CIDR(Classless Inter-Domain Routing)は、インターネット上でIPアドレスの割り当てとルーティングの方法を改善するための技術です。1980年代後半に登場し、従来のクラスベースのアドレス指定方法(クラスA、クラスB、クラスCなど)に代わるものとして広く採用されました。CIDRの導入により、IPアドレス空間の効率的な利用とインターネットルーティングのスケーラビリティが大幅に向上しました。
CIDRの背景と必要性
インターネットの成長とともに、IPアドレスの枯渇問題が顕著になりました。従来のクラスベースのIPアドレス体系では、大規模な組織に多くのIPアドレスを割り当てる一方で、小規模な組織には過剰なアドレスが割り当てられてしまうことが多く、無駄が生じていました。また、ルーティングテーブルの肥大化が進み、インターネットのルーターにかかる負荷が増大しました。

CIDRは、この問題を解決するために開発されました。CIDRでは、IPアドレスを「ネットワーク部分」と「ホスト部分」に分ける際の区切りを柔軟に指定でき、アドレス空間をより効率的に使用できるようになりました。
CIDRの基本的な構造
CIDRでは、IPアドレスの後ろに「/」を付け、その後にネットワークプレフィックスの長さを示すビット数を記述します。このビット数は、ネットワーク部分の長さを示しており、残りのビットはホスト部分に割り当てられます。例えば、「192.168.1.0/24」というCIDR表記は、192.168.1.0というIPアドレスがネットワーク部分で、その後ろの24ビットがネットワークを示すことを意味します。
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例1: 192.168.1.0/24
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192.168.1.0 というIPアドレスのネットワーク部分が24ビットで、ホスト部分は残りの8ビット
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このネットワークには、256(2^8)個のIPアドレスが含まれます(0〜255)。
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例2: 10.0.0.0/8
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10.0.0.0 というIPアドレスのネットワーク部分が8ビットで、ホスト部分は残りの24ビット
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このネットワークには、1677万7216(2^24)個のIPアドレスが含まれます。
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CIDRの利点
CIDRが導入されることによって、いくつかの重要な利点が生まれました。
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IPアドレス空間の効率的な利用
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従来のクラスベースのアドレス指定方式では、必要以上に多くのIPアドレスが割り当てられることがありました。CIDRでは、必要なアドレス数に応じて柔軟にネットワークのサイズを指定できるため、IPアドレスの浪費を防ぎます。
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ルーティングテーブルの縮小
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クラスベースのルーティングでは、各ネットワークごとに異なるエントリがルーティングテーブルに登録されますが、CIDRではネットワークのプレフィックスをまとめて指定できるため、ルーティングテーブルを効率的に管理できます。これにより、ルーターが持つべきルーティングエントリが減少し、インターネット全体のルーティング効率が向上します。
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インターネットのスケーラビリティ向上
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CIDRの導入により、インターネットのスケーラビリティが向上しました。ネットワークのプレフィックスを柔軟に指定できるため、ネットワークの階層構造が効率的に設計され、インターネット全体のアドレス空間をより適切に管理することができます。
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IPアドレスの再利用
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CIDRにより、不要になったIPアドレスを再利用することが容易になりました。例えば、企業がネットワークを縮小したり変更したりする際に、以前使用していたIPアドレスを他のネットワークに割り当てることが簡単にできます。
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CIDRとサブネットマスクの関係
CIDRは、従来のサブネットマスクの概念を進化させたものと言えます。クラスベースのサブネットマスクでは、例えば「255.255.255.0」のようにネットワーク部分とホスト部分を区別していましたが、CIDRではネットワーク部分の長さをビット単位で指定するため、より柔軟で効率的にIPアドレス空間を管理できます。
サブネットマスク「255.255.255.0」は、CIDR表記では「/24」と表されます。このように、CIDRではサブネットマスクを直接数値として記述することで、ネットワークの構造を簡潔に表現することができます。
CIDRによるアドレスのまとめ
CIDRによって、IPアドレスの割り当てとルーティングが大幅に改善されました。従来のクラスベースの方式では、アドレス空間の無駄遣いやルーティングの複雑化が問題となっていましたが、CIDRではそれらを解決する手段として、IPアドレス空間の効率的な利用とルーティングテーブルの縮小を実現しました。また、CIDRはIPv4におけるアドレス枯渇問題にも貢献しており、今後もインターネットにおける重要な技術として、引き続き使用されることが予想されます。
結論
CIDRは、インターネットの成長とともに生じたIPアドレスの枯渇やルーティングの肥大化といった問題を解決するために登場した技術です。これにより、IPアドレス空間の効率的な利用と、インターネットルーティングのスケーラビリティの向上が可能となり、インターネット全体の運用効率が大幅に向上しました。CIDRは、今後もIPアドレス管理における中心的な技術であり続けることでしょう。