ビタミンとミネラルの摂取源

ビタミンB12の供給源

ビタミンB12は、生命活動を維持するために極めて重要な水溶性ビタミンであり、特に神経系や血液の健康に関与する成分として知られている。化学名を「コバラミン」とも呼ばれ、ヒトの体内では自然に合成されないため、外部からの摂取が必須である。このビタミンは、DNA合成、赤血球の形成、神経の保護、エネルギー産生といった多くの代謝過程に関与している。


ビタミンB12の供給源:どこにあるのか?

ビタミンB12は主に動物性食品に豊富に含まれている。植物には基本的に含まれておらず、完全菜食主義者(ヴィーガン)にとっては特に注意が必要な栄養素である。

1. 動物性食品の供給源

以下に、ビタミンB12を多く含む代表的な動物性食品を表にまとめる。

食品 100gあたりのビタミンB12含有量(µg) 特徴
牛レバー 約70–80 µg 最も豊富な供給源の一つ
豚レバー 約25 µg 牛よりは劣るが依然として豊富
貝類(しじみ、あさり、ホタテ) 約20–60 µg 海産物の中でも特に高含有
サバ 約12 µg 日常的に摂取しやすい魚
イワシ 約8 µg 缶詰でもB12は安定している
卵(特に黄身) 約1.1 µg 肉を食べない人にも有効
チーズ 約1.5–3 µg 加工方法によって差がある
牛乳 約0.4 µg 飲料として摂取しやすい

2. 強化食品

完全菜食主義者が頼れる供給源の一つに「ビタミンB12強化食品」がある。これは、人工的にB12を添加した食品である。

  • 強化シリアル

  • 植物性ミルク(豆乳、アーモンドミルクなど)※強化表示を確認

  • 強化酵母(ニュートリショナルイースト)

  • ビタミンB12サプリメントや経口スプレー


ビタミンB12の吸収メカニズム

ビタミンB12は単に食事から摂取するだけでは効果的に機能しない。その吸収は複雑で、いくつかの生理学的ステップを踏む必要がある。

  1. 胃内での解放

     胃酸とペプシンにより、食品中のたんぱく質に結合したB12が分離される。

  2. 内因子との結合

     胃の壁細胞から分泌される「内因子(intrinsic factor)」という糖たんぱく質と結合することで、小腸での吸収が可能になる。

  3. 回腸での吸収

     内因子と結合したB12は回腸で吸収され、血液中へ移行する。

このため、胃を切除した人や、胃酸の分泌が少ない高齢者、自己免疫性胃炎のある人などは、食物からの吸収が著しく低下する。


欠乏症とその症状

ビタミンB12が不足すると、身体にさまざまな悪影響が出る。特に神経系と血液に関する症状が顕著である。

主な欠乏症状:

  • 巨赤芽球性貧血(特にビタミンB9である葉酸と同時に不足した場合)

  • 手足のしびれや感覚異常(末梢神経障害)

  • 舌の腫れや炎症(舌炎)

  • 集中力低下、記憶障害

  • 抑うつやイライラ

  • 疲労感、動悸、息切れ

  • 歩行困難やバランス感覚の異常(脊髄変性)

高齢者や胃腸手術を受けた人、完全菜食主義者、慢性胃炎のある人は、特に注意が必要である。ビタミンB12の欠乏は進行すると不可逆的な神経損傷を引き起こす可能性がある。


欠乏のリスクが高い人

人群 欠乏のリスク要因
高齢者 胃酸の分泌低下、吸収機能の衰え
胃の切除やバイパス手術を受けた人 内因子の欠如
完全菜食主義者(ヴィーガン) 食事からの摂取が困難
アルコール依存症の人 胃腸粘膜の損傷と吸収障害
胃酸分泌抑制薬(PPI)を長期使用している人 胃酸の減少による解離不全
潰瘍性大腸炎やクローン病などの消化器疾患患者 小腸での吸収障害

検査と診断

血液検査により、血清ビタミンB12濃度を測定することで診断が可能である。基準値はおおよそ以下の通りである:

  • 正常値:200–900 pg/mL

  • 軽度欠乏の可能性:150–200 pg/mL

  • 明確な欠乏:150 pg/mL未満

必要に応じてホモシステイン濃度やメチルマロン酸(MMA)濃度の測定を併用することで、より正確な診断が可能となる。


治療と予防

1. 食事療法

軽度の欠乏であれば、動物性食品や強化食品を意識的に摂取することで改善が見込まれる。

2. サプリメント

  • 経口サプリメント(シアノコバラミン、メチルコバラミン)

  • 舌下タブレットやスプレー

  • 静注・筋肉注射(重度の欠乏や吸収障害がある場合)

3. 予防戦略

  • ヴィーガンの人は定期的なサプリメントの摂取が必須

  • 高齢者や胃腸に問題がある人は定期的な検査を推奨


ビタミンB12と疾患の関係

ビタミンB12は他の疾患とも密接に関係している。

1. アルツハイマー病との関連

一部の研究では、ビタミンB12の不足が認知機能の低下やアルツハイマー病の進行と関係があると示唆されている。

2. 心血管疾患

B12の不足によりホモシステインの代謝が障害され、その濃度が上昇すると動脈硬化のリスクが高まる。

3. 妊娠と胎児の発育

妊娠中にB12が不足すると、胎児の神経管閉鎖障害や成長障害のリスクがあるため、葉酸とともに摂取が推奨される。


結論

ビタミンB12は体にとって欠かせない微量栄養素であり、不足すると深刻な健康障害を引き起こす可能性がある。特にヴィーガン、胃の手術を受けた人、高齢者、消化器疾患患者は注意が必要である。動物性食品に多く含まれているが、現代では強化食品やサプリメントによっても十分に補うことができる。定期的な健康診断と食生活の見直しによって、ビタミンB12の適正な維持が可能であり、健康寿命を延ばす鍵となる栄養素の一つである。


参考文献

  1. National Institutes of Health. Office of Dietary Supplements. Vitamin B12 Fact Sheet.

  2. 日本人の食事摂取基準(2020年版)厚生労働省

  3. O’Leary F, Samman S. “Vitamin B12 in health and disease.” Nutrients. 2010.

  4. 日本ビタミン学会誌

  5. 日本臨床栄養学会雑誌


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