猫引っかき病（Cat Scratch Disease）は、猫に引っかかれたことが原因で発症する細菌性の感染症です。この病気は、特に子猫や野良猫との接触において発症しやすいとされています。猫引っかき病は、通常は軽度の症状で済むことが多いですが、稀に重篤な症状を引き起こすこともあります。本記事では、猫引っかき病の原因、症状、診断方法、治療法、予防策などについて詳しく解説します。
猫引っかき病の原因
猫引っかき病の主な原因となる細菌は、バルトネラ・ヘンセラ（Bartonella henselae）という細菌です。この細菌は、猫の唾液や爪に存在しており、猫が自分の爪を使って皮膚を引っかいたり、噛んだりすることで感染が広がります。また、猫が自分で引っかいた部分をなめることで、細菌が爪に移動し、感染を引き起こす可能性もあります。
感染が人間に伝播するのは、猫に引っかかれた後に傷口からバルトネラ・ヘンセラが侵入することによります。猫が引っかいた部分が汚れていると、感染のリスクが高まります。特に子猫は、バルトネラ・ヘンセラの感染源となりやすいです。
猫引っかき病の症状
猫引っかき病の症状は、通常は数日から数週間の潜伏期間を経て現れます。症状は軽度から重度までさまざまで、感染者によって異なります。代表的な症状には以下のものがあります。
1. 皮膚の腫れと赤み
猫に引っかかれた部位が腫れ、赤くなることがあります。これは細菌が傷口から侵入し、局所的な炎症を引き起こすためです。通常、傷口周辺のリンパ節が腫れることが特徴的です。
2. リンパ節の腫れ
猫引っかき病の最も特徴的な症状は、引っかかれた部位に近いリンパ節が腫れることです。リンパ節の腫れは痛みを伴うことがあり、しばしば発熱とともに現れます。最も腫れやすいリンパ節は、腕や首の近くに位置するものです。
3. 発熱と全身の倦怠感
感染が進行すると、発熱や体のだるさ（倦怠感）が現れることがあります。発熱は、免疫系が細菌と戦うために起こる自然な反応です。
4. 頭痛や筋肉痛
一部の患者では、頭痛や筋肉痛が伴うことがあります。これらの症状は、体全体が細菌に対する免疫反応を示している証拠です。
5. 重症化した場合の症状
猫引っかき病が重症化すると、肝臓や脾臓の腫れ、心臓の炎症（心内膜炎）、神経系への影響（神経症状）などが現れることがあります。これらはまれですが、免疫力が低下している人や乳幼児、高齢者においては重症化するリスクが高まります。
診断方法
猫引っかき病の診断は、主に患者の症状と病歴に基づいて行われます。医師は、患者が猫に引っかかれたことがあるかどうか、またその後にどのような症状が現れたかを確認します。また、以下の検査が行われることがあります。
1. 血液検査
血液検査により、バルトネラ・ヘンセラに対する抗体が存在するかどうかを調べることができます。抗体が確認されれば、過去に感染したことがあることが示唆されます。
2. PCR検査
PCR（ポリメラーゼ連鎖反応）検査により、血液やリンパ液中に存在するバルトネラ・ヘンセラのDNAを直接検出することができます。これは猫引っかき病の確定診断に有用です。
3. リンパ節の細菌培養
リンパ節に感染がある場合、リンパ節の内容物を採取して細菌を培養することがあります。これにより、バルトネラ・ヘンセラが確認されれば診断が確定します。
治療方法
猫引っかき病の多くの症例は軽症であり、特別な治療が必要ないことが多いです。しかし、症状が重い場合や合併症を引き起こしている場合、以下の治療が行われることがあります。
1. 抗生物質
バルトネラ・ヘンセラに対する特効薬はありませんが、抗生物質（アジスロマイシンやドキシサイクリンなど）が症状の軽減に役立つことがあります。抗生物質は、細菌の増殖を抑えることで症状の改善を促進します。
2. 症状の緩和
発熱や痛みがある場合、解熱鎮痛剤（アセトアミノフェンやイブプロフェンなど）が処方されることがあります。また、リンパ節の腫れや痛みがひどい場合には、局所的な治療や冷却が行われることもあります。
3. 入院治療
重症の場合、入院が必要となることがあります。特に、免疫力が低下している人や、高齢者、乳幼児の場合、入院して点滴で抗生物質を投与することがあります。
予防方法
猫引っかき病の予防は、主に猫との接触を管理することにあります。以下の予防策を実践することが重要です。
1. 猫との接触を管理する
猫と接触する際は、特に子猫や野良猫と触れる場合には注意が必要です。猫に引っかかれた場合は、傷口をすぐに石鹸と水で洗い、消毒することが重要です。
2. 爪を定期的に切る
猫の爪を定期的に切ることで、引っかき傷を避けることができます。爪を短く保つことは、猫引っかき病の予防に役立ちます。
3. 猫の健康管理
猫に定期的に獣医の診察を受けさせ、寄生虫や感染症を防ぐことも、猫引っかき病を予防する一環です。また、野良猫や外に出る猫と接触しないようにしましょう。
4. 猫の唾液に触れない
猫が顔や手を舐めることがありますが、唾液に含まれるバルトネラ・ヘンセラが感染源となることがあります。猫が舐めた手や顔に触れた場合は、すぐに手を洗うことが大切です。
まとめ
猫引っかき病は、猫に引っかかれることで発症する細菌性の感染症です。バルトネラ・ヘンセラという細菌が原因で、発症する症状は通常は軽度ですが、重症化することもあります。感染を防ぐためには、猫との接触を管理し、爪を定期的に切り、傷口を清潔に保つことが重要です。感染が確認された場合、適切な治療を受けることが必要です。特に免疫力が低い人にとっては、猫引っかき病が重篤化する可能性があるため、予防策を徹底することが大切です。