国の地理

ミャンマーの主要な河川

ミャンマー(旧ビルマ)は東南アジアに位置し、豊かな自然と多様な地形を有する国である。その地理的特徴の中でも、ミャンマーを形作る主要な要素として、国土を南北に貫く数多くの大河川が挙げられる。これらの河川は、農業、水運、灌漑、漁業、さらには文化や宗教にまで深く関与しており、国の歴史や経済において極めて重要な役割を果たしてきた。この記事では、ミャンマーにおける最も長い10本の川を、その長さ、流域、経済的・文化的重要性に焦点を当てて詳細に紹介する。


1. エーヤワディー川(Ayeyarwady River)

全長:約2,170 km

ミャンマーで最も長く、最も重要な河川であるエーヤワディー川は、チベット高原に端を発し、ミャンマー北部を南下してアンダマン海に注ぐ。古来よりこの川は、農業灌漑、水上交通、漁業、さらには宗教儀式に至るまで、あらゆる面でミャンマーの人々の生活と密接に関わってきた。特にバガン遺跡群の近くを流れることから、観光資源としても重要な役割を果たしている。乾季でも水量が豊富で、船舶の航行が可能であるため、国内物流の大動脈とも言える。


2. チンドウィン川(Chindwin River)

全長:約1,207 km

エーヤワディー川最大の支流であるチンドウィン川は、ミャンマー北西部を源流とし、山岳地帯を経て南東方向に流れる。最終的にはモンユワ近郊でエーヤワディー川と合流する。流域は森林が豊かで、チーク材や貴重な鉱物資源の搬送ルートとして歴史的に利用されてきた。雨季には洪水の危険もあるが、地域住民にとっては重要な交通・生活路である。


3. サルウィン川(Salween River)

全長:約2,815 km(うちミャンマー国内:約1,400 km)

全長で見るとミャンマーで最も長い川の一つだが、実際の源流は中国雲南省にあり、ミャンマー国内においては約1,400 km流れている。カレン州やシャン州などを通り、険しい峡谷を形成しながらタイとの国境近くを南下し、最終的にはアンダマン海に注ぐ。サルウィン川は自然の多様性が高く、近年ではダム建設計画が環境保護団体から懸念を呼んでいる。急流が多く、航行には適していないが、自然環境保護の象徴的存在となっている。


4. シッタン川(Sittaung River)

全長:約420 km

中央部のカヤ州からバゴー地域を流れ、モン州のマルタバン湾に注ぐ中規模の川である。全長こそ短いものの、流域に広がる水田地帯はミャンマーの穀倉地帯の一部を構成しており、稲作や水産業にとって不可欠である。潮の影響を受けやすく、河口部では逆流現象が見られる。


5. タンルウィン川(Thanlwin River)

全長:約2,815 km(サルウィン川の別名)

上述のサルウィン川は、ミャンマー国内では「タンルウィン川」とも呼ばれており、同一の河川である。文献や地域によって異なる名称で呼ばれるが、ミャンマーの地元住民にとってはタンルウィンの名がより馴染み深い。この名称でも重要な川として位置づけられており、再度記すに値する。


6. ミッタン川(Myitnge River)

全長:約370 km

シャン高原を源とし、マンダレー近郊でエーヤワディー川に合流する支流である。流域には発電用のダムも存在し、都市部への電力供給や灌漑にも利用されている。特にインワ橋などの歴史的建造物が架かることで知られており、文化的にも意義深い。


7. シュウェリ川(Shweli River)

全長:約340 km

中国国境付近を源とし、北部のラシオ周辺を流れてエーヤワディー川に合流する河川である。中国側では「瑞麗江」として知られており、越境貿易やエネルギー開発が進む地域である。農業のほか、流域における小規模な水力発電プロジェクトが進められている。


8. ダウ川(Dawna River)

全長:約290 km

タイとの国境地帯に位置し、比較的短い川ではあるが、山岳地帯を流れる清流として知られている。流域は主に森林に覆われており、野生生物の生息地としても重要である。


9. ナマン川(Namwan River)

全長:約280 km

ミャンマー北東部のカチン州に位置し、中国との国境近くを流れる比較的小規模な川である。地元ではナマン川流域に多くの少数民族が居住しており、川は農業・飲料水の供給源として利用されている。


10. モン川(Mu River)

全長:約275 km

チンドウィン川の東側を流れ、ミャンマー中部でエーヤワディー川に合流する河川である。流域には乾燥地帯が広がっており、灌漑事業により農業生産性の向上が図られている。ダム建設や水資源管理に関する取り組みも活発であり、国家的な水資源政策において重要な位置を占める。


河川の比較表

河川名 全長(km) 主な流域地域 合流先・注ぎ先 主な利用用途
エーヤワディー 約2,170 国土中央部~南部 アンダマン海 航行、灌漑、漁業、観光
チンドウィン 約1,207 北西部 エーヤワディー川 林業、鉱業、交通
サルウィン 約1,400 シャン州~カレン州 アンダマン海 環境保護、生物多様性
シッタン 約420 中央部~南部 マルタバン湾 稲作、漁業
ミッタン 約370 シャン州~マンダレー エーヤワディー川 発電、灌漑
シュウェリ 約340 北部(中緬国境) エーヤワディー川 貿易、水力発電
ダウ 約290 国境付近の山岳地帯 地域河川へ 森林保護、生態系維持
ナマン 約280 北東部 地域河川へ 農業、生活用水
モン 約275 中部乾燥地帯 エーヤワディー川 灌漑、水資源管理
タンルウィン ≒サルウィン シャン州~カレン州 アンダマン海 環境・文化保全

これらの川は単なる自然地形にとどまらず、ミャンマーという国の文化、経済、社会構造に深く根差した存在である。今後、気候変動や経済開発の進展により、これらの河川を巡る状況も大きく変化する可能性がある。持続可能な開発を目指す上で、これらの川の保護と有効利用は今後ますます重要になるだろう。

参考文献:

  • Myanmar Ministry of Natural Resources and Environmental Conservation, 2021

  • United Nations ESCAP: “Atlas of the Salween River Basin”, 2018

  • FAO AQUASTAT Database, Myanmar Country Profile

  • Asian Development Bank, Myanmar River Navigation Strategy, 2020

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