地中海熱(ハマ・アル-バハール)とは?
地中海熱(ハマ・アル-バハール、または地中海熱症候群)は、遺伝性の自己免疫疾患であり、主に地中海沿岸地域の民族に見られます。特に、アラブ人、ユダヤ人、アルメニア人、トルコ人、イタリア人などの集団で多く発生します。この病気は、周期的に発熱を伴う急性の炎症発作を引き起こし、最も顕著な症状は高熱です。地中海熱は通常、急性の発作を繰り返し、放置すると慢性疾患や合併症を引き起こす可能性があります。
地中海熱の原因と病理
地中海熱の原因は、遺伝的な変異にあります。この疾患は、MEFV遺伝子の変異によって引き起こされます。MEFV遺伝子は、「ファミリアル・メディテラニアン・フィーバー」(FMF)とも呼ばれる疾患を引き起こす遺伝子です。この遺伝子変異により、体内の免疫系が異常に反応し、周期的な炎症反応を引き起こします。炎症は特に関節、腹部、胸部に影響を与え、発作的に発症します。

遺伝的要因と伝達
地中海熱は常染色体劣性遺伝疾患です。つまり、両親から1つずつ遺伝子変異を受け継いだ場合に発症します。両親が1つずつ変異遺伝子を持っている場合、その子供には地中海熱が発症する可能性があります。
地中海熱の症状
地中海熱の主な症状は、周期的に現れる高熱です。これらの発作は、通常2日から4日間続き、その後は数週間から数ヶ月間症状が落ち着きます。典型的な症状として以下のものが挙げられます:
1. 高熱
地中海熱の最も顕著な症状は、高熱です。発作が始まると急激に体温が上昇し、39度から40度の高熱が続きます。この熱は数日間続き、解熱後は一時的に症状が落ち着きますが、また次の発作が現れることがあります。
2. 腹痛
腹部に強い痛みを伴うことが多く、これは特に発作中に顕著です。腹痛はしばしばお腹の下部や腹膜に関連し、激しい痙攣を引き起こすことがあります。痛みの原因は、腹膜の炎症や腸の炎症によるものです。
3. 胸痛と呼吸器症状
地中海熱は胸部にも影響を与えることがあります。胸痛や呼吸困難、胸膜炎が起こることがあります。胸膜(肺を覆う膜)の炎症によって、呼吸がしにくくなることもあります。
4. 関節の炎症
関節に炎症を引き起こし、関節痛が発生することもあります。特に膝、足首、肘などの大きな関節に痛みが現れることが一般的です。炎症は急性の発作とともに起こり、その後回復しますが、繰り返し炎症が起こることがあります。
5. 皮膚症状
地中海熱の発作中には、皮膚に発疹が現れることもあります。発疹は通常、赤みを帯びた斑点やブツブツとして現れ、発熱とともに現れることが多いです。
6. その他の症状
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頭痛
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悪寒や体のだるさ
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嘔吐や下痢(特に腹痛がひどい場合)
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精神的な疲労感やうつ状態
地中海熱の診断
地中海熱の診断は、主に臨床的な症状と家族歴に基づいて行われます。また、遺伝子検査を行うことで、MEFV遺伝子の変異を確認することができます。この遺伝子変異が確認されると、地中海熱の診断が確定します。
診断における重要な検査項目
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遺伝子検査(MEFV遺伝子検査)
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MEFV遺伝子の変異を調べることで、疾患の確定診断ができます。
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炎症マーカー
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発作中には炎症マーカー(C反応性タンパク質(CRP)や赤血球沈降速度(ESR))が上昇することがあります。
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臨床的評価
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高熱や腹痛、関節炎などの症状が繰り返し現れることが診断の参考になります。
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地中海熱の治療法
現在、地中海熱を完治させる方法はありませんが、発作を管理するためにいくつかの治療法があります。治療は主に抗炎症薬と免疫抑制薬によって行われます。
1. コルヒチン(Colchicine)
コルヒチンは地中海熱の最も一般的な治療薬であり、発作の頻度を減少させ、炎症を抑える作用があります。コルヒチンを適切に服用することで、発作の回数を減らし、症状の軽減が期待できます。また、長期的に使用することで、合併症の予防にもつながります。
2. 非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)
発作中の炎症や痛みを軽減するために、NSAIDs(イブプロフェンやアスピリンなど)が処方されることがあります。ただし、これらの薬は症状の管理に使用されるため、根本的な治療ではありません。
3. ステロイド
発作が非常に重篤な場合やコルヒチンが効果を示さない場合、ステロイド薬(プレドニゾロンなど)が使用されることがあります。しかし、ステロイドは副作用のリスクがあるため、慎重に使用されます。
4. 血液透析
非常にまれではありますが、腎臓に深刻な障害が生じた場合には、血液透析が必要になることがあります。
地中海熱の予後
地中海熱の予後は、発作の頻度や重症度によって異なります。コルヒチンを適切に使用することで、発作の回数を減少させることができ、患者さんの生活の質も改善されます。ただし、治療をしない場合や不適切に治療を行うと、慢性の合併症(例えば、アミロイド症)を引き起こす可能性があり、これが患者さんの予後に悪影響を与えることがあります。
結論
地中海熱は遺伝的に発症する自己免疫疾患であり、主に発作的な高熱や腹痛、関節炎を引き起こします。遺伝子検査によって確定診断が行われ、コルヒチンなどの治療薬によって発作の管理が可能です。適切な治療により、発作の頻度を減少させ、生活の質を向上させることができます。