肝炎:種類、原因、症状、診断、治療、予防までの完全ガイド
肝炎(かんえん)は、肝臓の炎症を指す一般的な医学用語であり、その原因や影響の範囲は極めて広範である。肝臓は、解毒、栄養素の代謝、ホルモンの合成、免疫機能など生命維持に不可欠な多くの役割を担っているため、肝炎は身体全体に重大な影響を及ぼす可能性がある。本稿では、肝炎の主な種類、原因、症状、診断、治療、合併症、そして予防法まで、科学的根拠に基づいて徹底的に解説する。
肝炎の分類
肝炎は大きく分けて「急性肝炎」と「慢性肝炎」に分類され、さらに原因によって以下のように細分化される。
| 分類 | 内容 |
|---|---|
| ウイルス性肝炎 | A型、B型、C型、D型、E型肝炎ウイルスによる感染。世界的に最も多い原因。 |
| アルコール性肝炎 | 長期間の過度な飲酒による肝細胞の炎症。 |
| 自己免疫性肝炎 | 自己免疫の異常によって自身の肝臓が攻撃される。女性に多く見られる。 |
| 薬剤性肝炎 | 一部の医薬品やサプリメントの副作用による肝障害。 |
| 代謝性肝炎 | 非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)など、生活習慣に関連した肝疾患。 |
ウイルス性肝炎の詳細
A型肝炎(HAV)
主に汚染された飲食物や水によって経口感染する。発展途上国で多く見られる。
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潜伏期間:2~6週間
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症状:発熱、倦怠感、食欲不振、黄疸
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特徴:一過性で慢性化しない。予防接種あり。
B型肝炎(HBV)
血液、体液、母子感染などを通じて感染する。慢性化する可能性がある。
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潜伏期間:1~6か月
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症状:急性では発熱、黄疸、肝機能障害
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慢性化率:成人で約5%、乳児感染で90%以上
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予防接種:あり(日本では定期接種)
C型肝炎(HCV)
主に血液感染。輸血や注射器の使い回しが原因。慢性化率が高く、肝硬変や肝癌に進行しやすい。
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潜伏期間:1~3か月
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症状:無症状で進行することが多い
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治療法:近年は直接作用型抗ウイルス薬(DAAs)により治癒可能
D型肝炎(HDV)
B型肝炎ウイルスと共に感染しないと増殖できない。B型肝炎患者でのみ発症。
E型肝炎(HEV)
主に汚染された水や動物由来食品(豚肉など)で感染。日本でも野生動物からの感染報告あり。
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妊婦が感染すると劇症化することがある。
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ワクチンは一部の国でのみ承認済み。
非ウイルス性肝炎
アルコール性肝炎
長期間の過剰飲酒によって肝細胞に炎症が起こる。進行すると肝硬変や肝癌に至る。
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主な症状:腹部の不快感、疲労感、食欲不振
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治療:断酒、栄養療法、必要に応じて薬物療法
非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)
肥満、糖尿病、脂質異常症などの代謝異常と関連する。
| 病態 | 説明 |
|---|---|
| NAFL(脂肪肝) | 脂肪の蓄積はあるが炎症や線維化がない |
| NASH | 炎症と線維化が認められ、肝硬変に進展する可能性あり |
自己免疫性肝炎
自己免疫系が肝細胞を攻撃する。慢性化しやすく、適切な治療が必要。
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多くは女性に多く、中年期に発症
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ステロイド療法が中心
肝炎の症状
肝炎の症状は急性と慢性で大きく異なる。
| 症状分類 | 主な症状 |
|---|---|
| 急性肝炎 | 倦怠感、発熱、悪心、嘔吐、腹痛、黄疸、褐色尿、白色便など |
| 慢性肝炎 | 無症状~軽度の倦怠感、右季肋部痛、食欲低下、肝腫大など |
慢性肝炎は自覚症状が乏しく、気づかないまま数十年かけて肝硬変・肝癌へ進行することがあるため、定期的な検診が極めて重要である。
診断方法
肝炎の診断には、以下のような検査が用いられる。
| 検査項目 | 内容 |
|---|---|
| 血液検査 | AST、ALT、γ-GTP、ビリルビン、HBs抗原・HCV抗体など |
| 超音波検査 | 肝腫大や脂肪肝、硬変の有無を確認 |
| CT・MRI | 詳細な肝臓の状態、腫瘍の有無を確認 |
| 肝生検 | 肝組織を採取し、炎症や線維化の程度を組織学的に評価 |
| 繊維化マーカー | FibroScanなどで肝線維化の進行度を非侵襲的に評価可能 |
肝炎の治療法
治療法は原因によって大きく異なる。
ウイルス性肝炎の治療
| 肝炎の種類 | 主な治療法 |
|---|---|
| A型肝炎 | 対症療法のみ、自然治癒する |
| B型肝炎 | 核酸アナログ(エンテカビル、テノホビルなど) |
| C型肝炎 | DAAs(ソホスブビル、レジパスビルなど)での短期治療 |
| D型肝炎 | B型のコントロールが必要、ペグインターフェロンなど |
| E型肝炎 | 対症療法中心、重症例では入院治療 |
その他の肝炎の治療
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アルコール性:断酒が絶対条件、栄養管理と薬物療法
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NASH:減量、食事療法、運動療法、糖尿病・高血圧・脂質異常の管理
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自己免疫性:ステロイド(プレドニゾロン)や免疫抑制剤(アザチオプリン)
合併症と予後
肝炎が進行すると以下のような重篤な合併症を引き起こす。
| 合併症 | 説明 |
|---|---|
| 肝硬変 | 肝臓が線維化し機能を喪失。腹水、静脈瘤出血、肝性脳症などを引き起こす。 |
| 肝細胞癌 | 特にC型肝炎では慢性化から肝癌へ進行するリスクが高い。 |
| 肝不全 | 肝臓の機能が完全に失われ、命に関わる。移植が必要な場合もある。 |
肝炎の予防
予防は肝炎対策において最も重要な要素である。
| 対策 | 内容 |
|---|---|
| ワクチン接種 | A型・B型に対して有効。特にB型は新生児への定期接種が推奨される。 |
| 衛生管理 | 手洗い、加熱処理、清潔な水の使用などでA型・E型の感染を予防。 |
| 安全な性行為 | B型・C型の感染リスクを下げる。コンドームの使用が推奨される。 |
| 医療器具の使い捨て | 注射器の再利用を防止し、医療機関での感染を防ぐ。 |
| 飲酒の節制 | アルコール性肝炎やNASHの進行を防ぐ。 |
| 生活習慣の改善 | 食事、運動、体重管理で脂肪肝やNASHの予防に寄与。 |
日本における現状と課題
日本では、特にC型肝炎による肝硬変・肝癌が依然として多く、厚生労働省は早期発見・治療を推進している。全国で肝炎ウイルス検査が無料で受けられる体制が整っているにもかかわらず、検査の受診率は高くない。啓発活動や教育の重要性が問われている。
参考文献
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厚生労働省「肝炎対策について」https://www.mhlw.go.jp/
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日本肝臓学会「肝炎診療ガイドライン」
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WHO「Hepatitis Factsheet」
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国立国際医療研究センター 肝炎情報センター https://www.kanen.ncgm.go.jp/
肝炎は、発見が早ければ早いほど治療の選択肢が増え、予後も良好である。無症状だからといって放置せず、定期的な検査と生活習慣の見直しが、未来の健康を守る鍵となる。日本においても、誰もが自分の肝臓の状態を正しく知り、予防・治療の行動に移すことが求められている。
