白亜紀後期:定義と主要な出来事
白亜紀後期(はくあきこうき、Late Cretaceous)は、地球史の中でも極めて重要な時代のひとつであり、恐竜時代の終焉とともに、現代の生態系の原型が形成された時代でもある。約1億年前から6600万年前までの約3400万年にわたるこの時期は、地質学的、気候的、生物学的に大きな変動が重なった劇的な時代である。本稿では、白亜紀後期の定義、地球環境の変化、生物の多様性と進化、重要な地質現象、そして最終的に起きた大量絶滅イベントについて詳細に解説する。
白亜紀後期の定義と時代区分
白亜紀は中生代(三畳紀、ジュラ紀、白亜紀の三時代から構成される)の最終期であり、さらに前期(約1億4500万年前〜1億年前)と後期(約1億年前〜約6600万年前)に分かれる。白亜紀後期は、地質時代において「セノマニアン期」から「マーストリヒチアン期」までを含み、国際地質科学連合(International Commission on Stratigraphy)の基準に基づき明確に区分されている。
白亜紀後期は、その終盤に恐竜をはじめとする多くの生物種が絶滅する「K-Pg境界(白亜紀-古第三紀境界)」によって、鮮新世へとバトンタッチする節目となった。この境界は、地質学的にもグローバルに確認される薄いイリジウム層によって特徴づけられており、後述する小惑星衝突仮説の証拠のひとつとされている。
地球環境と気候の変動
白亜紀後期の地球は、現在と比べてはるかに高温多湿で、極地にも氷床が存在していなかった。平均気温は現代よりも5〜10℃高かったとされており、温暖な気候が全球的に広がっていた。大気中の二酸化炭素濃度は現在の約3〜5倍に達していたと推定されており、これは火山活動の活発化やプレートテクトニクスによる地殻変動が影響していたと考えられている。
この高温環境は、生物多様性の拡大にとって有利であった反面、海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Events:OAE)と呼ばれる一時的な海洋酸素濃度の急減を引き起こし、海洋生物に深刻な影響を与えた。これらの事変は黒色頁岩の形成と関連があり、現在でも油田地層として重要視されている。
超大陸の分裂と海洋の拡大
白亜紀後期には、かつての超大陸パンゲアが完全に分裂し、現代の大陸の原型が形成され始めた。北アメリカ、ユーラシア、アフリカ、南アメリカ、インド、オーストラリア、南極大陸は、現在の位置へとゆっくり移動を開始しており、これによって新たな海洋や海峡が形成され、気候や海流、生態系に大きな影響を与えた。
特に大西洋の拡大が顕著であり、新たに誕生した海洋生態系は、白亜紀海進(Cretaceous transgression)と呼ばれる海面上昇の影響で豊富な生物相を形成した。海進によって内陸部にも浅い海が広がり、これが白亜紀の堆積物分布や化石記録に大きな影響を残している。
生物多様性と進化
恐竜の繁栄と特異性
白亜紀後期は、恐竜の進化が最高潮に達した時代であり、数多くの系統が登場した。北アメリカのティラノサウルス・レックス(Tyrannosaurus rex)、アジアのタルボサウルス(Tarbosaurus)、そして草食恐竜ではトリケラトプス(Triceratops)やアンキロサウルス(Ankylosaurus)などが代表的な種である。
また、この時代には羽毛をもつ恐竜や、鳥類に近い特徴をもつ種も登場し、現生鳥類への進化が進行していた。鳥盤類と竜盤類の分化も明確となり、生態的多様性が極めて豊かになった。
海洋生物の進化
海洋では、アンモナイトやベレムナイト(軟体動物)、魚竜(イクチオサウルス)、モササウルス類(巨大な海棲爬虫類)などが繁栄した。特にモササウルス類はこの時代に多様化し、頂点捕食者として食物連鎖の上位に君臨していた。
また、硬骨魚類や原始的なサメの系統も進化を遂げ、今日の魚類の祖先となる種がこの時代に登場した。プランクトンの構成も変化し、ココリソフォア(石灰質プランクトン)の大量発生が海洋炭酸塩沈積に寄与した。
被子植物の台頭
陸上では、裸子植物が依然として優勢であったが、被子植物(花を咲かせる植物)が急激に多様化し始めた。この現象は「被子植物革命」と呼ばれ、昆虫との共進化によって受粉の効率が飛躍的に高まったことが背景にある。
特に白亜紀後期には、イネ科やブナ科など現代にも見られる植物群が出現し、陸上の植生パターンが大きく変化した。これによって草食恐竜の食性や進化にも影響が及び、生態系全体にダイナミックな変化がもたらされた。
白亜紀末の大量絶滅
白亜紀後期の終焉は、地球生命史における最も劇的な出来事のひとつである「K-Pg大量絶滅」で幕を閉じた。この出来事では、恐竜(鳥類を除く)、アンモナイト、モササウルス類、翼竜、プランクトンの多くの種など、地球上の生物種の約75%が絶滅したとされている。
チチュルブ衝突体仮説
最も広く受け入れられている説は、現在のメキシコ・ユカタン半島にある「チチュルブ・クレーター」に関連するものである。直径約10〜15kmの小惑星が地球に衝突し、その衝撃で大量の塵と硫黄が大気中に放出され、地球規模の気候変動(暗黒期、寒冷化)が引き起こされた。この影響で光合成が停止し、食物連鎖が崩壊した。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 衝突体の直径 | 約10〜15km |
| 形成されたクレーター | チチュルブ・クレーター(直径約180km) |
| 推定エネルギー | 約1億メガトン(TNT換算) |
| 影響 | 気候冷却、酸性雨、大規模火災、生態系崩壊 |
火山活動と環境変化
もうひとつの重要な要因として、インド亜大陸における「デカン・トラップ」の大規模火山活動がある。これは数十万年にわたって継続的に火山ガス(特に二酸化炭素と二酸化硫黄)を放出し、温室効果や酸性雨、気候変動を引き起こしたとされる。
この火山活動と小惑星衝突が複合的に作用し、生物の生存環境を急激に悪化させたと考えられている。現在でもこの二重要因説が注目され、最新の放射年代測定技術を用いて詳細な時系列の解明が進められている。
白亜紀後期の意義と現代への影響
白亜紀後期は、恐竜時代の終焉という象徴的な時代であると同時に、哺乳類や鳥類、被子植物など、現代の生態系を構成する主要な生物群が本格的に台頭する契機となった時代でもある。この時代に起きた変化は、生物進化の方向性を根本的に変え、その後の新生代(哺乳類の時代)の始まりを導いた。
また、地質学的な観点からも、白亜紀後期に形成された堆積岩や化石層は、現代のエネルギー資源(石油、天然
