各国の経済と政治

イラク歴代大統領一覧

イラクの歴代大統領に関する完全かつ包括的な日本語の記事を以下に示す。この記事では、イラクが王政時代から共和国時代を経て現在に至るまでに登場したすべての国家元首の一覧と、それぞれの大統領が果たした歴史的役割、政権交代の背景、主要な政策、ならびにイラク現代史との関係について詳細に論じる。


イラクの国家元首:王政から共和国へ

イラクは1921年にイギリスの委任統治領から独立した後、王政国家として歩み始めた。当初はファイサル1世が国王に即位し、立憲君主制の下で国家が運営された。しかし1958年の軍事クーデターによって王政は崩壊し、イラクは共和国に移行する。その後、軍人政権やバアス党政権を経て、現在の連邦共和制に至るまで、政変と戦争、占領、民族対立などが重なり、激動の政治史が形成された。


王政時代の元首(1921年〜1958年)

年代 氏名 役職 備考
1921-1933 ファイサル1世 国王 ハーシム王朝の初代国王。サウジアラビア出身の王族。イギリスの支援を受けて即位。
1933-1939 ガージー1世 国王 ファイサル1世の息子。若年での即位、1939年に不慮の事故死。
1939-1958 ファイサル2世 国王 ガージー1世の子。幼少期は摂政アブドゥル・イラーフが統治。1958年のクーデターで処刑。

共和国時代の歴代大統領(1958年〜現在)

アブドゥル・カリーム・カーシム(1958年〜1963年)

1958年7月14日、軍人アブドゥル・カリーム・カーシム大佐によるクーデターで王政が打倒され、イラクは共和国へと変貌を遂げた。カーシムは首相と大統領を兼任する形で実権を掌握し、農地改革、女性の権利拡大、非同盟運動への参加などを推進。しかし、クルド人問題やバアス党との対立が深刻化し、1963年に軍事クーデターによって処刑された。

アブドッサラーム・アーリフ(1963年〜1966年)

カーシム政権を打倒した後に大統領に就任。アラブ民族主義を掲げ、エジプトのナセル主義と歩調を合わせたが、国内の混乱を制御しきれなかった。1966年に飛行機事故で死亡。

アブドゥル・ラフマーン・アーリフ(1966年〜1968年)

前任者の弟で、保守的で温和な人物。政治的には弱体であり、1968年にバアス党による無血クーデターにより失脚。

アハメド・ハサン・アル=バクル(1968年〜1979年)

バアス党主導の政権樹立者。国家安全機構の整備、国営化政策、ソ連との接近などを進めた。副大統領であったサッダーム・フセインが実権を徐々に掌握し、1979年にアル=バクルは退任に追い込まれる。


サッダーム・フセイン(1979年〜2003年)

20世紀末におけるイラクの象徴的な指導者。圧倒的な権力を持ち、国内では恐怖政治を敷き、国外ではイラン・イラク戦争(1980〜1988年)、クウェート侵攻(1990年)、湾岸戦争(1991年)を引き起こす。2003年のアメリカ主導のイラク戦争によって政権は崩壊。逮捕され、2006年に処刑された。


占領期と暫定政権(2003年〜2005年)

アメリカと連合軍による占領下、イラク統治評議会(IGC)が設立され、交代制で議長が国家元首の役割を果たした。

年代 氏名 備考
2003-2004 ガーズィー・ヤーワル 統治評議会メンバー、スンナ派指導者
2004-2005 ガーズィー・ヤーワル 暫定政府の大統領、移行政府設立の立役者

民主化後の歴代大統領(2005年〜現在)

ジャラール・タラバーニー(2005年〜2014年)

クルド系として初のイラク大統領。長年にわたりクルディスタン愛国同盟(PUK)を率いた人物。連邦制の維持と民族融和を推進。イラク民主化の象徴とされたが、晩年は健康問題で政治的影響力が低下。

ファウアード・マアスーム(2014年〜2018年)

同じくクルド系で、PUKのベテラン。タラバーニーの後継者として穏健派の姿勢をとり、IS(イスラム国)との戦いを背景に国家安定を模索した。

バルハム・サーレハ(2018年〜2022年)

技術官僚的手腕を持つクルド人政治家。経済改革と国際関係の改善に取り組むが、反政府デモや汚職問題の処理に苦慮した。アメリカとイランの間で中立を模索。

アブドゥル・ラティーフ・ラシード(2022年〜現在)

クルディスタン地域出身の技術者で、イラク第9代大統領。就任当初から国内のインフラ整備、クルド自治政府との関係改善、外国直接投資の誘致に取り組んでいる。


イラク大統領の役割と権限

2005年に施行された新憲法により、イラクは議院内閣制的な構造となり、大統領の役割は主に儀礼的となった。国家元首としての役割を担いながらも、実権は首相に集中しており、大統領は法案の署名、恩赦の承認、国際条約の署名、三権の調整といった限定的な権限を行使するに留まっている。

権限項目 説明
法律の署名 議会で可決された法案に署名して正式な法律にする。
外交関係 大使の任命・接受、条約の署名など儀礼的・外交的役割を担う。
国軍の最高司令官 形式上の軍最高責任者だが、実際の指揮権は首相および国防省にある。
恩赦の発令 司法判断に基づいた恩赦を発令できる。

民族構成と大統領の出身背景

イラクの大統領職は2005年以降、主にクルド人が占めているが、これはシーア派(約60%)・スンナ派(約20%)・クルド人(約17%)という民族・宗派構成に基づく「権力分配の暗黙の了解」によるものである。

職務 出身民族 担当する宗派
大統領 クルド人 スンナ派または世俗派
首相 アラブ系 シーア派
国会議長 アラブ系 スンナ派

結論

イラクの大統領制度は、王政崩壊後の混乱から始まり、軍政と独裁を経て、現在の議会制民主主義的枠組みに到達するまで、数々の困難を経験してきた。その歴史は、単なる政権交代の連続ではなく、イラクという多民族国家がいかに統治構造を模索し、国家としての一体性を維持しようとしたのかという壮大な物語でもある。

民主化後の歴代大統領たちは、それぞれが異なる民族的・宗教的背景を持ち、国内外のバランスの中で統治を試みている。今後のイラクにおいても、大統領の役割は象徴的であっても、その人物が国家統合の象徴である限り、極めて重要な政治的存在であり続けるだろう。


※参考文献:

  • Marr, Phebe. The Modern History of

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