金(ゴールド)は、古代から人類にとって特別な価値を持つ貴金属であり、貨幣、装飾品、工業材料として幅広く利用されてきた。金の存在場所を正確に理解することは、地質学、鉱業、経済学において重要である。本稿では、「金はどこに存在するのか?」という問いに科学的かつ詳細に答えるため、地球規模から微視的なスケールまで、金の分布、形成過程、採掘方法、そして国別の埋蔵量・生産量に至るまで包括的に解説する。
地球上の金の形成と分布
金は宇宙的な視点から誕生した元素であり、その起源は中性子星の衝突や超新星爆発にあるとされている。これらの天体現象によって生成された金は、地球の形成初期に隕石などによって地殻内に取り込まれた。その後、地質活動により特定の地域に集積し、鉱床を形成する。
金が集中して存在する主な地質環境には以下のようなものがある:
| 地質環境の種類 | 特徴 |
|---|---|
| 石英脈型鉱床 | 石英の割れ目に金が沈殿する。多くは火山活動に伴う熱水により形成される。 |
| 熱水性鉱床 | 地下深部からの熱水が金を溶かし、冷却時に再沈殿。硫化鉱物とともに発見されやすい。 |
| プレイサー鉱床(砂金) | 川の流れなどで岩石から削り取られた金が、川底などに堆積する。採取が比較的容易。 |
| 変成帯鉱床 | 高温高圧の地殻変動により岩石中の金が濃縮される。地質年代が古い地域で多く見られる。 |
| 火成岩関連鉱床 | 火山活動によるマグマの冷却とともに金が鉱物として結晶化。主に深成岩に伴うことが多い。 |
世界における金の主な埋蔵地域
金は世界各地に分布しているが、特に以下の国々に多くの鉱床が存在している:
中国
近年、金の生産量において世界第一位を誇るのが中国である。山東省や河南省などに多くの鉱山があり、地下数百メートルの深部から金が採掘されている。特に熱水性鉱床や石英脈鉱床が多く見られる。
オーストラリア
オーストラリアは巨大な金鉱床を多く保有しており、特に西オーストラリア州の「カリグーリ(Kalgoorlie)」は世界最大級の露天掘り金鉱山である「スーパー・ピット(Super Pit)」が存在する。プレカンブリア紀の古い岩盤に形成された変成帯鉱床が主である。
ロシア
シベリア地方に広がるロシアの金鉱床は、熱水性および砂金型が中心であり、特にアムール地方やクラスノヤルスク地方などに集中している。ロシアは国家主導で金の探査と採掘を強化しており、埋蔵量は今後も拡大が予測されている。
南アフリカ共和国
かつては金生産量で世界一を誇った南アフリカは、「ウィットウォータースランド金鉱床」という地球最大の金鉱床を擁していた。これは30億年以上前の古い地層で、地下3000メートル以上の深さに金が存在している。
アメリカ合衆国
ネバダ州を中心に金鉱山が多数存在し、主に火山活動による熱水性鉱床が形成されている。露天掘りと地下掘りの両方で採掘が行われている。鉱山周辺の都市は金ラッシュの歴史とも関係が深い。
プレイサー鉱床と砂金の存在場所
砂金とは、岩石中にあった金が風化・浸食され、河川や湖沼に運ばれて堆積したものである。砂金は重量が重いため、以下のような場所にたまりやすい。
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河川のカーブの内側
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川底の岩の隙間
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滝の下流や急流が緩やかになる場所
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古い川床(化石川床)
日本国内でも、北海道の十勝川や新潟県の阿賀野川などで砂金が発見されており、江戸時代には「佐渡金山」が代表的な金の供給源であった。
海底金属鉱床と海水中の金
近年注目されているのが、海底鉱床における金の存在である。日本の排他的経済水域内(EEZ)でも、小笠原諸島周辺の海底熱水鉱床から金・銀・銅などが発見されている。これらは熱水噴出孔(ブラックスモーカー)に関連して形成されており、高濃度の金を含む場合がある。
また、理論上は海水1トンあたりに約0.01ミリグラムの金が含まれているとされる。しかしながら、現在の技術ではこれを経済的に回収することは困難である。
金の採掘方法
金の採掘はその埋蔵形態によって方法が異なる。主な採掘方法を以下に示す。
| 採掘方法 | 特徴 |
|---|---|
| 露天掘り | 地表近くに鉱脈がある場合に用いられる。採掘コストが低いが、環境負荷が大きい。 |
| 地下掘り | 深部の鉱脈に適用。コストは高いが、鉱量が多い場合には効率的。 |
| ドレッジ採掘 | 水中や湿地帯における砂金採取に用いられる。浚渫(しゅんせつ)機械を用いる。 |
| 化学処理(シアン化) | 鉱石を粉砕し、シアン化合物で金を溶解させて回収。環境対策が厳しく求められる。 |
| バイオリーチング | 微生物を利用して金を抽出する新しい方法。環境に優しく将来性がある。 |
金の地球内の理論的分布と地殻濃度
地殻における金の平均濃度は約0.004ppm(1トンの岩石中に約4ミリグラム)であるとされる。これは非常に低濃度であり、実際に採掘可能な鉱床(経済鉱床)となるには、1トンあたり1グラム以上の金を含有している必要があるとされる。
地球の核には理論上、膨大な量の金が存在すると考えられており、もし地殻に均等に分布していたならば、地球全体の表面が数メートルの厚さで覆われるほどである。だが、核から金を取り出すことは現代科学では不可能である。
金の希少性と今後の見通し
金の希少性は、限られた地質環境にのみ存在し、採掘コストが高いことに起因する。2025年現在、可採年数(既知の埋蔵量と現在の採掘速度に基づく)はおよそ50年程度と予測されており、新規の鉱床探査とリサイクルが今後の供給を支える鍵となる。
また、宇宙探査の進展により、小惑星(アステロイド)に豊富な金が存在する可能性が指摘されているが、現段階では商業的な採掘には至っていない。
結論
金の存在場所は、地球の地質構造に深く関係しており、特定の地質環境においてのみ経済的に採掘可能な形で集中している。金は人類にとって長い歴史を通じて経済的・文化的価値を持ってきたが、その希少性ゆえに今後も新たな探査技術、再利用技術の進展が求められる。
自然の恩恵としての金を持続可能な方法で利用するためには、環境と調和した鉱業活動が必要不可欠であり、科学的理解に基づいた政策と産業技術の融合が求められている。
参考文献
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金属鉱業事業団「金鉱床とその地質」, 日本地質学会(2020年版)
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USGS Mineral Resources Program「Gold Statistics and Information」, United States Geological Survey
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日本鉱業協会「金の環境と持続可能な採掘に関する報告書」, 2023年
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山口大学地球科学研究科「プレイサー鉱床の成因と分布」研究報告(2021年)
