さまざまな芸術

コンスタンティーヌのマールーフ音楽

コンスタンティーヌのマールーフ音楽の概念:アルジェリア都市音楽の宝石

コンスタンティーヌにおけるマールーフ音楽(Malouf)は、アルジェリアの文化遺産の中でも特に輝きを放つ芸術形式である。これは単なる音楽ジャンルではなく、歴史、精神性、詩、哲学、社会的儀礼、そして地中海文明の融合を反映する深淵な文化体系である。マールーフは、アンダルス・イスラム文明から伝播した壮麗な音楽体系を礎に、何世紀にもわたり形作られてきた。この記事では、コンスタンティーヌのマールーフ音楽の起源、構造、使用楽器、詩的形式、社会的役割、現代への継承に至るまで、その全体像を詳述する。


1. 歴史的起源と地理的文脈

マールーフ音楽の源流は、8世紀から15世紀にかけてイベリア半島に栄えたアンダルス・イスラム文明にある。1492年のグラナダ陥落後、アンダルスの音楽家、詩人、職人たちは北アフリカに移住し、モロッコ、チュニジア、アルジェリアなどの都市にその文化を伝えた。マールーフは、その中でも特にコンスタンティーヌという都市で独自の発展を遂げた。この都市は古代ローマの要塞都市「チルタ」として始まり、後にビザンツ、イスラム、オスマンなど多様な文明が交錯した要衝である。

コンスタンティーヌに伝来したマールーフは、アンダルス音楽の理論を基礎に、現地のベルベル文化、オスマン音楽、アラブ古典音楽などの要素を融合させて洗練された。よってマールーフは、単なるアンダルス音楽の複製ではなく、アルジェリア固有の文化的フィルターを通じて昇華された独自の音楽ジャンルと位置づけられる。


2. 音楽構造と理論的枠組み

マールーフ音楽は、非常に厳格かつ洗練された構造を持つ。最も代表的な形式は「ヌーバ」(nuba)であり、これは複数の楽章(ムクッダマート)で構成される長編音楽作品である。一つのヌーバは、特定の旋法(マカーム)に基づいて演奏される。

通常、ヌーバは以下の構成を取る:

楽章 名称 特徴
1 ムシューワー 序章、器楽による導入部
2 バシュラーフ リズミカルな器楽パート
3 タウシーヤ ヴォーカル部分の開始、詩の朗誦
4 インサーフ 楽器と声が交互に展開される部分
5 クルジ クライマックス、速度と力強さが増す

ヌーバの演奏は、しばしば1時間から2時間に及ぶことがあり、詩と旋律が緻密に構築された芸術空間を創出する。


3. 使用楽器と演奏技術

マールーフ音楽で使用される楽器は、西洋のクラシック音楽とは異なり、中東・北アフリカ特有のものが中心である。以下に主な楽器を示す:

  • クドゥーム(小太鼓):リズムの基礎を形成する打楽器。

  • ターリ(タンバリン):拍子を強調する補助的打楽器。

  • カーヌーン:平らな台に多数の弦が張られた撥弦楽器。旋律の中心を担う。

  • ウード:短いネックと大きな胴を持つ撥弦楽器。音色に深みがあり、即興演奏にも適している。

  • ヴァイオリン:オスマン時代以降に導入された西洋由来の楽器で、しばしば膝に置いて演奏される。

  • ナイ(葦笛):霊的な響きを持ち、旋律に神秘性を加える。

これらの楽器は、マールーフの微細な旋法(マカーム)やリズムパターン(ウズーン)を忠実に再現し、詩と調和することで独特の精神世界を作り出す。


4. 詩的要素と歌詞の主題

マールーフの詩は極めて洗練され、哲学的・宗教的・恋愛的な主題を多く含む。多くはクラシカル・アラビア語に基づくが、コンスタンティーヌ独自の詩形も発達した。詩の主題には以下のようなものがある:

  • スーフィズム(神秘主義):神との一体化、魂の浄化。

  • ウジュド(霊的陶酔):音楽による霊的高揚。

  • イシュク(愛):神への愛、あるいは比喩的に人間の愛。

  • 哲学と運命:人生の無常、死の意味。

詩はしばしば「ムアッラカート」や「ガザーラ」といった古代詩形に基づき、内的リズムと韻律を厳密に保ちながら構成される。歌手はこれらの詩を、感情を込めて朗誦することによって、聴衆との共鳴を生み出す。


5. 社会的・文化的機能

マールーフ音楽は、コンスタンティーヌの社会において極めて重要な役割を果たしてきた。宗教儀礼(特にスーフィーのザウィーヤにおける)や結婚式、葬儀、祝祭など、あらゆる人生の節目において演奏される。特に「マハジャーン」と呼ばれる音楽祭では、複数の楽団が一堂に会し、その技量と創意を競う。

さらに、マールーフは代々の師匠から弟子へと継承される「師弟制度」を通して伝えられてきた。この伝統的な教育制度では、単に音楽技術だけでなく、詩学、礼節、宗教的知識も教育されるため、マールーフは「生活の芸術」とも言える。


6. 現代への継承と課題

現代において、マールーフ音楽はグローバリゼーションや若年層の関心低下といった課題に直面している。しかし、国家や地方自治体、また市民団体の支援により保存と普及が図られている。2003年には、ユネスコによりアルジェリアのアンダルス音楽が無形文化遺産の候補として提起され、国際的にもその価値が認識され始めている。

また、録音技術やインターネットを活用したアーカイブ化も進んでおり、往年の巨匠たちの演奏が次世代に伝えられる土壌が整いつつある。音楽学校ではマールーフの講座が設けられ、若者の興味を引くよう現代的なアレンジを加えた取り組みも進んでいる。


7. 代表的音楽家とその功績

マールーフの発展には、多くの偉大な音楽家の尽力があった。例えば:

  • ハサン・エル・アナサール:マールーフの理論体系を体系化したことで知られる教育者。

  • モハメド・タハール・フェルハット:詩人であり歌手、数々の名演を残す。

  • アブデルモウメン・ベン・アッレシュ:現代におけるマールーフ復興の旗手として知られる。

これらの音楽家は、録音、書籍、教育を通してマールーフの保存と普及に貢献しており、その影響は現在に至るまで色濃く残っている。


結語

コンスタンティーヌのマールーフ音楽は、単なる音楽表現を超えて、地中海・アンダルス・アラブ・ベルベルの文明的対話の象徴である。その複雑な旋律構造、深遠な詩世界、宗教的・哲学的意味合い、そして社会的役割を通して、マールーフはアルジェリア文化の中枢をなす重要な遺産である。

現代において、この音楽が直面する多くの課題を乗り越えるためには、教育、技術、文化政策の連携が不可欠である。マールーフの保存と継承は、アルジェリアの文化的アイデンティティを守るだけでなく、人類全体にとっても無形文化遺産の多様性と尊厳を象徴する行為である。


参考文献

  1. Cherif, M. (2007). La musique andalouse de Constantine: Héritage et modernité. Alger: ENAG Editions.

  2. Toumi, N. (2013). Patrimoine musical de l’Algérie: Le malouf constantinois. Constantine: Editions du Tell.

  3. UNESCO. (2003). Convention for the Safeguarding of the Intangible Cultural Heritage.

  4. Gharbi, H. (2018). Les maîtres du Malouf constantinois: Biographies et analyses musicales. Oran: CNCA.

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