医療分析

CRP血液検査の完全解説

CRP(C反応性タンパク)血液検査とは何か:その重要性、解釈、臨床的応用

CRP(C反応性タンパク)血液検査は、体内で炎症が起きているかどうかを評価するために用いられる極めて重要な臨床検査の一つである。CRPは肝臓で合成される急性期タンパク質であり、細菌感染症、外傷、慢性疾患、自己免疫疾患、悪性腫瘍など、さまざまな病的状態に対する炎症応答の一部として血中濃度が上昇する。

CRP値の測定は、その迅速性と信頼性、そして炎症の有無をリアルタイムで評価できることから、内科、外科、小児科、救急医療、腫瘍学、自己免疫疾患領域など幅広い分野で活用されている。


CRPとは何か:分子レベルでの理解

C反応性タンパクは、1919年に初めて発見されたタンパク質で、ストレプトコッカス属の細胞壁成分であるC多糖体と結合する能力からその名称が付けられた。これは五量体構造を持つカルシウム依存性レクチンであり、炎症時に肝臓でIL-6(インターロイキン6)をはじめとするサイトカインによって合成が誘導される。

CRPは補体活性化を介して免疫応答を調整し、病原体の除去や壊死組織の処理を促進する。したがって、その濃度の上昇は、免疫系が何らかの病的刺激に対して反応していることを示唆する。


CRP値の正常範囲と異常値の意義

CRP値(mg/L) 解釈
0〜1 正常、炎症の兆候なし
1〜3 軽度上昇、慢性疾患の可能性
3〜10 中等度上昇、軽度感染や慢性炎症
10〜100 急性炎症または感染症
>100 重篤な感染症、敗血症、重症炎症

注意点:CRPは非特異的マーカーであるため、その上昇が何によるものかは、他の臨床所見や検査と併せて総合的に判断する必要がある。


高感度CRP(hs-CRP)との違い

従来のCRP検査に加えて、心血管疾患リスク評価のために用いられるのが高感度CRP(hs-CRP)検査である。これはより微細なCRPの変化を検出でき、動脈硬化の進行や心筋梗塞の発症リスクの評価に利用される。

hs-CRP値(mg/L) 心血管疾患リスク
<1 低リスク
1〜3 中リスク
>3 高リスク

CRP上昇が見られる主な疾患と病態

  1. 急性感染症

     細菌性肺炎、尿路感染症、髄膜炎などではCRPが著明に上昇する。特に細菌感染ではウイルス感染に比べて著しく高値を示す傾向がある。

  2. 自己免疫疾患

     関節リウマチ、全身性エリテマトーデス(SLE)、潰瘍性大腸炎などの自己免疫疾患においては、疾患活動性の指標としてCRPが有用である。

  3. 悪性腫瘍

     進行がん患者ではCRPの慢性的な上昇がみられることが多く、特に膵がんや肺がん、悪性リンパ腫で高値を示す傾向がある。

  4. 外傷および術後状態

     手術後や骨折後にもCRPは上昇し、その推移をみることで術後合併症(感染など)の早期発見につながる。

  5. 炎症性疾患

     心筋梗塞、脳梗塞、膵炎などの非感染性炎症性疾患でもCRPは上昇する。


臨床現場におけるCRPの具体的活用例

感染症における抗菌薬の適応判断

例えば発熱を伴う上気道感染症の患者において、CRP値が1mg/L未満であればウイルス感染が疑われ、抗菌薬の投与は不要と判断される可能性がある。一方、40mg/Lを超えるような高値であれば細菌感染の可能性が高く、抗菌薬投与が検討される。

炎症性疾患の活動性評価

関節リウマチの患者において、治療前後でCRPをモニタリングすることで、炎症抑制の効果を数値として確認できる。また、薬剤変更や生物学的製剤の導入判断にも用いられる。

術後感染の早期発見

整形外科手術後、CRPは通常3〜5日でピークに達し、その後徐々に低下する。再上昇する場合は創部感染や骨髄炎などの合併症が疑われる。


CRPの限界と補完的検査

CRPはあくまで炎症の「存在」を示す指標であり、「原因」や「部位」を特定するものではない。そのため、以下のような補助的検査との併用が重要である:

  • 白血球数(WBC):感染症との鑑別に有用

  • 赤沈(ESR):慢性炎症の指標として

  • プロカルシトニン(PCT):重症細菌感染症の鑑別

  • IL-6:サイトカインストームなどの重症炎症の早期評価


最近の研究と新たな応用可能性

近年、CRPは単なる炎症マーカーとしてだけでなく、以下のような多角的な臨床研究においても注目されている:

  • がん予後予測:特に進行固形腫瘍において、CRP/Alb比(C反応性タンパクとアルブミンの比率)が予後指標として注目されている。

  • COVID-19重症化予測:COVID-19患者においてCRPが100mg/Lを超える場合、重症化や呼吸不全の発症リスクが高いとされている。

  • 精神疾患との関連:統合失調症やうつ病患者でCRPの慢性上昇が報告され、炎症と精神病理との関連性が研究されている。


日本におけるCRP検査の位置づけと保険適用

日本ではCRP検査は保険診療の枠組みで広く実施されており、1回の測定で数百円程度の診療報酬点数に相当する。救急外来から慢性疾患管理まで多岐にわたり使用され、特に在宅医療や高齢者医療では、簡易測定装置を用いた迅速検査も普及しつつある。


結論

CRP検査は、単純かつ迅速な方法で炎症の存在を捉えることができる、非常に有用なバイオマーカーである。その応用範囲は感染症から自己免疫疾患、心血管疾患、悪性腫瘍、さらには精神疾患の研究領域にまで広がっている。

ただし、その非特異性ゆえに、CRP単独での診断は困難であり、常に臨床症状や他の検査データと統合的に解釈する必要がある。科学的思考とデータに基づく診断の基礎として、CRPの活用は今後さらに拡大していくであろう。


参考文献

  1. Pepys MB, Hirschfield GM. “C-reactive protein: a critical update.” The Journal of Clinical Investigation. 2003;111(12):1805-1812.

  2. Sproston NR, Ashworth JJ. “Role of C-Reactive Protein at Sites of Inflammation and Infection.” Frontiers in Immunology. 2018;9:754.

  3. 日本臨床検査標準協議会(JCCLS)「CRP測定に関するガイドライン」2022年版

  4. 高木 康「C反応性タンパク測定とその臨床的意義」日本内科学会雑誌 第104巻 第2号 2015年

  5. 厚生労働省診療報酬点数表 令和6年度版(検体検査項目)

他に詳しく知りたい特定の用途や疾患があれば、続きとして深掘りできます。

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