معمول بالقشطة(マアムール・ビル・クシュタ):中東の伝統的なクリーム入りデーツクッキー
中東地域には、何世紀にもわたって受け継がれてきた独自の伝統菓子が数多く存在する。その中でも「معمول بالقشطة(マアムール・ビル・クシュタ)」と呼ばれるお菓子は、特にラマダン明けのイード・アル=フィトルやイード・アル=アドハーなどの祝祭時期に人気が高く、家庭の団らんに欠かせないスイーツである。この記事では、この繊細で風味豊かな菓子について、歴史的背景から材料、調理法、化学的性質、さらには現代的アレンジまで、科学的かつ文化的に深く掘り下げていく。

1. 歴史的背景と文化的意義
「معمول(マアムール)」という語は「詰め物をした」という意味を持ち、主にデーツ(ナツメヤシ)、ナッツ、またはチーズなどの具を詰めたサブレ状の焼き菓子を指す。レバノン、シリア、パレスチナ、ヨルダン、エジプトなどのレバント地域を中心に広く親しまれており、特に宗教行事の際には家庭で大量に焼かれ、親戚や近所と分け合う習慣がある。
「القشطة(クシュタ)」とは、主に水牛乳または全脂乳から作られる濃厚なクリームの一種であり、アラブ世界においては特別なデザートの材料として重宝される。マアムールにクシュタを加えることにより、リッチでミルキーな風味ととろけるような食感が生まれ、伝統的なドライフィリングとは異なる贅沢さが演出される。
2. 材料の科学的分析と機能
以下は一般的なمعمول بالقشطةに使用される材料と、その機能を科学的に解説したものである。
材料名 | 主成分 | 化学的・物理的機能 |
---|---|---|
セモリナ粉 | デュラム小麦の粗挽き | 生地にざらつきと噛みごたえを与える。加水時にグルテンが形成されにくく、さっくり感を生む。 |
小麦粉(薄力粉) | 澱粉+グルテン | セモリナと混ぜることで生地のまとまりと柔軟性を向上。 |
無塩バターまたはギー | 飽和脂肪酸 | 生地にコクと風味を加え、焼成後のホロホロ食感を実現。乳化にも関与。 |
クシュタ(アラブクリーム) | 乳脂肪、カゼイン、乳糖 | フィリングとして滑らかな食感を提供。熱処理でやや固まる性質があるため、焼成中に流れ出しにくい。 |
砂糖 | スクロース | 甘味付けとカラメル化反応による焼き色形成に寄与。 |
オレンジフラワーウォーターまたはローズウォーター | 精油成分 | 香りを付加し、風味を高める。伝統的な中東菓子の特徴的な芳香を持つ。 |
ベーキングパウダー(任意) | 炭酸水素ナトリウム | 生地を軽くする目的で使われることがあるが、伝統的には使用しないことが多い。 |
3. 調理工程の詳細とその科学的根拠
3.1 生地の準備
セモリナ粉と小麦粉をバターと混ぜ、ポロポロとした状態になるまでよく馴染ませる。これは、**「サブレー効果(ショートニング効果)」**と呼ばれるもので、バターの脂肪分が小麦粉のタンパク質を包み込み、グルテンの形成を抑えることで、焼成後にホロホロと崩れる食感を生む。
次に少量のぬるま湯と芳香水を加え、生地を手でこねる。このとき、水の量は最小限に抑えなければならない。水分が多すぎるとグルテンが形成されすぎてしまい、望ましい食感が損なわれる。
3.2 フィリングの調製
クシュタは市販のものでも良いが、自家製で作る場合は牛乳を温め、表面に浮いてきたクリーム層を丁寧にすくい取る。これを冷やし固めたものが伝統的なクシュタであり、乳脂肪分が高いため、焼成中も安定性が高く、過剰に液状化しない特性がある。
必要に応じて、少量のコンスターチを加えることで粘性を高め、フィリングの漏れを防止する。
3.3 成形と焼成
生地を小さな円形に広げ、中央にクシュタをのせ、端を閉じて球状にする。伝統的には木製のマアムール型に押し当てて模様をつけるが、手作業でも十分に美しく仕上げることが可能。
180度に予熱したオーブンで約12〜15分焼成。焼きすぎはクシュタの分離を引き起こすため、焼き色がほとんどつかない程度で取り出すことが推奨される。
焼成後は完全に冷ましてから粉砂糖をふるうことで、全体の味のバランスが整う。
4. 栄養学的考察
معمول بالقشطةは、脂質と糖質が高い反面、食物繊維やたんぱく質はやや控えめである。以下に100gあたりの推定栄養価を示す。
成分 | 含有量(推定) |
---|---|
エネルギー | 約420 kcal |
炭水化物 | 約48g |
脂質 | 約22g |
たんぱく質 | 約5g |
食物繊維 | 約2g |
ナトリウム | 約50mg |
中東諸国では、これをブラックコーヒーや甘くないミントティーと共に食べることで、血糖値の急上昇を緩和する文化的知恵がある。
5. 現代的アレンジと応用可能性
現代では、健康志向の高まりを受けて、以下のようなアレンジが試みられている。
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ヴィーガン対応:ギーの代わりにココナッツオイルや植物性バターを使用し、クシュタの代替として豆乳ベースのクリームを採用。
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グルテンフリー:セモリナと小麦粉の代わりに米粉とアーモンド粉を用いたアプローチ。
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低糖質バージョン:砂糖の代替としてエリスリトールやステビアを利用。
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冷凍保存対応:成形後冷凍保存し、食べたい分だけ焼成する方式により、手軽に楽しむことが可能に。
6. 結語
معمول بالقشطةは単なるお菓子ではなく、中東における宗教・文化・家庭の温もりを象徴する存在である。その一つひとつが、家族の歴史や喜びの記憶とともに焼き上げられる。科学的な側面から見ても、食感や香りの絶妙なバランスは、材料の選定と製法の妙に基づいており、何世代にもわたって伝えられてきたレシピの奥深さを感じさせる。
家庭でこの伝統菓子を作ることは、異文化を尊重し、味覚を通じて歴史に触れる行為ともいえる。ぜひ一度、معمول بالقشطةを手作りし、その魅力を五感で体験してみていただきたい。