性的な健康

C型肝炎の感染経路

肝炎ウイルスC(HCV)は、主に血液を介して感染するウイルスであり、世界中で数百万人がこのウイルスに感染しています。HCV感染症はしばしば慢性化し、放置すると肝硬変や肝臓がんなどの重篤な肝疾患へと進行する可能性があります。本稿では、肝炎ウイルスCの感染経路について、科学的根拠に基づいて詳細に解説し、また誤解を招きやすい情報にも言及します。


血液を介した感染:最も主要な経路

肝炎ウイルスCの主な感染経路は、ウイルスを含んだ血液との接触です。以下にその具体的な場面を挙げます。

1. 汚染された注射器・針の使用

薬物乱用者の間で共通の注射器を使用することは、HCV感染の最大のリスク因子とされています。注射器や針が感染者の血液で汚染されている場合、他者が同じ器具を使用することで、ウイルスが体内に侵入します。このような注射器の共有は、1回の使用でも感染する可能性があります。

2. 医療現場における感染

過去には、滅菌が不十分な医療器具の再使用輸血用血液の検査が行われていなかったことなどにより、多くの感染が報告されました。現在では、日本を含む多くの国で、献血された血液はHCV抗体およびHCV RNAの検査が行われており、安全性は大幅に向上しています。

しかし、医療従事者がHCV感染者の血液に針刺し事故などで曝露した場合、感染のリスクが存在します。このような事故は「職業曝露」として知られており、厳格な感染予防対策が求められます。

3. タトゥーやピアスの器具による感染

衛生管理が不十分な場所でのタトゥーやピアス施術も感染リスクとなります。器具の消毒が不十分であったり、使い捨て器具を使用していない場合、前の客の血液が残っていればHCVが皮膚を通じて体内に侵入する恐れがあります。


性的接触による感染:可能性は低いがゼロではない

HCVは、HIVやB型肝炎ウイルスと比べると、性行為による感染リスクは比較的低いとされています。ただし、以下の条件下では感染の可能性が高まります。

  • 血液を伴う激しい性交渉

  • 多数の性的パートナーがいる場合

  • 性感染症を併発している場合(特に潰瘍などがある場合)

  • HIV感染者との性交渉

これらの状況では、性行為中に生じる微細な傷口からウイルスが侵入する可能性があるため、コンドームの使用が推奨されます。


母子感染(垂直感染)

HCV感染者である母親から新生児への感染(垂直感染)は、出産時の血液や体液による接触が原因で発生することがあります。ただし、その確率は比較的低く、平均して5〜6%程度とされています。

また、HCV感染者の母親がHIVにも同時に感染している場合、HCVの母子感染率はさらに高くなることが知られています。

なお、授乳による感染は基本的にはないとされており、乳頭に出血や傷がなければ授乳は可能です。


感染しない行動:誤解を正す

HCVはあくまで「血液を通じて感染する」ウイルスであるため、以下のような日常的な接触で感染することはありません。

行動・状況 HCV感染の可能性
握手やハグ なし
同じ食器の使用 なし
空気感染(咳・くしゃみ) なし
一緒に風呂に入る なし
トイレの共用 なし
キス(出血がない場合) ほぼなし

これらの誤解が差別や偏見を生むことがあるため、正しい知識の普及が重要です。


感染予防のための具体的対策

医療・介護従事者における対策

  • 使い捨ての針や注射器を確実に使用する

  • 使用済み器具の安全な廃棄

  • 血液や体液に触れる可能性のある作業では手袋を着用

  • 針刺し事故発生時には直ちに医療機関で対応

一般市民における対策

  • 信頼できる施設でタトゥーやピアスを行う

  • 他人とカミソリ、歯ブラシ、爪切りなどを共有しない

  • 感染歴がある家族との生活では、出血した傷口の処置や絆創膏の廃棄に注意

  • 輸血や手術を受けたことがある場合は、自身の感染状況を検査する


世界と日本における感染状況と啓発の重要性

日本では、1990年代初頭までの輸血や医療処置により多くの感染が報告されており、現在でもHCVに感染しているにもかかわらず未診断の人が数万人規模で存在すると推定されています。

また、新たな感染の多くは静脈注射薬物の使用によるものであり、若年層にも感染が広がる懸念があります。したがって、学校や地域社会での正確な知識の普及と、感染者に対する適切な医療支援が不可欠です。


結論:血液を中心とする感染に対する科学的理解がカギ

肝炎ウイルスCの感染は、血液を介した明確な経路に限られていることが多く、日常生活での感染リスクは非常に低いということが科学的に証明されています。それにもかかわらず、誤解や偏見によって感染者が社会的に孤立することが少なくありません。

本記事で述べたように、感染予防には清潔な医療処置、日常生活での衛生管理、そして正確な知識の共有が不可欠です。また、HCVには高い治癒率を持つ抗ウイルス薬(DAA)が存在し、早期発見と治療によって、感染者の健康と生活の質は大きく向上します。

したがって、肝炎ウイルスCについての正しい理解と科学的認識を持つことこそが、感染の拡大を防ぐ最も効果的な手段であるといえるでしょう。


主な参考文献

  1. 厚生労働省. 「肝炎対策」. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html

  2. 世界保健機関(WHO). “Hepatitis C”. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/hepatitis-c

  3. 国立国際医療研究センター. 「C型肝炎の感染経路と予防」

  4. 日本肝臓学会. 「肝炎ウイルス検査と診療」

  5. Centers for Disease Control and Prevention (CDC). “Hepatitis C Questions and Answers for the Public”. https://www.cdc.gov/hepatitis/hcv/cfaq.htm


このような知識の普及によって、HCVに対する誤解を解き、感染者に対する社会的支援の強化が進むことを願っています。

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