オランダはその高い教育水準、国際的な環境、そして多文化的な社会で世界中の学生を惹きつける魅力的な留学先である。オランダの大学は英語で提供される学位プログラムの数が非常に多く、特に欧州連合(EU)外からの留学生にとって、選択肢の豊富さは魅力的である。しかしながら、オランダにおける留学には経済的な準備が欠かせない。本稿では、授業料、生活費、奨学金制度、保険費用、住居費、交通費、就労機会まで、オランダ留学に必要な費用について科学的かつ詳細に解説する。
授業料の構造:EU圏内と圏外での相違
オランダの大学では、学生の国籍によって授業料が異なる。EU/EAA加盟国の学生と、それ以外の国からの学生とでは支払うべき金額に大きな開きがある。

分類 | 年間授業料(概算) | 説明 |
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EU/EAA国籍の学生 | 約2,530ユーロ(2025年度) | 政府が定める法定授業料(Statutory fee) |
非EU/EAA国籍の学生 | 約6,000〜20,000ユーロ | 大学や専攻分野によって異なる「制度外授業料(Institutional fee)」 |
たとえば、アムステルダム大学(University of Amsterdam)では、心理学や経済学などの学士課程で非EU学生は年間9,000〜12,000ユーロの授業料を支払う必要がある。一方で、医療系や工学系の専攻では、年間18,000ユーロを超えるケースもある。
生活費の実態:都市部と地方の違い
オランダの生活費は居住地によって大きく変動する。アムステルダム、ユトレヒト、ロッテルダムなどの大都市では生活費が高く、地方都市では比較的低い傾向がある。
費目 | 月額平均(ユーロ) | 備考 |
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家賃 | 400〜800ユーロ | 学生寮は安価だが、都市部では1,000ユーロを超えることもある |
食費 | 200〜350ユーロ | 自炊すれば節約可能 |
通信費・インターネット | 30〜50ユーロ | プランにより異なる |
交通費 | 40〜100ユーロ | 学割を利用可能 |
雑費・娯楽 | 100〜200ユーロ | 個人差あり |
合計で、オランダでの月間生活費はおおよそ900〜1,400ユーロ、年間で約10,800〜16,800ユーロが目安となる。
住居に関する詳細:学生寮とシェアハウス
オランダでは住宅不足が深刻化しており、留学生の住居確保は課題のひとつである。学生寮(student housing)は最も経済的であるが、部屋数に限りがあるため、早期の応募が必要である。多くの留学生は民間アパートでのシェアハウスを選択する。
住居タイプ | 月額費用 | 特徴 |
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学生寮(Kamer) | 約350〜600ユーロ | 家具付き、共用キッチン・トイレが多い |
シェアハウス | 約400〜800ユーロ | 他の学生と共有 |
スタジオ(一人暮らし) | 約700〜1,200ユーロ | 家賃高騰、都市部では競争が激しい |
家具付きアパートを選べば初期費用を抑えられるが、家具なしの部屋は安価な反面、初期投資が必要になる点に留意したい。
健康保険とビザ費用
オランダで1年以上滞在する場合、留学生も健康保険に加入することが義務付けられている。EU外の学生は、特別な学生用保険(AON Student Insuranceなど)に加入するケースが多い。
費目 | 金額 | 補足 |
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学生用健康保険 | 年間500〜700ユーロ | 医療費、事故、責任保険をカバー |
居住許可申請費 | 約210ユーロ(IND費用) | 初回申請時に必要 |
保険未加入によるトラブルを避けるためにも、信頼性の高い保険会社を選ぶことが重要である。
奨学金制度:オランダ政府と大学による支援
非EU留学生向けの主な奨学金制度には以下のようなものがある。
奨学金名 | 内容 | 支給対象 |
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Holland Scholarship | 一回限り5,000ユーロ | 成績優秀な非EU留学生 |
Orange Tulip Scholarship | 授業料一部〜全額免除 | 特定の国に限定(日本含まれる年もある) |
Erasmus+ | 滞在費・交通費支給 | 交換留学生、短期研修対象 |
大学独自奨学金(VU Amsterdam、TU Delftなど) | 最大50〜100%授業料免除 | 応募時に成績・動機書が重視される |
これらの奨学金は非常に競争率が高いため、学業成績のほか、英語力(IELTSやTOEFLのスコア)、動機書、推薦状など、出願書類の質が合否を大きく左右する。
学生ビザと就労制度
オランダでは学生ビザ(MVV)で就学する場合、週16時間までのパートタイム労働が許可されている。夏休み期間中はフルタイムでの就労も可能である。
内容 | 詳細 |
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労働時間制限 | 週16時間まで(期間中)、夏季は制限なし |
雇用者の条件 | 雇用主が就労許可(TWV)を取得する必要あり |
時給の目安 | 約12〜15ユーロ |
代表的な仕事 | 飲食業、物流倉庫、清掃、家庭教師など |
労働許可の手続きが必要である点、オランダ語が必要な仕事が多い点など、言語力や職種選びに注意が必要である。
教材費とその他の学習関連費用
学費以外に、学習に必要な教材費や文房具費用も発生する。大学によってはオンライン教材が主流のところもあり、コストを抑えることが可能であるが、医学、工学、法律などの分野では高価な専門書を購入する必要がある。
費用項目 | 年間目安 | 備考 |
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教材費 | 約300〜700ユーロ | 電子書籍や中古書籍で節約可能 |
実験費・フィールドワーク費 | 100〜500ユーロ | 専攻による(自然科学・建築など) |
印刷・コピー代 | 約50〜100ユーロ | 大学内での印刷サービスあり |
総合的な年間費用の試算
全体の費用を統合的に見てみると、オランダで1年間大学に通うには以下のような予算が想定される。
区分 | EU学生 | 非EU学生 |
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授業料 | 約2,530ユーロ | 約6,000〜20,000ユーロ |
生活費 | 約11,000〜17,000ユーロ | 同様 |
保険・ビザ関連 | 約700〜1,000ユーロ | 同様 |
教材費 | 約300〜700ユーロ | 同様 |
合計 | 約14,500〜21,000ユーロ | 約18,000〜 |