肝機能検査の重要な指標の一つであるALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、肝臓の健康状態を評価するために広く用いられています。この酵素は肝細胞内に存在し、肝細胞が損傷を受けると血液中に放出されるため、ALTの値は肝臓の異常を示唆する重要な指標となります。この記事では、ALTの役割、測定方法、基準値、異常値が示す病状、そして異常値に対する対応策について包括的に解説します。
ALTとは
ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、肝臓をはじめとするいくつかの臓器に存在する酵素で、アラニンというアミノ酸をケトグルタル酸に変換する反応を触媒します。この反応は、エネルギーを生成するために重要な役割を果たしており、特に肝臓で盛んに行われています。ALTは通常、肝臓内の細胞で多く見られ、正常な状態では血液中のALT濃度は非常に低いです。しかし、肝細胞が損傷を受けると、ALTが血液中に漏れ出し、その濃度が上昇します。

ALTの測定方法
ALTの測定は、通常、血液検査を通じて行われます。この検査では、血液中のALT濃度を測定し、その結果をもとに肝機能の評価が行われます。ALTの基準値は、検査を実施する施設や使用する測定機器によって若干異なりますが、一般的には以下のような範囲が標準とされています。
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男性:10〜40 U/L(単位:単位/リットル)
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女性:7〜35 U/L
基準値を超える場合、肝臓に何らかの異常がある可能性があります。ALTの値は単独で肝臓の健康状態を判断するものではなく、他の肝機能検査(AST、ALP、ビリルビンなど)と合わせて総合的に評価することが重要です。
ALTの異常値が示す病状
ALTの値が基準値を超える場合、いくつかの病状が考えられます。ALT値の上昇は、肝細胞の損傷や炎症を反映しており、以下のような疾患が考えられます。
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急性肝炎
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肝炎ウイルス(A型、B型、C型など)による感染が原因で肝細胞が損傷し、ALT値が急激に上昇します。特に急性肝炎ではALTが非常に高い値を示すことがあります。
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慢性肝炎
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慢性肝炎では、長期間にわたり肝臓に炎症が続き、ALT値が慢性的に高い状態が続くことがあります。B型やC型肝炎ウイルスが原因となることが多いです。
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アルコール性肝障害
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長期間にわたるアルコールの過剰摂取が肝臓に負担をかけ、ALT値の上昇を引き起こすことがあります。アルコール性肝障害は、肝脂肪症や肝硬変などを引き起こす可能性もあります。
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脂肪肝(非アルコール性脂肪肝疾患)
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肥満や糖尿病などが原因で脂肪が肝臓に蓄積し、肝細胞がダメージを受けることでALTが上昇することがあります。脂肪肝が進行すると、肝炎や肝硬変に進展するリスクがあります。
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肝硬変
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肝硬変は、肝臓の繊維化が進行し、肝機能が低下する病態です。肝硬変が進行すると、ALT値は必ずしも高くならないこともありますが、初期の段階ではALTの上昇が見られることがあります。
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薬物性肝障害
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一部の薬物(例:アセトアミノフェン、抗生物質、抗うつ薬など)が肝臓に毒性を及ぼし、ALTを上昇させることがあります。薬剤による肝障害は、薬物の中止によって改善することが多いですが、重篤な場合は肝不全に至ることもあります。
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肝臓の腫瘍
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肝臓に腫瘍(良性または悪性)ができると、肝細胞が損傷を受けALTが上昇することがあります。特に肝臓がん(肝細胞癌)では、ALTやASTの値が高くなることがあります。
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ALTの異常値への対応策
ALTの値が異常を示す場合、まずはその原因を特定することが重要です。診断には、追加の検査や画像診断が必要となることがあります。以下は、ALTの異常値に対する一般的な対応策です。
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原因の特定
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血液検査に加え、肝炎ウイルスの検査(HBV、HCVなど)、肝臓の超音波検査やCTスキャン、さらには肝生検が行われることがあります。これにより、異常の原因を特定し、最適な治療方法を決定します。
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生活習慣の改善
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健康的な食事、適度な運動、禁酒などの生活習慣の改善が、ALT値の正常化に効果的です。特に脂肪肝やアルコール性肝障害の場合、生活習慣の見直しが重要です。
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薬物の見直し
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薬剤による肝障害が疑われる場合、薬物の使用を中止することが必要です。医師と相談し、代替薬を検討することが推奨されます。
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抗ウイルス療法
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B型肝炎やC型肝炎など、ウイルス感染が原因である場合、抗ウイルス療法を受けることがあります。これにより、ウイルスの抑制が可能となり、肝機能が改善することが期待されます。
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肝臓の専門医による治療
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ALTが著しく高い場合や肝機能が著しく低下している場合は、肝臓の専門医による治療が必要となることがあります。進行した肝硬変や肝臓がんの場合は、肝移植が検討されることもあります。
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まとめ
ALTは肝臓の健康状態を示す重要な指標の一つであり、その異常値は肝臓に何らかの異常があることを示唆しています。ALTの測定結果を基に、肝炎や脂肪肝、アルコール性肝障害、薬物性肝障害などさまざまな疾患の可能性が考えられます。異常値が検出された場合は、早期に原因を特定し、適切な治療を受けることが肝臓の健康を守るために重要です。