婦人科と産科

胎児の肺の成熟時期

胎児の肺の発達は、妊娠の最も重要なプロセスの一つであり、新生児が出生後すぐに自力で呼吸を行えるようになるために不可欠である。胎児期における肺の成熟過程は非常に複雑で、多段階にわたって進行する。この過程を理解することは、新生児医療や早産児の管理において極めて重要である。


胎児の肺の発達段階

胎児の肺の発達は大きく5つの段階に分類される。

1. 胚芽期(妊娠3〜7週)

この段階では肺の原基が形成され、気管と気管支の基礎構造が発生する。肺芽は食道から分岐して発達を始め、左右の原始肺に分かれていく。

2. 偽腺期(妊娠7〜17週)

この時期には、気管支の枝分かれが活発に行われ、樹状構造が形成される。末梢気道はまだ未成熟であり、肺胞は存在しない。肺はこの時期にはまだ固く、ガス交換機能を果たすことはできない。

3. 管腔期(妊娠17〜26週)

この段階では、気道がさらに細かく分岐し、将来の呼吸細気管支や肺胞管が形成される。肺の血管もこの頃から発達し始め、ガス交換のための構造的基盤が整ってくる。また、この頃から肺の細胞が界面活性剤(サーファクタント)を分泌し始めるが、量はまだ不十分である。

4. 終末嚢期(妊娠26〜36週)

この時期には、肺胞嚢と呼ばれる初期的な肺胞のような構造が出現し、毛細血管との接触が増加する。これにより、酸素と二酸化炭素のガス交換が理論的には可能になる。サーファクタントの分泌も著しく増加し、肺の機能的成熟が加速する。

5. 肺胞期(妊娠36週以降〜生後8歳まで)

胎児の肺は妊娠36週頃から肺胞期に入り、出生に備えて最終的な成熟を遂げる。成熟した肺胞の形成が本格的に始まり、サーファクタントの分泌も十分に行われる。出生直後に呼吸を開始できるようになるのは、この段階の完了によるものである。ただし、肺胞の数は出生後も増加を続け、生後8歳頃まで成長が続くとされている。


サーファクタントと肺の成熟

肺の成熟において最も重要な因子の一つがサーファクタントである。これは肺胞の内壁を覆う表面活性物質であり、肺胞が潰れるのを防ぎ、呼吸を円滑に行えるようにする働きがある。サーファクタントはII型肺胞上皮細胞(type II pneumocytes)によって分泌され、妊娠24週以降に産生が始まり、32週頃から急増する。

サーファクタントの主要成分であるジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)は、肺表面張力を低下させることで肺胞の安定性を保ち、肺の拡張を容易にする。サーファクタントが不十分な場合、出生直後の呼吸困難や新生児呼吸窮迫症候群(NRDS)を引き起こす可能性がある。


肺の成熟度の臨床的評価

胎児の肺の成熟度を評価するために、母体の羊水を用いた検査が行われることがある。代表的な方法には以下のようなものがある:

  • レシチン/スフィンゴミエリン比(L/S比):2.0以上であれば肺は成熟していると判断される。

  • 泡試験(foam stability test):羊水にアルコールを混ぜて泡の形成を観察し、サーファクタントの存在を推定する。

  • 蛍光偏光法によるサーファクタント濃度の測定:より精度の高い検査として利用されている。


肺の成熟を促進する医療介入

早産が予想される場合、胎児の肺の成熟を人工的に促すために母体に**副腎皮質ステロイド(ベタメタゾンやデキサメタゾン)**が投与されることがある。これにより、II型肺胞細胞の分化が促進され、サーファクタントの産生が早まり、出生後の呼吸機能を改善することが期待される。


肺の完全な成熟時期

肺の構造的な成熟と機能的な成熟がほぼ完成するのは妊娠36週から37週以降である。この時期まで到達していれば、出生時に自力で呼吸する能力を備えていると考えられる。したがって、一般に「肺の成熟が完了するのは妊娠37週頃」とされている。

ただし、厳密には出生後も肺の成長は継続し、肺胞の数は生後3歳頃までに劇的に増加し、その後8歳前後まで微細な成長が続くとされている。成人の肺では約3億個の肺胞が存在すると推定されており、その大部分が出生後に形成される。


早産児と肺の未熟性

妊娠37週未満で出生する早産児では、肺の未熟性により呼吸困難や酸素療法の必要性が生じることがある。特に妊娠32週以前に出生した場合、サーファクタントの不足が著しく、人工呼吸器の使用やサーファクタント補充療法が必要となるケースが多い。

近年では、新生児集中治療(NICU)の発展により、妊娠24週程度の超早産児でも生存できるようになってきているが、呼吸器系合併症のリスクは依然として高い。


結論

胎児の肺の発達は多段階で進行し、完全な成熟は妊娠37週頃に達する。肺の成熟におけるサーファクタントの役割は極めて重要であり、その分泌の開始と増加が出生後の呼吸能力を左右する。肺の成熟状態は臨床的に評価することが可能であり、必要に応じて医療的介入が行われる。出生後も肺の発達は継続し、特に肺胞の数は乳児期から児童期にかけて増加し続ける。

このように、肺の成熟は単に出生時の問題にとどまらず、生涯の呼吸機能や健康にも大きな影響を及ぼす可能性があるため、医学的・科学的な理解が非常に重要である。


参考文献

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