国際的な英語能力判定試験であるIELTS(International English Language Testing System、アイエルツ)は、英語を母語としない人々の英語能力を測定するために設計された評価制度である。イギリスのケンブリッジ大学英語検定機構(Cambridge Assessment English)、ブリティッシュ・カウンシル(British Council)、およびIDP Education(IDP: IELTS Australia)の三者によって共同運営されており、現在では140カ国以上、1,600を超える試験会場で実施されている。日本においても留学、就職、移住などの目的でIELTSを受験する人々が増加の一途をたどっており、その重要性は年々高まっている。
IELTSの基本構造と試験内容
IELTSは「アカデミック・モジュール(Academic Module)」と「ジェネラル・トレーニング・モジュール(General Training Module)」の2種類に分かれており、受験者の目的に応じて選択される。前者は主に大学や大学院への進学を希望する者を対象としており、後者は英語圏への移住、就職、あるいは一般的な英語力の証明を求められる状況に対応している。

試験は以下の4技能にわたって構成されている:
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リスニング(Listening):約30分
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リーディング(Reading):60分
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ライティング(Writing):60分
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スピーキング(Speaking):11〜14分
リスニングとスピーキングは両モジュールで共通だが、リーディングとライティングの内容はアカデミックとジェネラルで異なる。
リスニングセクションの詳細
リスニング試験は4つのセクションからなり、各セクションに10問ずつ、計40問が出題される。音声は一度だけ流され、内容は日常会話、学術的な議論、モノローグ(例:観光案内、大学講義など)を含む。音声のアクセントはイギリス英語、オーストラリア英語、ニュージーランド英語、北米英語など、様々な英語圏のものが使用される。
出題形式には記述式、選択式、マッチング、穴埋めなどがあり、リスニング力と同時に情報処理能力も問われる。音声内容の理解だけでなく、要点の把握や数字、場所、日時の認識も重要である。
リーディングセクションの詳細
リーディングでは3つの長文が出題される。アカデミックでは専門性のある学術的記事が扱われ、ジェネラルではより日常的・実用的な文章(広告、ガイド、社内メモなど)が出題される。合計40問で、出題形式にはTrue/False/Not Given、選択問題、要約穴埋め、見出し選択などがある。
リーディングでは「速読」と「精読」のバランスが問われ、時間配分が非常に重要である。1つの長文に約20分しかかけられないため、スキミング(ざっと読む)やスキャニング(特定情報を探す)といった読解技術が試される。
ライティングセクションの詳細
アカデミック・モジュールではタスク1でグラフ、表、チャート、図などのビジュアル情報を説明する文章を150語以上で書く必要がある。タスク2では一般的な問題提起に対する意見論述(エッセイ)を250語以上で書く。ジェネラル・モジュールでは、タスク1で手紙文(依頼、苦情、申請など)、タスク2でエッセイを書く形式である。
このセクションでは構成力、論理的展開、語彙の多様性、文法の正確性が評価される。特にアカデミック・ライティングでは形式的・客観的な表現が求められ、事実に基づいた記述が望ましい。
スピーキングセクションの詳細
スピーキングは試験官と1対1で実施され、約11〜14分間で3つのパートに分かれる:
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パート1:日常生活に関する質問(自己紹介、趣味、仕事、勉強など)
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パート2:提示されたトピックについて1分間の準備後、2分間スピーチを行う
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パート3:パート2の内容に関連した抽象的、論理的な質問に対するディスカッション
評価基準は「流暢さと一貫性」「語彙の豊富さ」「文法的正確性」「発音」で構成される。暗記したスピーチではなく、自分の意見を自分の言葉で話すことが求められる。
スコアと評価方法
IELTSはバンドスコア制を採用しており、各セクションが0.5刻みの1.0〜9.0で評価される。4技能の平均点を取って総合スコア(Overall Band Score)が算出される。以下はスコアの意味の目安である:
バンドスコア | 評価基準 |
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9.0 | 熟練ユーザー(Native並) |
8.0〜8.5 | 非常に優れた英語運用能力 |
7.0〜7.5 | 十分な英語運用能力 |
6.0〜6.5 | 適切な英語運用能力 |
5.0〜5.5 | 中程度の英語運用能力 |
4.0〜4.5 | 制限付き英語運用能力 |
3.0 以下 | 非常に限られた英語能力または使用不可 |
多くの大学ではアカデミック・モジュールの総合スコアとして6.5〜7.5を求める傾向があり、一部の専門職(医療系、法律系)では8.0以上が要求されることもある。
試験の申込方法と費用
日本国内では主に以下の団体を通じて受験可能である:
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ブリティッシュ・カウンシル(British Council)
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IDP Education Japan
オンラインでアカウントを作成し、希望する試験会場と日程を選択することで申し込みが完了する。受験料は通常27,500円前後(2025年時点)で、試験形式により多少異なる。試験結果は通常、試験日から13日後に発行され、オンラインでも確認可能。
IELTSと他の英語試験の比較
日本ではTOEFLやTOEICも広く知られているが、それぞれの特徴と使い分けが存在する。
試験名 | 主な用途 | 評価方法 | スピーキング |
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IELTS | 留学、移住、専門職資格申請 | バンドスコア制 | 試験官との対話 |
TOEFL | 大学進学(特に米国) | 120点満点 | PCで録音回答 |
TOEIC | ビジネス英語力の証明 | 990点満点 | オプション試験 |
特にIELTSは英連邦諸国(イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド)への移住・留学において最も信頼性の高い証明として扱われる。
学習戦略と準備方法
IELTSは単なる英語試験ではなく、各セクションに応じた特有の対策が必要である。例えば:
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リスニングでは英語ニュースやポッドキャストを活用し、複数アクセントに慣れる
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リーディングでは過去問題を使い、設問形式と時間配分に慣れる
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ライティングでは模範解答を分析し、構成力と語彙力を高める
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スピーキングでは実際に声に出して練習し、フィードバックを受ける
有料・無料の教材、オンラインコース、対面のIELTS対策講座なども活用できる。特に模擬試験を繰り返すことで、本番環境への慣れと時間管理能力を養うことが可能である。
結論
IELTSは、単なる英語能力の証明を超えて、国際的なコミュニケーション力を測るための総合的な試験である。日本の受験者にとっては、進学やキャリアの可能性を広げるための重要なツールであり、的確な準備と継続的な学習によって高得点を目指すことが可能である。評価の公平性、国際的な信頼性、多様な使用目的に対応する柔軟性という点で、IELTSは今後もグローバル社会で不可欠な資格としてその地位を保ち続けるであろう。
参考文献・出典:
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IELTS公式サイト(https://www.ielts.org/)
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ブリティッシュ・カウンシル日本支部(https://www.britishcouncil.jp/exam/ielts)
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IDP Education Japan(https://ieltsjp.com/)
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Cambridge Assessment English
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日本における留学機関各種情報(文部科学省留学支援サイト)