と信頼性が重要です。EIGRPの理解と設定方法を習得することは、ネットワークエンジニアにとって重要なスキルです。
