医療分析

リウマチ検査の完全ガイド

関節リウマチや全身性エリテマトーデス(SLE)などの自己免疫性疾患を含む「リウマチ性疾患」は、多くの人々に慢性的な痛みや機能障害を引き起こす深刻な健康問題である。これらの疾患の診断と経過観察において、血液検査を含む各種の「リウマチ関連検査」は極めて重要な役割を果たす。本稿では、臨床的に最も重要とされるリウマチ関連検査について、医学的根拠に基づき包括的かつ詳細に解説する。


リウマチ関連検査の分類と意義

リウマチの診断に使用される血液検査は、主に以下の4つの目的に分類される:

  1. 炎症反応の評価

  2. 自己抗体の検出

  3. 臓器機能の評価

  4. 疾患の活動性や治療反応のモニタリング

それぞれの項目について、代表的な検査を以下に詳述する。


1. 炎症反応の評価に関する主要検査

C反応性蛋白(CRP)

  • 概要:CRPは肝臓で産生される急性期反応蛋白で、体内で炎症や組織障害があるときに上昇する。

  • 意義:関節リウマチなどの疾患活動性を反映し、疾患の急性期か慢性期かを判別する指標となる。

  • 正常値:0.3 mg/dL以下が一般的。

  • 備考:CRPは非特異的であり、感染症や悪性腫瘍でも上昇するため、他の指標と併用が重要。

赤沈(赤血球沈降速度、ESR)

  • 概要:赤血球が血漿中に沈降する速度を測定する。

  • 意義:慢性炎症の指標として使用され、CRPよりも変化が緩やかであるが、長期的な炎症の評価に有用。

  • 正常値

    • 男性:0~10 mm/h

    • 女性:0~20 mm/h

  • 備考:年齢や性別によって正常範囲が異なる点に留意が必要。


2. 自己抗体の検出

自己免疫疾患の診断において最も重要なカテゴリである。疾患特異的な抗体がいくつか知られており、それぞれの疾患に特徴的な自己抗体が存在する。

リウマトイド因子(RF)

  • 概要:免疫グロブリンIgM型で、自己のIgGに対する抗体。

  • 意義:関節リウマチの約70~80%の症例で陽性となる。

  • 正常値:20 IU/mL以下

  • 備考:他の疾患や高齢者でも陽性となることがあり、診断的特異度は低い。

抗CCP抗体(抗環状シトルリン化ペプチド抗体)

  • 概要:自己のたんぱく質がシトルリン化(アミノ酸変化)されたものに対する抗体。

  • 意義:関節リウマチに極めて特異的で、診断感度・特異度ともに高い。

  • 正常値:参考範囲は検査機関によるが、通常20 U/mL未満。

  • 備考:発症前から陽性となる場合があり、早期診断に有効。

抗核抗体(ANA)

  • 概要:細胞核内の構造に対する抗体。

  • 意義:全身性エリテマトーデス(SLE)、強皮症、シェーグレン症候群などの診断に用いられる。

  • 正常値:1:40未満(希釈倍数)

  • 備考:スクリーニング検査であり、陽性であれば抗DNA抗体や抗Sm抗体などの精査が必要。

抗DNA抗体(抗二本鎖DNA抗体)

  • 意義:SLEに特異的で、疾患活動性とも相関がある。

  • 正常値:0~6 IU/mL(検査法によって異なる)

  • 備考:疾患の再燃や腎炎の発症時に上昇しやすい。

抗Sm抗体

  • 意義:SLEに極めて特異的(ただし感度は低い)。

  • 備考:他の膠原病ではほとんど見られないため、診断上の決め手となることがある。


3. 臓器機能の評価

リウマチ性疾患は関節だけでなく、腎臓、肝臓、肺などの多臓器に影響を及ぼすことがある。よって、以下のような検査も重要となる。

検査項目 評価対象 疾患との関連例
クレアチニン 腎機能 SLEによるループス腎炎など
尿蛋白・尿沈渣 腎障害の有無 SLE、血管炎
AST・ALT 肝機能 薬剤性肝障害、自己免疫性肝炎
LDH 細胞傷害の指標 多発筋炎、SLEなど
CK(クレアチンキナーゼ) 筋障害 多発性筋炎、皮膚筋炎など

4. 補体価(C3, C4)

  • 概要:免疫反応に関与するタンパク質群で、自己免疫疾患では消費されて低下することがある。

  • 意義:SLEの活動性指標として重要。

  • 正常値

    • C3:80~160 mg/dL

    • C4:16~45 mg/dL

  • 備考:SLEの再燃時に低下し、寛解時には回復する傾向がある。


5. HLAタイピング

  • 概要:ヒト白血球抗原の遺伝的型を調べる検査。

  • 意義:疾患感受性の評価に用いられる。

  • 代表例

    • HLA-B27:強直性脊椎炎と強く関連。

    • HLA-DR4:関節リウマチとの関連が報告されている。


6. 関節液検査

  • 意義:関節滑液を採取し、白血球数、結晶、細菌培養などを行うことで、関節リウマチと感染性関節炎や痛風などの鑑別に有用。

  • 所見

    • 炎症性滑液:白血球数5000以上、粘稠性低下

    • 痛風:尿酸結晶の確認


臨床での活用例

関節リウマチが疑われる患者では、まずRFと抗CCP抗体、CRPやESRを測定することが一般的である。これらのデータに基づき、分類基準(2010年ACR/EULAR基準)に照らして診断が行われる。診断後は、CRPやESRの定期的測定によって、治療効果のモニタリングが行われる。

SLEではANAが陽性であれば、抗DNA抗体、補体価(C3, C4)、尿検査を組み合わせて臓器障害の有無や疾患活動性を評価する。


総合的な見解

リウマチ関連疾患の診断には、複数の血液検査や画像検査、臨床症状の総合的な評価が求められる。特に血液検査においては、自己抗体の有無と炎症マーカーの両方を組み合わせることで、より正確な診断と予後予測が可能となる。疾患特異的なマーカーだけでなく、全身の状態を反映する検査も忘れてはならない。正確な診断と早期治療のために、これらの検査を適切に活用することが、患者の生活の質の改善と長期予後に直結するのである。


主な参考文献:

  1. 日本リウマチ学会. 「関節リウマチ診療ガイドライン2020」

  2. 日本臨床検査医学会雑誌.「自己抗体の検査と意義」Vol.68, No.2.

  3. Firestein GS, Budd RC, Gabriel SE, et al. Kelley’s Textbook of Rheumatology. 10th ed.

  4. Hochberg MC et al. “The ACR criteria for the classification of systemic lupus erythematosus.” Arthritis & Rheumatism. 1997.

リウマチ性疾患を見逃さず、適切に対処するためには、上記の検査知識を医師だけでなく一般の人々も理解しておく意義は大きい。健康は行動と知識によって支えられるものである。

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