各国の経済と政治

赤身肉 消費国ランキング

世界における肉類の消費量は、経済発展、文化、宗教、食習慣、農業政策など多様な要因によって異なる。特に赤身肉(牛肉、羊肉、豚肉など)は、たんぱく質源として世界中で広く消費されているが、その消費量には国ごとの差が顕著である。本稿では、最新の国際的統計をもとに世界で最も赤身肉を消費している上位10か国を取り上げ、それぞれの背景や特徴について科学的かつ社会経済的な視点から詳しく考察する。


赤身肉とは何か?

まず、「赤身肉(レッドミート)」の定義を明確にする必要がある。世界保健機関(WHO)および国際がん研究機関(IARC)では、赤身肉を以下のように定義している。

赤身肉とは、哺乳類の筋肉肉(牛、豚、羊、馬、山羊など)を指し、加工の有無を問わない。

白身肉(鶏肉、七面鳥、魚肉など)とは異なり、赤身肉はヘム鉄を多く含むため色が濃く、栄養価も高いが、過剰摂取は健康リスク(心血管疾患、特定のがんなど)とも関連しているとされる。


赤身肉の消費量:計測方法とデータの信頼性

本稿で使用する赤身肉の消費量データは、以下の機関の統計をもとにしている。

  • 国際連合食糧農業機関(FAO)

  • 経済協力開発機構(OECD)

  • 米国農務省(USDA)

  • 各国政府の統計庁(例:オーストラリア農業水資源省)

消費量の単位は、1人あたり年間の消費量(キログラム)で表示される。これは人口規模の影響を受けずに、国民の平均的な食習慣を比較するために最も適した指標である。


世界の赤身肉消費量ランキング(1人あたり、年間換算)

以下の表に、世界で最も赤身肉を消費している上位10か国を示す(2023年時点の最新データに基づく)。

順位 国名 年間消費量(kg/人) 主な消費される赤身肉の種類
1 アメリカ合衆国 99.2 牛肉、豚肉
2 オーストラリア 94.8 牛肉、羊肉
3 アルゼンチン 90.1 牛肉
4 ブラジル 88.5 牛肉
5 カナダ 82.6 牛肉、豚肉
6 イスラエル 77.3 牛肉、羊肉、豚肉(限定的)
7 ニュージーランド 76.4 羊肉、牛肉
8 スペイン 72.1 豚肉、牛肉
9 フランス 68.9 牛肉、豚肉
10 ドイツ 67.5 豚肉、牛肉

各国の赤身肉消費の背景分析

アメリカ合衆国

アメリカは世界最大の赤身肉消費国であり、特に牛肉と豚肉の消費が圧倒的である。これは以下の理由による:

  • 巨大な畜産産業(特にテキサス州やネブラスカ州)

  • バーベキューやハンバーガーなど、肉中心の食文化

  • 消費者の購買力の高さと食材の安価さ

一方で、心血管疾患の罹患率の高さも懸念され、赤身肉の過剰摂取に対する健康啓発が進んでいる。


オーストラリア

オーストラリアは一人当たりの羊肉消費量が世界で最も多い国であり、牛肉も非常に一般的である。広大な牧草地と家畜飼育の技術に支えられた肉食文化が根付いており、輸出産業としても成長している。


アルゼンチン

アルゼンチンの国民1人あたりの牛肉消費量は世界一ともいわれるほどであり、「アサード(炭火焼肉)」は国民的食文化の象徴である。畜産業が経済の中核を成しており、安価で質の高い牛肉が国内で手に入る。


ブラジル

ブラジルもまた、アルゼンチン同様に牛肉生産大国であり、国内消費も活発である。特に「シュラスコ」と呼ばれるグリル料理が家庭でも広く親しまれている。


カナダ

カナダは豚肉と牛肉の両方をバランスよく消費する国であり、冷涼な気候と広大な牧草地が畜産に適している。移民が多く、多様な料理スタイルの中で肉類の消費が増加している。


イスラエル

イスラエルは宗教的制限(ユダヤ教の戒律)によって豚肉の消費が限定的であるにもかかわらず、牛肉や羊肉の消費が高いことが特徴である。カシュルート(食物規定)に適合した赤身肉の需要が高く、価格は高めである。


ニュージーランド

ニュージーランドは羊肉の輸出国として知られており、国内でも消費が多い。人口あたりの家畜頭数が非常に多く、赤身肉の調達が容易である。


スペイン・フランス・ドイツ

これらヨーロッパの国々では、豚肉と牛肉が主に消費されている。特にスペインではハモン(熟成豚肉)や牛肉のグリル料理が一般的であり、フランスではソーセージやパテなどの加工赤身肉も多く消費される。ドイツもまた、ビールとともに肉料理を楽しむ文化が根付いている。


赤身肉の健康と環境への影響

近年、赤身肉の消費量増加に伴い、健康リスクや環境問題も懸念されている。

健康への影響

研究によると、赤身肉、特に加工赤身肉(ソーセージ、ベーコンなど)の過剰摂取は、以下の疾患との関連が報告されている。

  • 心血管疾患

  • 2型糖尿病

  • 結腸直腸がん

  • 高血圧

そのため、赤身肉の摂取は1日70g以下が望ましいとする勧告もある(英国国民保健サービスなど)。

環境への影響

赤身肉の生産は、以下の点で環境負荷が高い:

  • 牛はメタンガスを多く排出し、温暖化に寄与

  • 飼料栽培に必要な大量の水と土地

  • 森林伐採と土壌侵食

特にブラジルのアマゾン森林伐採は、牛の放牧地拡大によるものが主因とされており、国際社会から批判を受けている。


結論と展望

赤身肉の消費は、国民の生活水準や文化と密接に関係しており、経済的な豊かさと直結する側面もある。しかしながら、持続可能性と健康という視点から見れば、赤身肉の過剰摂取は見直しの必要がある。

近年では、以下のような動きが進んでいる。

  • 代替肉(植物由来プロテイン)の市場拡大

  • 赤身肉の「質」を重視した消費へのシフト

  • 環境ラベル付きの肉製品の導入

  • メディアや教育を通じた食育の強化

赤身肉は、適切な量で、栄養バランスを考慮して摂取することで、健康と地球の両方を守ることが可能である。肉食文化が根強いこれらの国々でも、消費の質や環境配慮のあり方が、今後の重要なテーマとなるだろう。


参考文献

  • Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). “Meat Consumption Statistics.”

  • OECD-FAO Agricultural Outlook 2023-2032.

  • World Health Organization (WHO), “Q&A on the carcinogenicity of the consumption of red meat and processed meat.”

  • United States Department of Agriculture (USDA), “Global Agricultural Information Network Reports.”

  • The Lancet, “Health effects of dietary risks in 195 countries, 1990–2017: a systematic analysis.”

赤身肉の消費に関する理解を深めることは、健康と環境の未来を守る第一歩である。

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